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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第3章 出張には延長がつきものな件について
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63:さらさらと紙が擦れる

 さらさらと紙が擦れる音が響く。

 心が躍る魔獣図鑑にスマホをかざしては『カシャ』っとする。


 うーん。興味深い。

 今まで魔物は死んだらドロップ品、魔獣は死んだら亡骸になるヤツ程度に思っていた。


 でも、図鑑をパラパラめくっていくとなぜスライムは魔獣なのかとか、ワイバーンが魔物なのにドラゴンと名付けられたヤツはなんで魔獣なのかとか疑問は尽きない。


 もっと言えば、スマホの魔物図鑑と魔獣図鑑を見比べてみるとより面白い。

 似通った容姿をしている魔物、魔獣が結構いるんだ。

 魔獣はマナ進化した生物とメルさんが言っていたが、じゃあ魔物ってなんなんだろう。


 見学したときに魔物研究者の人達がゴロックトラップに来ていた。

 話を聞いてみても面白いかもしれないなぁ。



「……ふぅ」



 小さな吐息が聞こえた。

 目を向けると【水球】がコップに戻るところ。


 最初はこの部屋で3人、積もる話に花を咲かせていた。

 宿お勧めのミートパイをとってから各々自由時間を過ごしている。


 マルテさんは変な笑みを残して隣の部屋。

 俺はこうして譲り合い合戦で奪い取った簡易ベットに転がり図鑑を読み、レオさんはプカプカと水球維持の修練を行っていた。


 ……何度も失敗しながら。

 お陰でテーブルの上は水浸しだ。


 いや、前見たときはもっと大きな【水球】を長時間やってなかったか?

 ってな目を向けると凄い勢いで目を逸らす。

 その感じは先ほど『どこでも寝れないと』とドヤ顔していた人物とは思えない。


 まぁ気にしなかったけどチラチラと視線を感じてはいた。

 いやぁ……俺もすごく気になることはあるんだけどさ。

 なんて聞けばいいんだ?


『もしかして女性ですか?』

 いやいや、急に失礼過ぎる。


『容姿を偽装する魔法とかってある?』

 いやいや、核心的過ぎるな。


 もっとオブラートに包んだ聞き方はないものか……



「……なんで急に出て行ったの……ですか?」



「えっ」



 どうにも攻めあぐねていると、そんな不意打ちを貰ってしまった。

 慌てて姿勢を正す。



「……昨日聞いて、今日」



「あぁ、すみません。元々滞在は1月と決まっていたんです」



「ううん違う……コイズミさんは……もっと……計画的」



 計画的か……見透かされてる。

 うーん。これは、なんと言ったらいいのか。



「……何かあったなら、僕は力になりたい」



 これはどうやら心配をさせてしまっていたのか。

 あれほど【水球】が乱れるぐらいに。


 最初に会った時の危なっかしい焦燥もどこかへ消え、誰かを思いやるオッドアイの瞳が覗いた。

 ほっこりと、胸に暖かさが灯る。


 これは誤魔化すわけにはいかないな。



「実は……何があったかが分からないから、その『何か』を知る為に『現状把握』を依頼して動いて貰っているんです。まぁそれも自己満足みたいなものなんですけどね」



「自己満足……」



「だから心配はいりませんよ。いや、心配してくれてありがとうございます、ですね」



「ふあっ///」



 ふわふわもこもこフードの上からなでなで。


 もうなんか男とか女とか、姿を偽っているとかどうでもいいじゃないか。

 あんな素敵な目をするようになったんだもの、なにか悪意があってのことじゃないだろう。



 ◇



「さっ明日は朝からカブーを料理するので、さっさと風呂入って寝ることにしましょうか」



「……///」



 また杖をギュッと握った。

 ん? なにその反応?


 あっ……風呂?!


 この宿は安くて美味いメシがお勧めポイント、ただ1人部屋にシャワーは無かった。

 その代わりに大浴場があったよな。


 ……ど、ど、どっちに入るんだ? 周りから男に見えてるんなら男湯!


 いやいや落ち着けっ! 別に一緒のタイミングで入らなくても――



「……はい///」



 そう決死の覚悟を決めたように頷くとローブを脱いで、ハンガーにかけ始めた。

 あぁ今日は控えめな感じだけど、やっぱりかなり大き――


 ……えっ! 行く準備してる? この流れは一緒に?!


