52:腰が抜けた
腰が抜けたようにペタンと腰をつく。
目を見開き、あんぐりと口を開く。
繰り返し『鎮静』の紋章が発動するが、立ち上がることはなかった。
「残念だ。ゴルゴレ殿」
「いやっこれはっ……ぐぅ……うぅ」
「同じ政を執る者として知っているだろうが……許可無く室内での攻撃魔法は違法だ。ましてや人に向けるなど以ての外。もう直ぐ憲兵が来る」
「及び禁止されている紋章術の施行、それによる強制労働なども疑いがあると報告致します。クランメンバーエリアまで捜査対象となりますから、証拠から証言まで全て曝け出されることは間違いありません。自白をお勧めいたします。その覚悟がお有りなら」
冷ややかに見つめる瞳が射抜く。
ゴルゴレは目を合わすことができず項垂れた。
同じ3級冒険者であっても、全く足元にも及ばないほどの戦闘力。
今のこの構図がそのまま目に見えてわかる圧倒的な実力差を示していた。
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この2人に詰められては、流石に針のむしろと言ったところか。
ロリゴレは震えながら項垂れている。
いやー最後のアレは、アトラクションみたいな感じだった。
そんな小学生みたいな感想になってしまうほど現実味が無かった。
特にメルさんの埒外の強さには、驚きすぎて逆に笑えてきた。
デカイ炎が飛んできたと思ったら、剣でバッサバサやってるんだもの。
さてと、と気持ちを切り替える。やることはやらないとな。
「ゴルゴレさん。色々ありましたが、クエストは完了でいいですよね?」
「あ、あぁ……くそっ……貴様の所為で……」
燃えていない箱をへたり込む眼前に置く。
何かぐちぐちと言っているが、2人の目が光る所じゃ何もできないだろう。
さっさと光るハンコを押してもらう。
「はい。確かに。ありがとうございました」
「これで終わりだと思うなよ……貴様がこの1週間何もしていないのは分かってるぞ。ポルタ遺跡には2日しか行っていないだろ。後は『牧場』と『森』で遊んでいやがった。これは盗んで来たものだろうっ! 釈放されたらどんな手を使ってでも……」
「まだそんなことをっ!」
「メルさん、大丈夫です。……良い機会ですから見てもらいましょうか。自身のいなくなった後の事も少しは知っておきたいでしょう?」
「なにをっ」
「まぁまぁ。時間はかかりませんから」
そう言って、目の前に『設置』したのは2㎥程度の金属製の巨大な塊。
手前に太い導線が見えて、大きなハンドルが付いている以外は、これといって大きな特徴の無い赤褐色の謎設備。
実はこの赤褐色の材料のほとんどが『グランミルパ』の素材。
ギルドの解析の結果は、やはり火と土のマナを豊富に含み極めて耐熱耐冷に優れ、硬度も高い。
鉄との親和性が高く、合金のように使用可能とのことなので早速使わせてもらった。
早速、ハンドルを回すと上下に切り離されるようにしてバカっと開く。
スピニングリールにも使用した構造、ラックアンドピニオン。
当然大きなギアやベアリング、リニアガイド構造もサイトンさんのお手製だ。
上側はφ800mmのドーム状になっていて、下側は頑丈な金ザルを置いてある
ちゃんと防護手袋をしてから『倉庫』から『処理をしていないツァンコア』を取り出す。
「なんだこれはっ! こんなモノは報告になかった!」
「あっそうそう。このツァンコアは『ハイス鋼』に近いんですよ。だから触るときに刃で切らないように防護手袋が必要なんですね」
「はいすこー……?」
作戦会議の後すぐ『解体バグ』を使用して、ツァンコアを分解した。
すると、鉄にモリブデン、クロム、少しのバナジウムと炭素なんかに分かれた。
その割合から見て、高速度工具鋼:ハイス鋼に成分がそっくりだった。
先人たちが苦労して作り上げてきた技術の粋をいとも容易く手に入れられるのを目の当たりにして、迷宮が恵みとして扱われていることに深く頷いてしまった。
◇
次にコアをザルに入れていく。40個ほど入るが、今回は10個。
「このツァンコアは『ゴーレムトラップ』から新人冒険者達に拾ってきてもらいました。今回は申し訳なかったのですが、ポルタ遺跡第3宮の全ての『離れ』を4日間貸し切らせていただきました。昼夜問わずずっと貯まり続けるようにしたので大体1日300個ほど手に入ります」
「300?! 何を馬鹿な事を……」
「今朝ここに来るまでに全て元通りにしてきたので安心してくださいね」
コアを入れ終わったら、ハンドルを戻して上下を密着。
そして、巨大なパチン錠でロック。
次に『倉庫』から取り出すのは、透き通った大きな風船が2つ。
「シェフィリアさんお願いします」
「『كرة الرياح【風球】』」
操られた風船は狭いスライドハッチからぎゅうぎゅうと形を変えながら中に入っていく。
入りきったらハッチをガッチリロック。
「さぁ準備は完了です。音が大きいですよ」
「……撃ちます。『البرق والطريق【閃雷】』」
阿吽の呼吸で放たれた雷。
手前の導線に寸分たがわず命中する。
『バギャアアアアアアアアアアン』
甲高い轟音。
割れていた窓からガラスが落ちる。
「これで完了です」
驚き喚くのを放っておいて、ハンドルを回す。
現れた金ザルからは湯気が立ち上る。
そこからコアを取り出す。
防護手袋をしていても少し熱い。
「そんな……何が起きたっ……こんなっ……」
驚き黙る目の前に突き付けたのは、無数の鱗のような薄い刃が綺麗さっぱりなくなった『処理済みツァンゴーレムコア』。
「すごく丁寧に安全にやって1ショット5分ぐらいでしょうか。そうすると5分で40個ですから、大体2時間ちょっとで1000個の処理加工が終わります」
「……騙されんぞペテン師め! 貴様の空間魔法で入れ替えたんだろう!」
「そんな都合のいい魔法は使えませんし、魔法でも無いですよ。今のは『酸素』と『メタン』を利用したんです」
唖然とするロリゴレ。
さぁ種明かしといこうか。
「この技術の名前は――」




