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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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5:宝石を食った犬が目を輝かせたら……

 宝石を食った犬が目を輝かせたら少しデカくなっていた。


 自分でも何を言ってるか分からない……

 デカ犬は変わったようには見えないが、白犬は60cmぐらいになっている。

 明らかに撫でる手の高さが変わっているから間違いない。


 宝石食うと成長する不思議現象に首を傾げる。

 しばらく顔をぐりぐり押し付けてくる白犬達をあやしながら『魔法があるんだからでっかくもなるだろ』と乱暴に納得しておいた。


 それにしても白犬が食べるはずの好物を俺にくれたのか。

 料理で一番美味しい部分を取り分けてくれた感じか。

 暖かい気づかいに気持ちがほっこりと和む。



「グゥルル」



 デカ犬はかなりぐりぐりが強い。気づかって落ち着いてもらいたい。


 少しするとぐりぐりに満足したのか食事に戻るようだ。

 俺は今度こそ距離を取る。



「グウ! ガゥガ!」



 俺が離れたことに気が付いたデカ犬。

 さっきより強い力で牛もどきの方向にグイグイ押してきた。



「うっ! いやちょっと!」



 そんなに食べさせたいのか?!

 いや……食べさせようというか、これはきっとめり込ませようとしているんだな。

 もう俺は牛もどきに手を突っ張って耐えているんだからっ



「分かった! 分かったから押さないで! ちょっと待って! 食べるから!」



 情けなく叫ぶ中、なんとか本当にモツにめり込む寸前で開放された。


 腹まで毛に覆われてて見た目じゃ分からないが、きっと母親だな。

 母親が子供に嫌いなニンジンを何とか食べさせようと画策する感じに似ている。


 確かに腹は減っているが生肉は流石に色々とマズいと思う。どうにかして火を起こさないといけない。


 タバコを吸わない俺は当然ライターも持っていない。

 木を擦っての火起こしは時間が掛かるし、素人には難しいだろう。

 それに森の中の木は湿っているように見え、簡単に火が付くとも思えない。


 カバンの中身を確認し思案する。

 目ぼしいのはスマホ、財布、キーケース、手帳類、水筒、ペンケースぐらいだ。

 スマホのバッテリーを潰せばすぐ火が付くけど……そこまでしたくないしなぁ。


 あぁ……内ポケットから賞味期限切れの眠気覚ましのガムを見つけた。

 いつ買ったんだこれ?


 続いてペンケースを開く。

 段ボールを開封する時によく使っている大きめのカッター、プレゼン用のレーザーポインターが目に付いた。


 あぁこっちでやってみよう。

『段取り開始』だ!



 ◇



 まずは火を起こす場所を作る。

 燃え移らないように近くの川辺に移動し、日陰に簡単にかまど状の石組みを作る。


 洗った平たい石を乗っけて一先ず完成。

 周りに乾いている枯れ木を集め、手頃に折っておく。


 手帳を数ページ破り取る。

 細かく破り、燃えやすいようにする。


 よしっこれで『段取り完了』。


 レーザーポインターから乾電池を取り出す。

 ガムの包み紙を軽く擦ってから真ん中が細くなるように切り取る。


 アルミ箔側を電池の上下の端子にそーっとビビりながら付けた。



『ボッ』



 包み紙に一瞬で火が付く。



「うぉっと」



 紙屑に落とすと一気に燃え広がった。

 慌てて電池を回収し、枝をくべる。


 小枝から枝、太い枝へと順調に広がる。

 火の回りがかなり速かった。もうしばらくは消えないだろう。



 ◇



 これはヒューズを飛ばしたことがある人には分かる苦い経験を利用した火起こしだ。

 簡単に言えば許容量を超えて電気を流すと発熱して燃える。


 自分達は『火入れ』というが、装置に最初に通電する時にヒューズを飛ばしたことがある。

『おいおい3Aで足りると思っていたのに計算間違えたか?』と色々調べたら単純にコモン同士をショートさせていた。

 俗にいうただの誤配線だった。


 今でも恥ずかしい失敗として覚えている。

 それからは通電前は必ずテスターで当たるようにしている。



 閑話休題



 途中から不思議そうに見ていた白犬親子は食事を終えたようだ。

 今は川で赤い汚れを落としている。綺麗好きなのか水を嫌がる素振りはない。

 そういえば撫でまわしても嫌な臭いがしなかったな。


 落とし終えたら自身の周りに風を出して乾かしている。

 魔法便利すぎでしょう。


 そんな中、俺は恐る恐る牛もどきに向かう。見るとモツはほとんど食べられている。

 残りのモツは後で食べるのかな……まさか俺の分とかじゃないよな……

 少し見慣れてきている自分が恐ろしい。


 カッターで一番切りやすそうな牛もどきの背中肉辺りを切り取ろうとする。


 硬った!

