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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第3章 出張には延長がつきものな件について
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83:手段と目的

『手段』と『目的』。

『手段が目的化する』という現象は、しばしば取り沙汰される。


 例えば、『汚れている』といった場合、どう効率的に綺麗に掃除するかに注力してしまうことは無いだろうか。


 ふと一歩引いて考えれば、ここでの『掃除』は『目的』ではなく、あくまでも『手段』に過ぎないことに気が付くだろう。

 つまりそもそも『汚さない』工夫というのも一つの『手段』、選択肢となるはずなのだ。


 では、今回のヨキクエストの場合はどうか。


 依頼された『犯人を捕まえる』ことは『目的』ではなく『手段』だ。

 依頼の本質、本来の目的は『ルミさんに危ない事をさせないこと』。


 それには、『警護に冒険者を雇う』でも『教会を巨大な壁で囲う』でも『壊れない街灯を設置する』でもいい。

 要は夜に墓地に行かなくてもいいようにすれば良かったというわけだ。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「おいしい! なにこのおさかなー?」



「レッドテールっていう海の魚ですよ」



「せんぱいっこっちもおいしいよっ『しゃぶしゃぶ』! ね? レオ」



「……タルタル……ぁっこれもおいしい」



 大勢で囲む食卓。

 騒がしいほどの子供たちの声。

 並ぶのはレッドテールを使った料理たち。


 赤いヒレと尻尾以外は太ったブリに似た見た目、身質。

 だから用意したのは刺身、その脂の乗った白身を鍋にくぐらすブリしゃぶ、そしてブリテリ。

 流石にインパクトの強い胃袋の湯引きポン酢と兜焼きは後で晩酌のお伴だ。


 フォークを上手く使ってしゃぶしゃぶしているのが微笑ましい。

 アイカさんが用意した魔獣肉に負けず劣らず人気だ。


 教会の食堂で行われたこのお食事会は一宿一飯のお礼。

 アイカさんのリハビリ応援会。

 そして、もう夜に『光のフライパン無双』しなくて良くなったことのお祝い。



「珍しいものをありがとうございます」



「いえいえ。食べきれませんから」



『たまにの贅沢なら』と了承してもらったルミさんの顔も明るい。

 やっぱり大勢での宴会はいいもんだ。



「それと、あの街灯についても……」



「えーと、副市長さんは頼もしくて優しいみたいですね」



「……ふふっそういう事にしておきましょうか。『すりガラス』の灯が優しいのはそのお人柄が表れているのかも知れませんね」



 その笑みの先、窓の外には薄暗くなり始めた街路を照らす優しい光が灯っていた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



『極めて薄い不壊素材』とは、あの『すりガラス』のこと。

 壊れないけど光を通す素材。これこそが壊れない街灯のキモ。


 今回検証したのは『不壊』の素材はどこまで『不壊』なのかということ。

 結果としては、どこまでも『不壊』だった。


 石柱原料である『大理石』を『解体バグ』で『石灰岩』や『方解石』の粉状にしても古代魔法『不壊』だろうマナが取りついていた。

 それはもう強引に分子とマナにまで『解体』しないと取り外せない。

『あれ、これ古代魔法ってか……最早、呪いじゃね?』と思ったもの。


 それと同時に『単層カーボンナノチューブ』のように金属や樹脂、ガラスに至るまで特性を付与できる素材ではないか考えた。

 この『石柱粉』の性質を利用すれば、『割れないガラス』を作る事が可能じゃないかと。


 つまり今回行ったのは『不壊の加工』ではなく、『不壊の創造』。


 ルージュベルさんには、これを敢えて詳しく説明しなかった。

 それはなぜか。


『壊れないモノを作れる』という事象は、技術改革ではなく奇跡に近い。

 応用してしまえば、武器や防具だけでなく、ギアやベアリングなどの駆動部品。

 超高圧、超高低温、極高真空などの高負荷試験。

 果ては超深海探査艇や軌道エレベーターにも使えてしまう。


 それこそ軟禁、調査程度ではなく監禁、洗脳したって構わないという強硬派が出てきてもおかしくない。

 だから『不壊の創造』の情報は世に出すことができないんだ。



 ◇



 ロンメルギルドをそそくさと抜け出た後、2人にはバレーガに魔導具購入依頼とおじいちゃん孝行に行ってもらった。

 その間に、俺はガラス作りに取り掛かった。


『割れないガラス』。

 工程を言ってしまえば簡単。

 ガラスを買ってきて溶かすか、地面を『解体』して採取した『二酸化ケイ素』を溶かして『石柱粉』を混ぜるだけ。


 しかし二酸化ケイ素の融点は約1600度。

 ただ普通に火で熱しただけでは制御が難しい温度だ。



 ――そんな高温を安定して制御できるのか?



