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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第3章 出張には延長がつきものな件について
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61:ゆらゆらと

 ゆらゆらと揺れる草花。

 整然と等間隔で並ぶ低木。


 その幹から伸びる枝には、垂れ下がるように萌葱の果実が実る。

 地面に目を移せば、地を這うように虫がジグザグと、どこへでもなく歩を進める。


 忙しなく動き回る虫が不意に止まった。


 刹那、隆起する地面。

 目にも止まらぬ速度で迫り出すのは楕円の大口。


 虫は儚くも、突如として暗い空間に飲まれ、消える。


 見えたのは一瞬。

 素早く動く土塊。


 それは地面に沈み込むように姿を消しゆくかにみえた。

 しかし、影は突如踵を返し激しく暴れ始める。


 首を振るような動き。

 その先に微かに見えるのは細く透明な糸。

 強靭な抗張力を備えた糸の先にはしなやかに曲がる延べ竿。


 飛沫のように巻き上げられた土が地面に落ちる。

 抵抗虚しく空中に吊り上げられたのは魚型の石。


 手繰り寄せる手に力が入る。

 そして、果樹園に喝采が響いた。



 ◇



 ここはグロイスの隣町バレーガの果樹園。

 甘いがどこかスッキリとした良い香りが漂っている。


 低木の上の方に少量生っている緑色っぽい実は『ケルク』。

 これは菓子の味付けに使われたり、また香料としても人気の果実らしい。


 そして俺の手には釣られたまま暴れているどう見ても泥の付いた石。


 こいつは外骨格のように石を纏った魚の魔獣、その名はカブー。

 強いて似ているとすればずんぐりとした根魚に似た形状をしている。


 信じられない事に『土の加護』を持つこの魔獣魚は、自由に地面を泳げる。

 水陸両用の魚なんて呼ばれるトビハゼの仲間も、さすがに地面の中は泳げない。


 俺は手際悪く針を外し、カブーを『倉庫』に放り込む。

 そしてまじまじと虫に模した針を見つめる。


 マナに寄せられる魔獣魚用に設計したどこか愛嬌があり可愛らしい見た目。

 この『毛針』には魔石を中に巻ける構造になっている。

 疑似餌のいいところは、餌の補充をせずにすぐ竿を垂らすことが出来る。


 ということで、次いこうっ!



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 早朝にも関わらず、多くの人が見送りに来てくれた。

 素敵な餞別まで頂いてしまい、涙涙のお別れとなってしまった。

 特に赤い目を擦るクーちゃんから貰った飴は食べることができそうにない。


 窓外を見ればバスは、マナの光が湧き上がる草原を抜けバレーガに向かっている。

 多くの光の粒が朝靄を照らし、一日の始まりを告げている。


 前に見た時とは少し違った表情を見せる草原。

 草花達からしてもバスの中で1人すすり泣く俺は異様に映っていることだろう。



 ◇



 自分の残した足跡を見てから故郷に帰る。

 そう言えば聞こえはいいが、最近行けていなかったバレ鉱に向かっているのは、新聞に気になる記事を見つけたから。



『バレーガ坑道跡地3層を4級へ昇級。ゴロックトラップの影響か』



 迷宮ダンジョンの危険度が見直され、より難しい迷宮ダンジョンとなってしまったようだ。


 通常であれば迷宮ダンジョンの昇級は悪いことではない。

 新聞では昇級を誉めそやされてはいたが、観光資源として使っている場合は何か問題が起こるんじゃないのって思ってしまう。


 そんな心配は、バレ鉱前のバス停を降りたらすぐに吹き飛んだ。


 目の前には、立ち並ぶ屋台と大きくなった宿などの施設。

 そしておっちゃんの土産屋の前には色んなガチャが並んでいた。


 見れば元々提案したメミット石の小物に加え、キャラクターグッズや魔石ガチャなんてものまであった。

 魔石ガチャとか……大丈夫かなぁこれ……ギャンブルなんじゃ……



「ッ!」



 見回る中でどうしても見過ごせないガチャが目の前に現れた。

 その名も『冒険者ガチャ』。

 小さなフィギュアが入っているようで有名な冒険者が模されているようだ。


 そして筐体には『迷宮技師ダンジョニア監修! シークレット1種!』の文字が躍る。


 ……俺知らないよ? 全然監修してないよ?

