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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第3章 出張には延長がつきものな件について
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81:3000万?!

「「3000万?!」」



「3082万5000ゴルですが? なにか査定にご不満でも?」



「い、いや、そこを疑ってないですっ」



「ど、ど、どうしよう! せんぱいっこんな数字見たこと無いよっ ねぇっ! ボス素材ってこんな感じなのっ?」



「グランミルパのやつは売ってないから分かんないんですよ。やっばこれもう宝くじだ」



「やっばいよ! すっごいよこれっ! ね、ねぇレオっレオ! こんな数字――」



「……1万、10万、100万、1000万、あわわわ」



「あぁっ! せんぱいっレオがっ あわわ」



「ちょ、水でも飲んで落ち着いてっ」



「……大丈夫。落ち、落ち着いて。 ごくっがふぅっ」

「そ、そうだねっあたし達が慌ててもね。 ごくっがべぼっ」



「えぇ! こぼれてるよ! ほとんど服が飲んでるって!」



 ここはロンメルギルドの個室。

 ドランゴルムの素材を『素材買取』で売り払おうとしたところ、爆速で連行され今に至る。


 そして明細書に書かれた査定額はまさかの3000万。

 魔石を抜かしても特に骨が高いらしく、すごい値が付いている。


 こりゃあ冒険者が大量に駆け付けるのも頷ける。


 討伐に30人出張ったとしても、通常3日間の討伐で1人100万。

 役割による報酬割合や諸経費、ピンハネ分を差っ引いても相当な額となるだろう。

 雑魚敵が多く湧くことまで含めれば経済効果はまさにお祭りってわけだ。

 まぁ命懸けの職業としては、このぐらい貰ってなければやってられないってのもあるだろうな。



「良ければこちらをお使いください」



「すみません。ありがとうございます」



 さっとハンカチを渡してくれた丸眼鏡のエルフおねえさんは、ギルド支部長のお偉いさん。

 言葉はキツイ感じだけどすごく丁寧に対応してくれる。


 流石、迷宮都市の支部長だ。

 こんな金額にも眉一つ動かさず冷静に――



「あっ。い、いえ、お気になさらず。査定ですが今回は腕骨や尾骨、顎牙が非常に多くありましたから、ん、んんっ。失礼。ごくっがぶぅっふ」



 迸る氷と水飛沫が盛大に飛び散る。

 水が滴るテーブルには、濡れに濡れた3000万の明細書が乗っていた。



 ◇



「……大変、大変失礼いたしました/// ……なにか?///」



「いえ、なんでもありません」



 何も問題はない。

 頬を赤らめるこの場の誰もが目を合わせてくれなくなったこと以外は。



「こほん。それでは、どのように振り込まれますか」



『あっそうか。分配どうしよう』と2人を見れば、『コクリ』と頷く。

 おっこれは一任されたってやつだ。

 共に壮絶な戦いを経た信頼に言葉は要らないってやつだ。



「うーん。じゃあとりあえず1000万ずつでお願いします」



「ッバカー! ダメだよ! ほんとのほんとにバカだよっ」



「……うん。バカ」



「えぇ……急にすごい辛辣な……」



「……だってそれは受け取れない。本当に」



「そうだよっ! せんぱいっどうやって考えたら3等分になるのよっ!」



「2人の分とアイカさんで……」



「ええっ! せんぱいの分は?!」



「残りの82万もあれば十分かなぁと……」



「同じ感覚だよ! あたし達だって十分だよっ! はっ! それでも十分すぎて怖いよっ! あぁもうお金の感覚おかしくなって来ちゃったよっ」



「えぇ……こういうの普通はどうするんですか?」



「倒せたのは全部せんぱいのお陰でしょ? 普通に全部持ってくものだと思ってたよ! そりゃこんな額見ちゃったらちょっとだけいいなって思っちゃうけど……昨日の夜はご飯とお酒奢ってもらうことになっちゃったし! 前の『ツァンコア拾いの指名クエスト』だって、あたし達結構な額貰っちゃってるし!」



「……うん」



「いや、今回はみんなのお陰で倒せたんだし、手伝ってもらっておいて申し訳ないというか……」



「でもでもっせんぱいは『黒晶』の時もそうだし、もうなんでそんなにっ――」



「ふふっ」



 紛糾する場に場違いな含み笑いが響く。

 どこか柔和な雰囲気に変わった支部長さんが上品に口元を隠していた。



「あっ……いえ、すみません。こんな事は初めてでしたので」



「……? と、いいますと?」



「通常、高額報酬の受け渡しは非常に揉めるのです。それはもう悲惨なほどです。組織化されたクランでも査定への細かい指摘、パーティ単位では振り込み額の割合などに至るまで揉めに揉めます。それが原因でパーティが解散することもあります。だからギルド職員も毅然として立ち会わなければなりません。ですが、このように譲り合うことで揉めるのは見たことがありませんでした」



「えっへへ。そうなのっ! せんぱいは譲っちゃうの! ほらやっぱりこんなのおかしいでしょお?」



「……やっぱりおかしい」



「ふふ。愚物事件でギルドにも物流にも影響が少なかったのもそのお陰でしたね。やはり迷宮技師ダンジョニア様なのですね」



『やっぱりねー』とか言って和まれてしまった……

 違うんだよ。無駄に余らせるよりは使ってもらった方がいいに決まってる。


 ただでさえ『バレーガ商業組合』からすごい額が振り込まれてたしさ。

 数週間で有意義に3000万使い切る方法があったら教えてもらいたい。


 グルメ? 魔導具? 武器?

 いやいや。無駄に『バイ〇ハザードごっこ』が100セット買えるもの。

 いや、いやいや。明らかに金を使うことが目的になってるもの。


 絶対多すぎる金はトラブルの元なんだよなぁ。

 しょうがない。この金はギルドにも内緒にしてもらって――


 ……『金を使うことが目的』?

 ……『内緒』?



「あっ!」



「なにっ?」

「……どうしたの?」



「ちょっと『内緒』の話をしてもいいですか?」



 ◇



「いいねそれっ。ほんとのほんとにすっごくいいと思うっ」



「……うん。素敵」



 よしっ先ほどの『バカ』に比べて、雲泥の評価。

 じゃあもうやる事は決まった。後はどうやって取り次いでもらうかだ。

 早速『段取り開始』しよう。



「全て私の口座に振り込んでください」



「ふふ。上手くまとまったのですね。承知いたしました」



 豪華なペンが素早く動き、虚空に文字を描く。

 古代ドワーフ語が冒険者の証(メダリオン)に吸い込まれた。

 なんか今回は、支部長さんのサイン付き。

 これいつ見ても綺麗だな。



「どうぞご確認ください」



「はい。大丈夫です。ありがとうございましたー」



「えぇっ、確認を、あっ! しょ、少々お待ちください。まだ『特待処置』の話が――」



「あーすみません。お断りさせてください」



「ですが、現在8件の『指名クエスト』も――」



「それも今回は。急ぎの用事があるので」



「あっ、でも……じゃあ、最後によろしいですか?」



「えーと昇級試験とかも今はちょっと……」



「あの、いえ、その、……ファンですっ! サイン、頂けないでしょうか///」



 尖った耳先が赤く染まり、か細い声が響く。

 グラスの中の氷がカランと音を立てた。

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