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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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9:すまない。それは許可できない

「……すまない。それは許可できない」



 メルさんは形のいい眉を少し曲げ、申し訳なさそうに答えた。



「……森に行くのがですか?」



「観光は好きにしてもらって構わない。ただ……コイズミ殿がいた雷鳴山の麓の森、【陽光の森】は8級の【迷宮(ダンジョン)】に指定されているのだ」



「ダンジョン?!」



「あぁ。正規に入るには【8級冒険者】以上の資格がいる。もしくは【8級冒険者】以上のパーティーに護衛を頼まなければならない。それに【陽光の森】では原則火の魔法は禁止されている。実質は近接職のみで挑まなければならないのだ」



迷宮ダンジョンは怖いところなんですよぉ。油断していると大怪我をしてしまいます」



 曰くこの世界には迷宮ダンジョンが存在する。


 ……どうしようワクワクが止まらない。



 ◇



 何らかの理由で魔物や魔獣が大量に出現するようになった場所を総じて迷宮ダンジョンと呼ぶ。

 特に古代の遺跡などのマナが溜まりやすいところは迷宮ダンジョンになりやすいそうだ。


 巨大な魚の腹の中が迷宮ダンジョンになっていたり、周期的に成長と破滅、再生を繰り返す迷宮ダンジョン。入るたびに変化して何が起こるか分からない【不思議の迷宮(ミステリーダンジョン)】と呼ばれるものまであるらしい。


 そしてこの世界の人々は迷宮ダンジョンに夢を追いかける。

 ある者は誰も見たことのない未知を求めて、またある者は迷宮ダンジョン踏破の名声を求めて。

 強力な魔物や魔獣のドロップ品や古代の遺産(アーティファクト)などで一攫千金を狙う者も少なくない。


 迷宮ダンジョンの中でも魔物が出現しやすい場所はマナスポットと呼ばれる。

 魔物はマナが溜まっていれば壁や地面、水たまりからも生まれるというから興味深い。


 昔は魔物が迷宮ダンジョンから溢れ出て被害が出ることもあったようだが、今ではある種の“恩恵”のように扱われている。

 迷宮ダンジョンの近くには都市が出来上がり、魔石やドロップ品などが主な産業になっている迷宮都市も存在する。


 迷宮ダンジョンは10級から1級、さらに上は特級とランク分けされており、数字が小さいほど危険になる。これは冒険者の階級に即した値だろう。


 ただ単純に出現する魔物などが強い場合だけでなく、周辺環境が厳しい場合でもランクが高くなるため複雑だ。


 余談だが、そんな複雑なランクは迷宮ダンジョン鑑定士なるものが決めているらしい。

 一流の迷宮ダンジョン鑑定士などは迷宮ダンジョンになりそうな場所が事前に分かるそうだ。

 どの世界にも面白い職があるもんだなぁ。


 分かった事はあの森は危ない場所だったようだ。

 そんなに魔物にも魔獣にも出会わなかったと思うのだが……

 白犬達に会いに行くには【8級冒険者】になるか、護衛を頼むしかない。



「護衛を頼むと、どの位の値段になりますか?」



「我ならば報酬など要らぬぞ!」



「メルちゃん反省してないなぁ。ふふっシェフィちゃんに言っちゃいますよぉ」



「ローザっ 冗談だ! おほんっ! 【陽光の森】護衛クエストの相場としては1日3万ゴルぐらいだったと思う」



「3万……」



 住み込みで宿屋の仕事をしながら、仕事の休みの日に森に行って釣りをしながら探そうと思っていた。

 俺にとって3万ゴルは大きすぎる出費だ。


 それに先ほどの説明からして、誰か冒険者パーティーを連れて白犬達を発見できるだろうか?


 可能性が高いなら1人で向かった方がいいだろうな。

 まいった。冒険するつもりはないと言った途端【冒険者】になる必要が出てきてしまった。



「【冒険者】に登録しておいて損はありませんよぉ。これは身分証明になりますし、お金を貯めておく事にも使えます。割引されるお店もありますよ。私も7級冒険者なんです」



「我は3級だ」



 複雑に絡んだ文字が書かれたお洒落なメダルペンダントを取り出し見せてくれた。

 これは【冒険者の証(メダリオン)】と呼ばれる物で証明にもキャッシュカードにもなるそうだ。

 これを開発したのも【エレイン】だと言うから本当に凄い人なのだろう。


 書かれているのはきっと【紋章ルーン】だ。

 パズルのように絡み合っていて非常に読みづらい。


 ローザさんとメルさんのメダルでは色や模様が違う。

 青銅のようなくすんだ色と鮮やかな光沢を放つ銀色。階級によって差別化がされているようだ。



「……すみません。【冒険者】について教えてください」



 ◇



【冒険者】になるには【ギルド】と呼ばれる魔石等の買取所兼【クエスト】斡旋施設で登録すれば簡単になれる。

 登録すれば最初は10級冒険者から始まる。

 先ほどの冒険者の証(メダリオン)の色や形で視覚化されており、その色から10級から7級は青銅級、6級から4級は銅級、3級と2級は銀級、1級は金級だなんて呼ばれていたりする。