 その上、シークレットのシルエットにはどこかで見たような戦服バトルスーツと小太刀のような武器。

 やべぇ……やべぇってこれ。どうなってんだこれ。



「おっ! ルーキー! 久しぶりだなっ! あぁもうルーキーじゃねぇか。あの迷宮技師ダンジョニアだもんな! はっは年を取るといけねぇや」



『ルーキー』俺をそう呼ぶのは坊主頭のあの人しかいない。

 土産屋のおっちゃん、ウォードさんが気さくに話しかけてきた。



「これどういうことですかっ?」



「いいだろう? 今はそいつが一番人気だ」



「そうじゃなくて監修だってしてないしっ! それにこれ私ですか?!」



「いやぁそうした方が売れ行きがいいっつうもんだからよ」



 忘れていた。

 このハ……狸親父は商魂たくましいバレーガ観光組合だった。



「いや、これじゃ自分で監修して自分をシークレットにしている痛いヤツじゃないですかっ」



「そうかぁ? 自分の名を売るのは冒険者の基本だろ?」



「で、でもそれが変なこととか悪名とかじゃダメですよねっ」



「はっは。お前さんは尊敬すべき冒険者だ。活躍は知ってる。その心意気もな」



「ウォードさん……」



 忘れていた。この人はこう言うことをズケズケという人だ。

 こうストレートに言われてしまうと、怒る気もなくなってしまう。



「まぁ……特にここにいる奴らはな」



「えっ……」



 振り返れば、何かのグッズとペンを用意した店員と客達。

 これは……もしや……



「そうだ。店の看板にもサインしてくれないか?」



 また、忘れていた。

 ここは商魂たくましいバレーガ観光組合のお膝元だった。



 ◇



 もう地球に帰るまでは『漢字で書きなぐった小泉』を見ることはないだろう。


『はっは。悪かったな』と奢ってもらったバレーガアイスを頬張る。

 現金なもので、その味に少しだけ溜まっていた疲労と溜飲が綺麗さっぱり下がってしまった。


 見た目は綺麗なエメラルドグリーンをあしらったバニラアイスのよう。

 そしてスッキリとした甘さと後味。どこかローズヒップに似た香りも良い。



「めちゃくちゃ美味しいですねこれ。5個ぐらい包んでもらえますか」



「あーすまん。プレーンならあるが、バレーガアイスはそれだけなんだ」



「え、そんな限定商品なんですか?」



「いや、材料が不作で高騰しててな。まぁバレ鉱が昇級したんだからしょうがねぇんだけどよ」



「……昇級と関係があるんですか?」



 おっちゃんが世間話をするように話した内容は、俺には耳の痛い話だった。


 迷宮ダンジョンは人が多い方が活性化する。

 それは魔物が倒されたり、人の放出するマナなどでマナの循環が良くなることで起こるらしい。

 循環が良ければマナが貯まらないんじゃないかと思うがそうではない。


 例えば、人がいない部屋にはホコリが全体に溜まり、人が動いているとホコリが部屋の隅っこにどっさり溜まっているように『粗と密の状態』は動いている方が起こりやすい。


 この状態の迷宮ダンジョン内ではより濃いマナスポットが生まれ、より強い魔物が生まれることになる。


 今回3層に新たに出現するようになった魔物は『カースファンガス』。

 呪いの胞子を撒き散らすという奇天烈な厄介者。


 そのよくわからない状態異常『呪い』を解呪するには『聖水』が必要なことで、一気に等級が上昇したとのこと。


つまりこれは……明らかにゴロックトラップの所為です。すみません。





「その胞子が3層から川に流れてるみたいでな。餌にしたカブーが増えちまって、木の下の方に生ってる実が食われちまったんだとさ」



「カブー?」



「あぁ土を泳げる魚の魔獣だ」



「魚の魔獣!?」



 盲点っ! 

 川や海だけじゃない!

 土を泳ぐ魚がいるなんて!


 これは是非にでも、対応せねば。

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