2話 手術・首輪2
「やっ。無事に手術は終わったみたいだな。」
私と同時期に入隊したチャラ男、刻野レンがひらひらと手を振りながらこちらに向かってきた。
「えっと…刻野レン君?」
「水臭いなぁアカリちゃん。レンでいいよ。」
「じゃ、じゃあレン君。」
やたらとグイグイ来る。そういえば入隊試験の休憩中などもこんな感じだった気がする。
ふと、レンの首に目をやると私と同じ首輪が取り付けられていた。
「レン君も手術、終わったんだ。」
ああ。とレンは頷く。
「ようやく俺も内界防衛隊って感じだ。」
レンは展望台の柵に肘を置き、景色を眺める。その真っ直ぐと都市を見つめるレンの瞳にはどことなく強い意志を感じる。
「ところでアカリちゃん、人体活性化装置の説明は受けた?」
「え?まだだよ。」
「そっか。俺もまだなんだ。」
レンはくるっと反対側へ向き直り、
「じゃあさ、一緒に説明を受けに行こうよ。」
半ばイエスと言わざるを得ない感じだが、身体にも慣れてきたし、これからやることもないのでとりあえず私は頷いた。
「う、うん。わかった。」
「よーし!んじゃ行こっか!」
レンはそう言い、私を連れて基地の中へと向かった。
私とレンは再びはレストルームに訪れた。すると、ハカセがこちらに気づき、
「やぁ、二人とも身体の方はもう大丈夫かい?」
「もう万全っすよ!ハカセ!」
「はいっ。大丈夫ですっ。」
レンはガッツポーズをして見せ、続いて私も軽く頷いた。
「そう、それは何よりだよ。」
それを見て、ハカセはにこっと微笑んだ。
「それじゃあ人体活性化装置について説明しようか。と言ってもメディアや試験でも聞いたことはあると思うけど、まずはこれについて知っていることはあるかな?」
するとレンは勢いよく右手を挙げる。
「はい!身体能力を飛躍的に上げる装置です!」
「そう。それじゃあその起動方法は?」
私は小さく手を挙げ、
「指紋認証…です。」
「正解。そこまで分かっていればもう簡単、手術の時点で生体登録はされているから、あとは右側面のパネルに指を当てるだけ。」
ハカセは自身の首の右側を指でトントンと叩く。私とレンは頷き、首輪の右側に指を当ててみる。
すると、ピピッと電子音が鳴り、まるで首から足にかけて取り付けられていた重りが徐々に消えていくように身体が軽くなってゆき、次第に視覚や聴覚、更には微かな空気の流れさえ肌で感じ取れそうなほど、身体の全てが研ぎ澄まされる。
ふと、ガラス棚に映った自分自身を見てみると、瞳が薄紅色にぼんやりと発光していた。
「すげぇ!これが人体活性化装置による超感覚‼︎」
レンは興奮を隠せない様子だ。かくいう私も、今までに経験したことのないこの感覚に感動がこみ上げていた。
「身体が綿みたいに軽い…今なら空だって飛べそう…!」
「あはは。それは言い過ぎじゃないかな?」
私のコメントにハカセは苦笑いする。
「でも実際にかなりの高さを跳べるようになるし、全身の筋力も格段に上がるから力加減を誤らないようにちゃんと訓練しておいてね。」
おお…。と感動しながらも、身体を制御出来ずに暴走してはいけないので、私達はもう一度パネルに指を当て、装置をダウンさせる。
「どうかな?使い方は意外と簡単だったでしょ?」
ハカセはにこっと微笑む。そこでレンが素朴な疑問を投げかける。
「なんというか…時間を開けてからの説明だった割には結構あっさりしてるんすね。これだったら別に手術後すぐでもよかったんじゃないっすか?」
「まぁ念のため、かな。」
「念のため?」
「うん。人体活性化装置は身体に負担をかけるからね。下手したら死亡する場合もある。」
「「えっ⁉︎死亡⁉︎」」
私とレンは死亡というワードにギョッとする。
「あはは、驚かせちゃったね。人体活性化装置の一日の総稼働限界は約三時間。それさえ守っていれば大丈夫だよ。でも無理は絶対に禁物だからね。」
「もー。ハカセも人が悪い。」
レンは胸を撫で下ろす。
「ハハごめんごめん。さ、僕からの説明は以上だよ。特に質問が無ければ次のステップへ行こうか。」
次のステップ?と、私とレンはキョトンと首を傾げた。するとハカセは指をピンと立て、
「それはもちろん実用訓練さ!」