表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
53/154

51:なぜ貴様が

「なぜ貴様が8級をやっているっ!」



 ゴルゴレは、浅薄な行動を後悔していた。

 測りかねていたその男の力量を大きく見誤っていたことに、今更気がついてしまった。


 1週間で紋章術ルーンスペルへの対策を用意、どうにかして地下の紋章ルーンを察知して破壊、そして1000個ものコアを集め処理加工できる体制を整えた。

 それを成すだけの能力を持っている。



「いやぁ……なぜと言われましても」



 真に恐るべきはそれらを全く悟られずに行ったこと。

 今も言い淀むその姿は侮ってしまうほど頼りなげに映る。

 しかしその気配、仕草、表情、纏う雰囲気全てがゴルゴレに警戒心を抱かせなかった。



「儂は……儂はゴルゴレだぞっ?! たった1人の凡夫にどうしてここまでやられねばならんっ!」



「いやいや。1人じゃないですよ。『気のいいギルド関係者』に『新進気鋭の冒険者達』、『優しい治癒師(ヒーラー)』に『金属加工の上手い鍛冶屋』。多くの方々に手伝ってもらいました。……まぁそうなると、どうしてかと聞かれれば『()()()()()()だからじゃないですかねぇ?』」



 コミカルな物言いであるにも関わらず、その眼が、その言葉が深く深く抉った。

 ただ1人、紋章技師ルーントーカーとしての第一級の功績。

 さらには1人でクランを立ち上げ、有数の大手クランに成長させた自負。

 

 ゴルゴレにとっては、さらに抉ったモノを千切られ、捨てられ、踏み躙られたように胸裏を逆撫でた。



「貴様ぁっ! 生きては帰さん! 切り刻んでゴーレムの贄にしてやる!」



『鎮静』が瞬く。


 しかし、後悔と殺意が頭の中に渦を巻く。

 思えば『処理済み』を用意している時点で始末しておくべきだった。


『こいつは危険だ。禁術を知られた以上、全力で始末して闇に葬る』


 血走る濁った瞳には、どす黒い感情が透けていた。



 ◇



「お前ら! こいつを()()()! ()()()()()()()()! ツァンコアを盗んできた盗賊だっ!」



『威圧』と『圧迫』の多重紋章マルチルーン

 長年繰り返されてきた紋章術ルーンスペルの行使。警備達が感じた違和感は、即座に消えた。

 一度でも禁術で縛られた者は命令に従う駒に成り下がる。

 こいつに紋章術ルーンスペルが対処されていようとこちらには手足達がいる。



「そんな、落ち着いてくださいっ」



「マヌケめ! もう遅いっ! 死んで償えゴミクズがっ!」



 槍を構えた警備員に加え、周囲にいたメイド、クランメンバーもコイズミに迫る。

 声が聞こえた範囲の者全員が群がる蜂のように襲いかかる。


 運搬業者共々後ずさるその先は壁。

 逃げ場は無い。



「それじゃあ、仕方ありませんね。『範囲』『設置』」



 何か唱えたかと思うと、右手の前の床に青い液体が撒かれた。

 青い大きな水たまりが出現した。

 


