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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第3章 出張には延長がつきものな件について
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82:これでクエスト達成

「これでクエスト達成です」



「どういうこと?」



 ここは教会近くの路地。

 ヨキは首を傾げて不思議がった。


 そりゃあ驚くか。

 てっきり魔導具だけ交換するものだと思っていた街灯が作り替えられているんだから。

 正に今、その目の前で真新しい白い街灯が建てられている。

 

 ふと、その工事の旗振りをする女性と目が合った。

 小さく手を振る仕草にペコリと会釈で返した。



「あの人知ってる。たしかえらい人。知り合いなの?」



「えぇ。クエストに協力してくれた仲間です。犯人は情報提供をしといたからその内捕まりますよ」



「え、でもクエストは捕まえてくれるって……」



「ヨキ。『手段』と『目的』です。大事なものを見落としちゃダメですよ」



「しゅだん、もくてき……?」



「えーと、犯人を捕まえることより、ルミさんの安全の方が大事ってことです」



「それは、そうだけど……またこわされちゃったら」



「大丈夫。この街灯は『絶対に壊れない』から」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



『ウルム遺跡の怪異』

 そんな見出しが朝刊を賑わせた。


 続く記事は『これは神の試練か悪戯か』、『『槌撃』トライドルさん、これで戦闘が楽に』、『目撃! 歩く石柱群?』など様々な言葉で事件を彩っている。


 その記事が指し示す奇妙な事件内容。



 ――『聖堂エリア回廊の石柱が全て消失』



 以前、『不壊』であったはずの一部の石柱が消えたとの眉唾情報はあった。

 それが今度は一晩のうちに残っていた数十もの石柱が跡形もなく消え去ったのだ。


 近年まれに見る摩訶不思議な現象。

 誰彼、しばらく話の種には困らないだろう。


 ただ、一部の人々には頭痛の種となっていた。

 元副市長、現在市長代理の『紅城塞シタデルージュ』ルージュベルもその一人。


 紋章術ルーンスペルで操られていたとはいえ、市政が愚物の傀儡として動いていたことは間違いない。

 その責任を一身に担わされた彼女に向けられる声は厳しいものだった。

 届けられるのは応援でも労いでもなく、早期解決を望むだけの声高な声と無能という心無い陰口。


 そして連日連夜遅くまで行われた『用途不明金の調査』、『黒い関係の特定』、『魔石不正流用の追跡』等の所謂、『愚物事件』の後始末。

 それがやっと収束に向かうかと思われた矢先の『街灯破壊事件』。

 それに伴い迫る『居住区内の迷宮ダンジョン化』。

 続いて今度は全く意味不明な『石柱消失事件』。


 プライベートの時間などほとんどなく、全く休まる時がなかったと言えるほどの激務、激動の2週間。


 気丈に立ち振る舞う姿とは裏腹に、かのグロイス村長に憧れて志した政治の道は、化粧でも中級ポーションでも隠しきれぬ肌荒れと深い目の隈を刻み込んでいた。



 ◇



「では、あなたは商品の宣伝に来たのか?」



「えぇ。まぁ平たく言えばそういうことですね」



「はぁ。それで『壊れない街灯』などと突拍子もないことを……」



「はい。ですので『頭痛の種を減らしたいと思いませんか』、と申し上げているのです」



 この得体のしれない人は何を言っているのだろうとルージュベルは困惑した。

 ギルド支部長からの強い要請で会ってみれば、まるで胡散臭い薬売りのようなセリフ。

 背の低いテーブルを挟んで姿勢良く座る姿が、余計にそう思わせる。


 人を払ってまで、このような者に構っている暇などないというのに。



「……」



「えーそのご様子ですと、実際に見ていただいた方がよろしいですね」



「いや、結構だ。そのようなことに割く時間も金も――」



「どちらもそれほど取らせませんよ。『範囲』『設置』」



「え、なっ! えぇ?! どこから?!」



 突如右手の先に現れたのは天井には届かないまでも、かなり大きな物体。

 それは装飾が施された見たことのある白い石の柱。


 ただし、先端が中空にくり抜かれ、その中に魔物避け街灯の魔導具が薄っすらと見える。

 薄っすらとなのは、周辺を極めて薄い板のような物が囲っているからだ。


 恐る恐るペン先にマナを込めて小突いてみるも、全く汚れる気配も削れる気配もない。

 これは『不壊』。間違いなく消失したはずの回廊の石柱。



「こ、これはやはりウルム遺跡の? いや、どうやって『不壊』を!」



「えー内緒です。といいますか、これが契約上の守秘義務になります」



「ッ! そう、か……犯人がわざわざ……あぁ頭痛の種とは私の頭蓋のことだったか。してやられた。ここで暗殺者を送るとはな。まさかそこまで疎まれていたとは……」



「えっそんなちが――」



「うぅうぅ……もうやだぁぁー ずっと頑張ってきたのにぃぃ なぁんでぇぇえ わぁぁん しんじゃうぅぅ まだ32なのにぃぃぃ」



「えぇっ?! 違いますよっ! 深読みしすぎですって!」



