82/84
master
磔にされた貴女の時が枯れてゆく
太陽が目覚め 月が眠り
鳥が囀り 獣が咆哮する 止められたのは貴女だけ
貴い贄と引き替えられたこの命 主人を失ったこの体は正に蝕まれた機械
現実から逃げたくて 思い出が刻まれた場所を辿る
空虚に抱き締められ 何もかもどうでもよくなっていた
彼女が隣にいたなら 一喝してくれただろうか
きっと涙している 空は黒く染まり大粒の雨が降り注ぐ
窓辺での出会いはただの偶然か 鳩が落とした一枚の紙切れ
紛れもなく彼女の筆跡 文面に込めた願いは最後の命
『時は変われど 私とあなたはきっと変わりはしない
どちらかが灰となっても どちらかが幸せなら
何処にいても 幸せなのでしょう』
わかっていたのだろうか カウントダウンが始まっていたことを
理解っていたのだろうか 私の選ぶ道は必ずひとつだということを
静かな雨が降る そのまま原型を残さず消えてしまえばいい
肉体と精神を切り離せと言うのなら 喜んで受け入れよう
時が枯れる日がくるまで 志を引き継いでみせよう
その罪を終えたら 静かに受け入れて欲しい
男と化した愚かな この従者を