 刃がほとんど通らない。少し皮が切れたぐらいだ。

 何度も切るが全然進まない。


 うーんと悩んでいると、



「ガウ!」



 バシュッと音がして牛もどきの腹から背中にかけての肉が削ぎ落ちた。

 魔法強すぎでしょう。



「デカ犬ありがとう。次は見ている時にお願いね」



 手伝ってくれたデカ犬の首を撫でる。本当に賢い。

 まぁこんなには食べれないんだけどな。

 3kgはありそうな肉の塊を持って川辺に戻る。



 ◇



 まずは肉を一度火で炙り毛を燃やした。

 川の水で洗い軽く汚れを落としておく。



「デカ犬もう一回できる?」



 2㎝ぐらいに切り分けるようにカッターで切りつけるのを近づいてきた2頭に見せる。



「ワゥ!」



 今度は白犬が手伝ってくれた。

 本当に賢い。かわいい。

 とりあえず肉を放っておいて白犬を撫でまわす。


 お陰で分厚いが綺麗に分かれた骨付き肉が出来た。

 こうなってしまえばもう分厚いステーキ肉だ。


 もふもふを堪能した後、熱しておいた石の上に肉を並べて置く。


 ジュジューと食欲をそそる音を出しながら肉が焼ける。

 以外に脂が乗っているのか火に滴る脂や肉自体からパチパチと子気味いい音も鳴っている。

 匂いも獣臭さは感じない。


 しばらくしてカッターで枝を削って作った箸でひっくり返す。

 食欲を刺激するいい焼き色が付いている。

 こいつはうまそうだ。


 さっき確認した時、黒い木や葉はハーブのような爽やかな香りがしたので匂いがやばかったら包み焼きか燻製でもと思っていた。

 ……いけない。これは少し悪い癖だ。

 町に向かわなければならないのに途中からかなり楽しくなっていた。

 変に凝ることにならなくて良かった。


 ただ、やっぱり怖いのでじっくりと中まで火を通す。

 大分柔らかくなった肉を細かくして、堅そうな皮の部分を取り外す。



『ハッハッ』



 近くでよだれを垂らしている物欲しそうな白犬。

 火が怖くないのか。


 しょうがない。取り外した皮を直火で炙る。ジューと音を出し、縮みながらパリパリに仕上がる。

 冷ましてから渡した。

 大きい方の皮はデカ犬に。


 2頭ともクチクチと噛んだ後、うまそうに飲み込んだ。

 普段は皮まで好んで食わないだろうし、焼いたこともないだろう。

『どうだ? これが文明の力というやつだ』とドヤ顔を見せていると肉も十分に火が通り食べごろになってきた。


 さてとまずは小さな欠片を一口。

 味は悪くない。普通に食えそう。

 飲み込まないように咀嚼して、痺れや変な苦味がないか確かめる。


 ――よし。毒なんかは無さそうだ。


 少ししてから飲み込む。



「うっまっ」



 我慢できず大きな肉にも手を伸ばす。

 噛むとジュワッと肉汁が口の中に広がる。

 あっつ!

 慌てて水を飲む。


 けどうまいっ!

 少し豚肉に似ているだろうか。適度な弾力があるがジューシーな肉質。脂身は柔らかく、舌の上で蕩ける。

 肉汁も多く肉の味だけで十分食える。最後にちょっと獣特有の臭みを感じるが、かなりうまいと思う。

 異世界最初の食事は、素晴らしい渓流の景観を堪能しながらのBBQ。後はビールがあればもう最高だ。



「バウ!」

「クゥゥン!」



 2頭が、涎を出しながら催促してくる。

 あれだけモツ食べてたのにまだ食えるのか。


 俺に無理やりモツをごちそうしようとするぐらいだ。

 無理やり奪っていかないのは信頼されているからだろう。良好な関係を築けていると思う。



「冷ますから待っててね」



 しっかりふーふーした後、手前の石を小皿代わりにして置いてやる。

 白犬には箸でちぎった小さい欠片、デカ犬には一枚を。


 牙先で咥えた肉を首の反動を使って上手に口の中まで運んだ。



「「ハッフッ」」



 2頭とも同じように少し熱がっている。

 だが美味しそうだ。


 俺も食べながらどんどん焼いていく。


 結局1時間ぐらいでデカい肉が1人と2頭の腹に収まった。

 まぁ大半を食べたのはデカ犬だ。

 どこか餌付けをしている気分だった。


 たまには違った食べ方も良かったのだろう。

 2頭ともぐりぐりしてきた後、満足そうに横になっていた。



 ◇



 きちんと後片付けをしないとな。火は水をかけて消火した。


 さてと時計は14時、周りを見ると日が傾いてほんの少し暗くなってきている。

 暗くなる前に町に着かなければならない。

 こんな変な黒い木がうろつく森で野宿はしたくない。



「本当に助けてくれてありがとう。肉も美味しかった。……そろそろ行くよ」



 2頭にお礼を言い、順番に撫でてからギュッと抱きしめる。

 半日も一緒にいなかったが、いざ別れるとなるとすごく寂しい。



「クゥゥン」



 別れだと分かっているようだ。

 白犬は寂しそうにぐりぐりしてくる。



「また魚釣りに来るよ。今度は塩焼きを食べような」



 脳内買い物リストに塩を加えておく。



「ガゥゥ」



 デカ犬が白犬を優しく引き離す。



「デカ犬ありがとう……それじゃまたね」 



 2頭に見送られながら、もう森には入らないように土手をずんずん歩いていく。

 別れる決心が揺らぐ気がするから振り返らない。


 やっぱり少し胸が痛い。

 慣れない異世界で少しセンチメンタルになっているのかも知れない。



『ドンッ』



 いきなり壁にぶち当たった。


 あ……れ? 壁なんか……あったか?


 めまいがする……

 体が重い……


 顔を横に向ける。

 壁に生えた木の陰には淡青色の野菊のような花が咲いている。


『あぁこれは地面か』と気が付く時には意識は遠くに飛んでいった。


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