「صباح الضباب【朝霧】」



 間髪入れず長身の運搬業者が水魔法を唱える。

 洗練されたマナの煌き。

 一瞬の内に濃い霧が立ち込めた。

 突然の事に暴徒と化していた者達は動きを止めた。


 やはりそいつらもぐるだったか。

 だが警備の奴らは精鋭を揃えている。

 如何に逃げ足が早かろうと関係ない。



「逃がすか馬鹿め! 何をしている! ()()()()!」



 虚ろな目をした暴徒達は、直様霧に突入した。



『ドジャ』



 強烈な鈍い衝撃音が響き、バタバタと人が倒れる音。

 その後一切の物音がしなくなった。


 濃い霧が次第に薄れ、その姿が見えてきた。



 ――倒れ伏したクランメンバー達の姿が



「『優しい治癒師ヒーラー』に“精神的に疲れている時”の対処法を聞いたんですよ。そういう時は寝るのが良いみたいですよ」



 何事も無かったように気楽な声が響く。

 晴れてくる中、依然立っているのは【防壁】の中で不敵に周りを見渡す迷宮技師ダンジョニア

 警備達も抗うが眠気に勝てず次々と動かなくなる。



「ミュデゴーレムのコアって調合すれば『睡眠導入剤』になると聞きましてね。いやー特に疲れている時や精神が病んでる時には効き目が早いって聞きましたけど……」



 見渡していた目がゴルゴレを捉えた。



「こんなにすぐに寝てしまうなんて()()病んでいたんでしょうね。働かせすぎじゃないですか? オーナーさん」



 眠りこけた奴らの隙間を縫うように、歩を進めてくる。



「……何をしている! 早く捕まえろっ!    ――とでも言うと思ったか?」



 ゴルゴレの周りには突然、無数の大きな火球が出現した。

 急変する温度に広い室内でも空気の流れが起き、観葉植物の葉を揺らせる。



「初めからその手足達には期待していない。くっくっ……()()()()()()だろう? これが不可視紋章インヴィジヴルルーンだ! 貴様には逃げることなどできなかったんだよ! 馬鹿めが!」



 同時発動シンクロトリガーされたのは、空中の不可視から現れた【烈火球】。

 詠唱もなく、複数の魔法を同時展開する絶技。

 瞬間火力は上級魔法をも大きく超える。



「光栄に思え。無能にクズ共。消し炭はスライムにでも食わせてやる」



 掲げる右手がコイズミを捉え、焔の死神が放たれた。



「منع الرياح【防壁】」



「無駄だ!」



 絶え間なく注がれる焔が、空間を震わせた。

 業火の如き猛る炎は、紅蓮の火色を撒き散らす。

 火煙が立ち上り、爆炎が飛び散ろうと止むことはなく、床板が炭化し、後ろの壁が崩れようと無慈悲に降り注いだ。

 


 ◇



 濛々と黒い煙が立ち上る広い納品口はバチバチと燃え盛る音が響く。

 衝撃と爆風で方々のガラス飛び散り、マナ灯が揺れ落ちて小さく瞬いた。


 論を俟たず、圧壊、焼尽。

『耐久』の紋章ルーンが刻まれているはずの床や後ろの壁も焼け爛れ、金属のみが溶解せずに残っている有様。

 まるでここだけ地獄に変わってしまったかのような凄惨な風景に変わっていた。



「はぁ……はぁ……やりすぎたか」



 その言葉とは裏腹に、薄ら笑いが浮かんでいた。


『手こずらせやがって。さて、どうやって揉み消そうか』


 思考の切り替え早く、既に次の行動を模索していたゴルゴレは火煙から視線を切った。



「そう言えば、言い忘れてましたね」



「っ!」



 ――余りにも場違いな、そして明らかに気楽な声が響いた



「مطر ضبابي【霧雨】」



 淀みなく唱えられた詠唱は、涼やかな雫を出現させる。

 意思を持つように燃えている壁や床に染み入り、火煙までも消し去るように沈めた。


 霧雨が静かに消えゆく中、現れたのは()()()()に白銀の細剣を構えたもう1人の運搬業者。

【防壁】に守られるように、その後ろに控える声の主。

 そして、倒れ伏した者達までもが焼失することなく守られていた。



「なぜ生きてる! ……はぁ?! ふ、ふざけるなっ! そんな【防壁】で守りきれるわけないだろっ!」



 目を見開き、信じられないと頭を振る。

 その力を振り絞るような声は震えていた。



「実際見た物を信じられないのは、工業クランのオーナーとしてはどうでしょうかねぇ」



「う、うぐああああ! 死ねぇええええええ!」



 再度【烈火球】の同時発動シンクロトリガー

 先ほどのような数はなく3つの火球が放たれた。


 臆することなく対峙する緑瞳が迫り来る焔を射抜く。

 鋭く剣閃が走った。


 不意に焔が揺れる。


 その剣士は事も無げに振り切った剣を鞘に収めた。


 次の瞬間、焔は失速したように手前の床に破壊を齎し、2つ目は的を外し奥の壁へ穴を開ける。

 そして3つ目は左右に切り裂かれ逸れていく。



「ば、馬鹿なぁ! 【烈火球】を斬っただとっ! 魔法だぞっ?!」



「……聞いたことはございませんか? 『その剣は凡ゆるモノを去なし、受け流し、そして切り裂く。……故に【刃風】』であると」



「なん……だと……まさかっ?!」



 目深にかぶった帽子を取りさった。

 美しい緑髪がしなやかに溢れた。

 髪は腰ほどまで伸び、その髪からは尖がった耳が見えている。

 肌は透き通るように白く、あどけなさを残した顔立ちは人形のように整っていた。



「そうそう。言い忘れていましたけど、『優秀な秘書』に『頼りになる村長』にも協力して貰っていました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