 俺はこう考えた。



 ――何でも揃うならあるんじゃないか? 『鉄塔』に。



 そうだ鉄塔行こうと、俺は厚かましくも超大手工業系クラン『アイゼイレ』に乗り込んだ。


『ガラス溶融炉貸して貰えませんか?』

『ぃよろこんで!』


 という、どこぞの焼き肉屋のようなノリで熱烈な歓迎を受け、工房を好きに使わせてもらった。


 後は簡単、溶けたガラスが攪拌されている間に『石柱粉』を徐々に混入させていく。

 すると、途中で攪拌できなくなる。

 つまり熱エネルギーにも、運動エネルギーにも変形しなくなるタイミングがある。


 これこそが『割れないガラス』の誕生の瞬間。

 そして炉ごと『収納』してガラスだけ『解体』して取り出す。

 それを薄く『収納スライス』すれば完成。


 後はひたすら石柱を『魔導具』と『ガラス』が埋め込めるようにくり抜いていく簡単なお仕事だった。


 ……3時間かかったけど。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 静かな夜だった。

 街灯が照らす墓地には、静寂が訪れていた。

 これで確認も完了。完全にクエスト達成だ。



「ありがとうございます。また泊めていただいて」



「いえいえ。いつでもお越しください。子供たちも待っていますから」



「……うん」



「絶対、来るよっ」



 子供たちに遊ばれていたレオマルコンビも別れを惜しむ。

『おはなし聞かせて攻撃』の後、子供たちはぐっすり眠れたようで、朝から元気いっぱい走り回っている。


 よくあんなに走れるものだと感心していると、ふと木陰に1人俯き座っている子が見えた。



「あの子は……」



「……ええ。今朝からです。ノイシュといいます。今回の『階層ボス』で……」



「そう、ですか……」



 その痛ましい姿に、なんて声を掛けられるだろうか。

 いや、俺には出来ない。薄っぺらな励ましなど絶対届かない。


 多分、長い時間をかけて――



『ポカッ』



「あ゛っ」



 その子に近づいたヨキが突然ポカリと叩いた。



「いだっ」



「子分にしてやる。おれがリーダーだ」



「??」



「いいから。ほらっ」



「あっ」



 ブランコを揺らし、リハビリ中のアイカさんを囲み、木登りのコツを教える。

 花壇に【霧雨】を撃ち込み、雑草に【土杭】を喰らわす。

 うねうね出てきた大きなミミズに驚き、みんなで手を繋いで寝転がる。


 そこにはもう笑顔が咲いていた。


 ――いや、きっと長い時間をかけなくても大丈夫だ。


 ここには小さくても優しいヒーローたちがいるんだから。



 ◇



「かえるの?」



 視線に気が付いたヨキがタタタッと寄ってきた。

 思わず頭を撫でてしまう。


 ヨキは気恥ずかしそうにしながら身をよじる。



「ええ。これから王都です。リーダー、なんですね」



「……しゅだんともくてきだよ」



「ん?」



「えいゆうになるには、仲間がいるってわかったんだ……それとノイシュに笑ってほしかったからね」



 そう言って『ニヒヒ』と笑う。



「ヨキ……」



「あっそうだ、はい」



 ポケットから、ぽんと何かを渡された。

 手のひらの上には、きめ細かいレースと柔らかな――


 ……赤、だと?!



「ヨォーーキィーーーー!!」



「ひぁああ!」



 案の定落ちた雷に脱兎のごとく走り去る小さな未来の英雄。

 追ってこないと分かると木の裏からひょこっと顔を出し、また『ニヒヒ』と笑った。



「もう……えーと、そうですね……もし、あの、ご入用であれば///」



「えぇっ」



「まさかせんぱい、ほんとの本気で……」



「……変態」



「ちょ、ほんと違うんですってえ!!」



 ◇



 木にはブランコが揺れ、砂場には大きなトンネル。

 そして露に濡れる色とりどりの花。

 郊外に建てられた教会は厳かに佇み、その庭には子供の笑い声が響く。

 

 静かな聖堂での祈りと騒がしい食堂での食事。

 夜な夜な抜け出す小さなヒーローたちと影から見守る少しだけ心配そうな笑顔。

 傷ついた心を優しく包み込みながらも、たまに落ちる雷。

 

 変わらない日常と戻ってきた日常。

 行く末を見守るように壁に飾られたのは使わなくなったフライパン。

 そこには『英雄のサイン』が描かれていた。

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