「あぁぁぜったいコレみたいにぃぃぃ 頭の中身出されちゃうんだぁぁあ」



「ちょ発想グッロ! 中身とか止めてくださいっ!」



「あぁぁどぉせ中身なんて無いもぉん 無能だもぉん わたし無能だから頭ごともぎ取られちゃうんだぁぁあああ」



「もぎ取らないです! 果物みたいに頭取らないです!」



「うぅぅ うぞぉぉ……ころさないぃ? あたま取らないぃ?」



「はい、大丈夫ですよぉ。ほら撫でるだけですよぉ。大変でしたねぇ」



「うぅうぅ……だれもたすけてくれないぃぃ」



 まるで漏れ出た少量の水が決壊の引き金となるように、『紅城塞』から溢れた雫と愚痴は痞えていたものが取れたように零れ落ちる。

 庁舎の一室に響く嗚咽はしばらく『防音』の壁に響いていた。



 ◇



「……大変……見苦しい所を見せてしまって……」



「いえいえ。辛い時は誰にでもありますから」



「そう言ってもらえると助かる……」



 落ち着きを取り戻したルージュベルは気恥ずかしそうにしながらも、その目には涙ではなく光が宿っていた。

 それは目の前の人物が持ち込んだモノに本当に頭痛の種を取り除いてくれる可能性を見たから。



「では、本題に入ります。ご覧いただいた通り『不壊』の中に通常の魔物避け街灯を埋め込みました。極限まで薄くした『不壊』素材で囲っていますから魔導具が壊される心配がないことはご理解いただけると思います。そして魔石の補充やメンテナンスは上面の施錠可能な蓋を開けることで行えますし、当然量産製品を使用していますので、他の街灯との同期点灯にも対応しております。今のロンメルの街を照らす灯には最適なのではないでしょうか?」



「ふむ……確かにな。それで、この『壊れない街灯』をいくらで売るつもりだ?」



「先に申し上げてしまえば、土台の設置や予備含め60本全て『無料』で差し上げます」



「馬鹿な! ここまで来て冗談はやめてくれ! 中の魔導具でさえ30万ゴルはするはずだ!」



「順を追ってご説明いたします。迷宮ダンジョン自体の所有権は市が、ドロップ品の権利については入手した冒険者が持つことになっていますね。では、迷宮ダンジョンを構成する建物はどうでしょうか?」



「……考えたこともなかったというのが正直なところだ。遺跡は鉱物を取るような迷宮ダンジョンではないからな」



「そうですね。『不壊』は装飾品に至るまで壊せない、そう言った壊れないはずのモノに細かい取り決めや規約はないと思われます。まぁ今はグレーゾーンと言ったところでしょうね。ですが、例えば大聖堂エリアを丸ごと消し去られてしまったら?」



「それはっ! ……迷宮都市の根幹が揺らいでしまうな」



「はい。ですので、迷宮ダンジョン内の建物なども市が所有権を持つのが妥当でしょう。そうすると、この街灯は市の所有物を勝手に持ち出し、勝手に加工してしまったモノということになります」



「そういう、ことか。だから守秘義務なのだな?」



「ええ。こちらからの要求としましては、【『不壊の街灯』の技術に関する一切の追求をしないこと】、【如何なる者にも秘密情報の公開をしないこと】、【研究等の目的外使用を行わない、行わせないこと】。詳細は追って詰めますが、この3点をご了承頂ければ費用は頂きません」



「……ふむ。なるほど。筋は通っているように聞こえる。喜んで守秘義務契約も結ぼう。だが、それではコイズミ殿に利がない。この『不壊の街灯』の技術や素材を売れば莫大な金が得られるだろう? ……すまない。職業柄、いや経験上疑り深くなってしまうのだ」



「もしこの混乱に乗じて利益を上げてしまったら、真っ先に疑われ監視、軟禁されるのは私です。それは避けたい。そして捕まらなかった犯人が捕まった場合、この街灯など当分見向きもされないでしょう。私にとっても今のタイミングがベストなんです。それにロンメルの次期市長に恩を売れるのであれば、安いモノですよ」



「それもそうか。あ、いやそんな、まだ私が市長になるとは……人気もないし……疎まれているし……無能だなんて言われてるし……」



「こう考えたらどうでしょう。『不壊』を加工できる業者にコネを持ち、即断即決でウルム遺跡の石柱を提供。市民のために私財を投げ打って、街に希望の光を灯し、都市の迷宮ダンジョン化を止めた市長代理。どう聞いても市長に相応しいと思いませんか?」



「でも、それは……」



「大丈夫です。あらゆる情報を取り扱うロンメルギルド支部長のお墨付きですから。ルージュベルさんの誠実さと努力は届いています。まぁ例の紋章術ルーンスペルを使っているなら別ですが、ね」



「っ! ……ふふっ……本当に、本当に頭痛がなくなってしまったよ。……契約を飲もう。いや、是非契約させてくれ。よろしく頼む。私はルージュベル・ノグレス。『次期市長』だ」



「小泉トモヤ……ただの『技術者エンジニア』です」



 今は灯されていない『不壊の街灯』の下で重なった手のひら。

 街灯の下で始まった初めての物語としては、地味で味気なく誰にも知られることはない。


 しかし、誰かの千鳥足の足元を、誰かのロマンチックな出会いを、誰かの劇的な別れを。

 そして迷宮都市ロンメルの前途を照らしていくことになる。

誤字脱字報告ありがとうございます。

本当に助かります。


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