 いやいや、落ち着けっ! 男同士裸の付き合いって思えば? 

 俺さえ普通にしていれば何も問題は無いはずだ。



「……準備できた///」



 あれぇーなーにこれぇーすーごい背徳感っドッキドキしてるぅ!



 ◇



 白犬とデカ犬のお昼寝、迷宮ダンジョンでの釣り、マナが舞い上がる草原。

 写真を見ているだけで落ち着きを与えてくれる。

 スマホの使い放題マジナイスだディーツー。


『依頼の定時連絡してから行くので、先行ってて』と送り出したのは我ながら良い案だった。

 多分お互いにちょっとホッとした感じ。何事も心の準備は必要なんだって。


 さてと気持ちを切り替え、尻尾亭での集合写真からにゃんこ先生を長押しする。



「ッ! ……あー、おほん。こんばんは、定時連絡です」



『にゃっ! 信じられないにゃ! 本当に遠くでも届くのにゃ!』



「し、進捗はどうですか? 何か分かりましたか?」



『ん……何か声がオカシイ……遠いにゃ? 横向いて喋ってないかにゃ?』



「ッ! ……あぁちょっと魔道具アイテムの調子が悪かったみたいですね」



『ん、良く聞こえるにゃ。じゃあ報告にゃ、今にゃあは王都シャッツフルスに来てるにゃ』



 ◇



『というわけにゃ』



「まだ1日なのにほんとすごいですね……」



『へっへ任せるにゃ! 依頼料以上のことをするのがモットーなのにゃ! あっ後でモーリーミルク奢ってくれてもいいのにゃ』



「それは是非……信じてますけど危なかったらほんと無理しないでくださいね」



 にゃんこ先生が優秀すぎてヤバイ。

 たったの一日で『ゲボート帝国』、『貴族シルム家』、『貴族私兵』を割り出した。


 しかも陽光の森で直接接触していると来たもんだ。

 恐らく火事の原因はその貴兵の仕業でその後大きく動きはないとのこと。


 2度目の接触が自らを危うくするからとリスクの見極めも上手い。

 次は帝国でその貴兵達の親玉貴族の目的を探ると。


【地獄耳】のアビリティとフットワーク、そして機転の良さが諜報活動を支えているのだろう。

『餅は餅屋』プロの仕事に素直に感心してしまう。


 ……立体映像に映し出される『あられもない姿』で台無しにはなっているが。


 ちゃんと時間言ったよな? 定時連絡なんだから。

 じゃあなんで下着姿で半裸なんだよっ!

 見えてないとは言ってもさ部屋着ぐらいは着とけばいいじゃん!


 自然体で寝転ぶ姿には絶え間なくクネクネと誘うようにモコモコの尻尾が揺れ、その根元には半分ぐらいキュプリンとした感じのモチモチが見えている。

 ああいうプリンとした感じは結構……



『今日の報告は終わりかにゃ?』



「えぇ。ありがとうございました。次も明日の8時です」



『おっけにゃ! それでにゃあのお尻はどうだったにゃ?』



「えぇ。キュプリンとして……」



『ひにゃ! 罠に掛かったにゃ! やっぱり見てるにゃ! 変態にゃ! 本性を現しやがったにゃ!』



「い、いやっ! それはっ……前お尻に自信があるとか言ってたからっ」



『にゃあがお尻だけだと思うにゃ! ほらこっちだって――』



「ちょっ! こっちってどこか分からないですけど止めてくださいっ」



『ほらその声は焦っている声にゃ! 横向いたのも分かったにゃ!』



「あっあー……あれー……魔道具アイテムの調子が……あれー……」



『し、信じられないぐらいわざとらしいにゃ! ほんとに見てるん――』


 

 ぶつ切りしたスマホからは立体映像が消えた。

 そのまま『倉庫』に放り込む。


 ……失策だ。

 

 これから風呂場という激戦地に赴くのに。

 全然落ち着きを取り戻せてない。

 なんでこんな感じに……なんかおかしい……何か悪いものでも……


 あっ2日連続でうなぎ食ってるわ。

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