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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
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56:夜の帳

 夜の帳が下りる。

 広場から少し離れた白狼にも、広場の笛の音が小さく聞こえる。

 

 ただし、店内からの未だ盛り上がる騒がしい声の方が明らかに大きい。

 いつの間にか店の常連さんやモーリーさん、サイトンさんらも加わって大宴会となっていた。

 

 そんな中、俺は近くのベンチで雲に隠れ気味の月を眺めている。

 いつになく飲んでしまった宴会の熱を冷ましたかった。


 この世界への出張バカンスもあと数日で1月が経つ。

 頬を撫でる夜風もどこか変わってきたと感じる。

 

 思い返せば、なんだかんだ仕事をしていた勤勉さには苦笑してしまう。

 まぁ海は見れなかったが、そこそこ満足している。


 こうして何不自由なく楽しく暮らせたのは、あの優しい人達や村人達のお陰だ。

 やはり仲良くなった人達と別れるのは寂しいと感じる。


 そんな感傷を黒エールで流し込んでいると、とことこと足音が聞こえた。



「ここにいたのかコイズミ殿」



「酔い覚ましですか。良かったら隣どうぞ」



「う、うむ」



 陰った月明かりでは顔色は分かりづらい。

 しかし、赤ら顔の少女は少し緊張気味に腰掛けた。

 どうしたんだろう……まぁ凄い飲んでたからなぁ。

 


「打ち上げ費用はメルさん持ちだと聞きましたよ? ご馳走様です」



「いやいや。礼を言うのは我の方だ」



「「……」」



「……コイズミ殿、言っておかねばならぬことがある」



 言い出しにくいような顔。

 なんだろう改まって。



「すまなかった……グロイスに来てから……コイズミ殿を……監視……していたのだ」



「そうですか」



「……想像してなかった反応だ……我はてっきり驚くか憤慨するものだと」



「だって私は怪しかったじゃないですか」



「……うむ。確かにそう思われていた。だからあの日、庁舎では緊急議会が開かれたのだ。穏健派と強硬派で『様子を見る』と『追い出す』に分かれた。それ程までに【神獣】との邂逅は衝撃的だったのだ」



「結論は『様子を見る』になったって事ですね。監視付きで」



「そうだ。この尻尾亭を勧めたのも、何かあってもクレアなら対処できると選ばれたからだ。ガノンにも目をかけてくれと頼んだ。……すまない。信頼を裏切るような真似をしてしまって……だがこのまま黙ったままで居ることは……」



「そんな、いいですよ。気にしてませんから」



 これは本心。

 別に黙っていてくれていても良かった。

 中途採用の技術者エンジニアにいきなりプロジェクトの中核を任せはしないのと同じ。

 それは信頼ではなく無謀だと思うしさ。



「……コイズミ殿なら分かってくれるとは思っていたのだが、こうも簡単に許されては……」



「いやいや。いきなり来た不審者を追い出さずにいてくれたんですから、感謝しかないですよ」



 そう言って、伏し目がちの頭を撫でる。


 雲が過ぎ去った月明かりはどこか寂しげな横顔を浮き上がらせた。

 そして少しだけ頬を染め月を見上げる。



「……何故だろうな。コイズミ殿と話していると悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまうではないか。……良ければ1月と言わず滞在してくれても良いのだぞ」



「……ありがとう……ございます」



 俺にはそう言う事しかできなかった。


 黙っていたほうが都合がいいことを話してくれたって事は信用に足ると思ってくれたのだろう。

 そして、俺と同じように別れを惜しんでくれている。


 素直に嬉しいし、ちょっと涙出そう。

 でも……これはしょうがない。出張はいつか終わるものだ。



 ◇



 寂しさを誤魔化すように、少しの間月明かりの下で語り合う。

 もう直ぐ夏休みに入ることや、夏祭りが開かれることなんかを楽しそうに教えてくれた。



「そう言えば今回のクエスト用紙を見破ったのは、転写の魔道具アイテムだと聞いたぞ。また見せてもらえぬか?」



「はい。どうぞ。指でズラすと次が見えますよ」



『よっ』『ほっ』なんて可愛いらしい掛け声でフリックに苦戦している。

暫く見守ると元々少なかったバッテリーが10%を切る頃には、上手に操作し始めた。



「ほぅ。これは魚の図鑑か。良く撮れているな。む……そう言えばこれは……」



【水球】が浮かぶ光景を撮った写真で指の動きが止まった。



「……コイズミ殿。レオ殿に怪しい事は無かったか? いや、何かされてはいないか?」



「え?! 何かって別に何も……」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「【福音の光風ヴァロ・ユーアンゲリオン】」



「今のは……魔法……いや、スキルですか?」



「ふふっ……『ダンドリハチブ』……です」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 思い出すのは、鍛冶屋裏庭の光景。

 いや、でもあれは……



「その顔は何か心当たりがあるのか?」



「いや、特には……。どうしたんですか急に……?」



「ここに写っているのは金髪の女性に見える。しかし我に見えているレオ殿は緑髪の男性なのだ」



「なっ……」



『金髪か……。理由はどうあれ、姿を偽っている。何か後暗い事が――』

 その言葉は最後まで耳に入らなかった。


 突然、激しい半鐘の音が響き渡った。

 カーンカーンと夜空をつんざく音は、無条件に不安を煽る。


 転がるように、山守が必死の形相で飛び込んできた。



「森がっ、『陽光の森』が燃えているんだ!」


第2章が終了です。

今回はゴルゴレの悪行など大きくカットしましたし、特に説明部分はかなり悩みました。

ほんの少しでも読みやすくなっていれば幸いです。


今後は投稿済部分の更新がありますが、誤字や脱字の修正と

ほんの少し後書きに補足を入れていこうと考えています。


また、ブクマと評価ありがとうございます。

顔には出さないけどすごく嬉しかったりします。


引き続きゆっくりと書いていきますので、

続きが気になる、まぁがんばれよという方はブクマ、評価をお願いいたします。

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