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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第4章 出張からの出張は最早拉致に近い件について
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95:解放許可

「――【解放許可ベフライウング】」



 シルム家の屋号を表すエンブレム。

 それぞれの装備に付けられたその印が微かに明滅した。


 その効果は言われずとも理解できた。

 纏うマナの質が、量が明らかに変化したから。



「いいのか?! イデアル!」



「仕方ないさ。……彼女たちに手加減はできないよ」



「っし! 出し惜しみは無しだ!」



 ルスカは【治癒】を受けていた肩をグルンと回した。

 対照的にイデアルの涼やかな瞳は決意を帯びる。



「……すまないが枷を外させて貰ったよ。いつもは放っておくと被害が大きくなるものでね。練れていたマナだけでも5割ぐらいかな。つまり今は――」

「とんでもなく強いってことだぁ!」



 爆ぜた足元。

 言葉を置き去りにする。


 再三の手痛い突き返し。

 しかし今回も堂々の正面突破。


 相対するはメルリンド。



 ――早いっ!



「【風球】!」



 牽制する魔法。


 風の刃に血飛沫が舞う。

 だが、足は止まらない。


 間髪入れず迫る切り返しの刺突。


 刹那の見切り。

 切っ先は紅髪をかすめるのみ。



「遅せぇ!」



 それは超速の軌道修正からの捨て身のタックル。



「グッ!」



 ダメージは軽微。

 しかし運動エネルギーは軽々とメルリンドを浮かし、諸共に吹き飛ぶ。



「まずはてめぇだ! タイマンと行こうぜぇ!」



「【疾風の心得(ハヤテ)】」



 吹き飛びながらも煌めく剣戟と拳戟。

 訪れたのは戦地の分断。



 ◇



「メル様!」



「シェフィ。あっちはほっとけ」



「……分って貰えたかい? 無用な戦いはこちらとしても――」



「随分とおしゃべりなんだな。【剛力パワーゲイン】!」



 大剣が大地を撫でる。

 弾き飛ばされた大量の土、石、木の混じった塊が飛ぶ。



「【九重】」



 作られた障壁は接近する物を即座に打ち落とした。



「こんなもので―― ッ!」



 見えたのは歩を進めながらのスイング。

 木が圧し折られながら根ごと飛ぶ。

 押し寄せる大量の土塊。


 軽々と振り回す大剣が通った後には、深く広い溝が掘られていく。


 土石流の如き圧倒的な物量にうず高く積まれる土砂。

 その物言わぬ丘陵の前、掘削が止まった。


 徐に大上段に構えられる大重量の大剣。



「【砕刃ブレイクエッジ】」



 マナを纏った大剣を振り下ろす。

 ただそれだけの動作。


 たったそれだけの動きで響く地響き。

 まるで砂山を踏み潰すように、丘陵が真ん中から圧潰した。


 その中心。

 球体が残る。



「がっはは。良い面になったじゃねぇか。やる気は出たか?」



 顔から服から真っ黒に汚れたガノンは豪快に笑う。

 障壁に囲まれた中、同じく全身黒く薄汚れたイデアルが佇んでいた。


 はっと気が付いたように胸の内ポケットを探る。


 手には光る何か。

 ほんの少しだけ付着した土汚れを念入りに払うと、満足したのか同じ場所に戻した。



「……これはねルシアナがくれたお守りなんだ」



「あ?」



 胸に置いていた手。

 片手剣を握り、その切っ先がガノンへと向けられる。

 その動作は対話の終了を意味していた。



「君には妹はいるかい?」



「いねぇが? 急にどうした」



「――じゃあ埋めても悲しむ妹はいないということだね」



 ――【重縛牢】



 圧し掛かる荷重。ミシミシと音を立てる周囲。

 その中においてもガノンは平然と立ち続ける。



「おいおい。あいつの腕をやったのはお前さんだろ? ――こんなもんじゃねぇよなぁ!」



 ぎらついた瞳を輝かせ、重荷重を物ともせず駆ける。


 唸る大剣と軋む大地。

 出現したのは物理的な戦地の懸絶。



 ◇



 凄まじい音と風に舞う土埃。

 極めて精密なマナ操作によって作られた障壁の中、1人と1匹は何事もないように横たわる。


 その傍らに立つ魔導士メイジは目を細めた。



「お久しぶりね。好戦的な人たちには困ったものねぇ。どうかしら? わたくし達は休んでいては――」



「失礼ですが、どこかでお会いしたことがありますでしょうか」



「なっ……あら大変だわぁ。若いように見えて記憶力が衰えているのではなくてぇ?」



「ご心配痛み入ります。どうやら地べたに這いつくばる老いた蛾までは記憶出来ていないようです」



「っ! 老いた、蛾? ……い、意外ねぇ。そういうゲテモノがお好きなように見えるのにぃ」



「自信を持つことは美徳ですが、()()()()好かれていると過剰に自信を持つことは俗悪と言わざるを得ません」



「……相変わらず苛立たせることが得意なようねっ! 【石弾】!」



「【氷弾】。あぁ失礼いたしました。その拙い魔法は『卑劣』のシトゥルーナ様ですね。お変わりないようで何よりです」



「そういう、所よっ! 【烈火槍】!」



「【銀雪花】。以前申し上げましたが、この森で火炎魔法は禁止となっております。記憶力の衰えについて精密検査をお勧めします」



「ああもう! ペイリ! 援護なさいっ!」



「まだ演奏中なん――ひぇ! こ、こわいよシトゥ!」



 陽光を焦がす火炎が、大地を穿つ大礫が、そして眩い氷塊が躍る。

 現れたのは焔立ち、氷結する戦地の境界。

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