 仕事内容はざっくり言えば、様々な業種の派遣業だ。


【クエスト】はもちろん法人からの依頼や個人の依頼もあり、採取から物の運送、魔獣討伐に至るまで様々なものがある。

 当然難易度が増すほど報酬などは高くなる。


【冒険者】は【クエスト】をクリアすることで報酬とギルド貢献値を得る。

 級というのはこのギルド貢献値によって昇級するランクだ。

 貢献値は【ギルド】で魔石や魔獣の素材なんかを売っても上がるし、【ギルド】の直営店で買っても上がる。高いほど名声のみならず色々な待遇が与えられるそうだ。


 何もしていないと徐々にランクが下がる。

 何もしてないのレベルが【冒険者の証(メダリオン)】を使用していないと同義なので、生活していればまず下がることは無いそうだ。


 犯罪などの場合は降格並びに使用停止、程度が酷い場合には剥奪がある。


 7級から上に上がるには貢献値だけでなく、実力試験が追加される。

 これは富豪やエルフなどの長寿な種族が冒険者に増えたことで出来たルールなのだそうだ。


 ◇


 報酬の()()()()は【ギルド】にピンハネされる。

 それが【ギルド】の収益の一部になっている。



「【ギルド】は報酬が多く出せない個人の依頼に報酬の上乗せをしたり、貢献値の増加を謳って()()()【クエスト】を回している。……善くも悪くもな」



 メルさんは何か思うところがあるようだ。


【冒険者】の大きな集団は【クラン】と呼ばれる。

 数千人規模のクランもあり、大きい所は専用のクランハウス等もあり福利厚生がきちんとしているそうだ。有名クランになると直接名指しで【クランクエスト】が依頼されることもある。


 人気のクランにはスポンサーなども付く。もちろん人気になれば個人にもだ。

 アイドルなんかもいるようで、冒険者の労働組合か芸能事務所みたいな感じかなと思っておいた。


 ただし、ゴリゴリの武闘派の迷宮(ダンジョン)探索クランも運営資金は冒険者のクエスト報酬等になるので、()()ピンハネをしている。


 俺はなんとなく派遣業の闇を感じてしまった。



 ◇



 ランクの高い迷宮ダンジョンに入りたい場合は級を上げるしかないと思ったが、迷宮ダンジョン都市などの管理されている場所以外は基本的に入る時に審査などはない。


 つまりランクが低い場合や冒険者でなくとも勝手に侵入することは出来る。

 ただし中で何が起ころうとギルドは関与しないというスタンスだ。


 当然、依頼されなければギルド管轄の捜索隊や救出隊は出ないし、保険も適用されない。

 完全に自己責任という訳だ。


 この村には森からの脅威や、非正規の侵入を止める山守が村の管轄で配備されており、観光客や子供の不慮の事故が起きないようにしているのだそうだ。



 ◇



「【クエスト】はギルドに張り出されるだけじゃなくて、酒場とかにも張り出されますよぉ」



「ただし、そっちには怪しい【クエスト】もあるから注意するんだ。まぁ大概は買い取りたい素材の募集がほとんどだ」



 2人の説明はとても分かりやすい。色々な情報を聞けて本当に助かる。



『コ、コ、コン』



「どうぞぉ」



 いささか急ぎ気味なノックがしたかと思うと秘書のような恰好をした女性が入ってきた。

 手には黒のお洒落な手袋。

 スラッとした長身で銀髪ロング! かっこいいっ



「失礼いたします。やはりこちらにいましたね」



「シェフィ! なぜここが!」



 げげっという声が聞こえてきそうなリアクションでメルさんは立ち上がる。



「山守が診療所に『神獣に助けれた男性』が担ぎ込まれたと噂をしていました」



「奴らめ……この件は緘口(かんこう)だと言っておいたのに!」



「さぁもう10時です。参りましょう。11時にはゴルゴレ市長と会食です」



「うーん……我はゴルゴレ殿はどうにも……あっ! シェフィ。今は緊急事態だ。こちらの『神獣の使い』に村を案内しなければ失礼にあたる」



 明らかに行きたくない口実で紹介されたっ?



「これは大変失礼しました。神獣の使い様。申し遅れました。私はシェフィリアと申します。秘書を務めております」



「これはご丁寧にどうも。小泉です」



「ではコイズミ様。メル様に変わりまして私が案内を務めさせて頂きます。まずは【ギルド】でよろしいでしょうか。ご用意が出来ましたら玄関前までお越しください」



「シェフィ! 察しが良すぎる! 我が案内するぞ!」



「メル様は公務へどうぞ。昨日だって私が出ている時に森に行ってしまったのをお忘れですか? 今日こそは予定を外せません」



「むぅ。……なんとかならないのか?」



「はい。なんともなりません」



「ぐぅ……すまないコイズミ殿。話の続きはまた後だ。……ただの飾りとは言え、無ければ物足りない料理に見えてしまう。村長とはそういうものなのだ」



 ちょっと何を言っているか分からないがメルさんから哀愁を感じる。



「いえいえ気にしないでください。色々聞かせて頂いてありがとうございました」



「その……なんだ……嫌でなければ……頭を撫でても良いだろうか?」



「えぇ? いや……はい。良い……ですけど?」



 ◇



 なでなで……なでなで……


 メルさんは椅子に座り直した俺の頭を嬉しそうに撫でている。

 先ほどの哀愁は吹き飛び、『えへへ』と聞こえてきそうな笑顔が見える。


 なんだこの状況……まぁ……悪くない気分ではある。



「メル様……そろそろ」



「よしっ! シェフィ頼んだ! 我は行ってくるぞ! ではさらばだ!」



 やる気が出たようでズンズンとドアから出て行ってしまった。


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