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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
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41:大きなレンガ造りの洋館

 大きなレンガ造りの洋館。

 今朝までの雨を残した外壁は水玉に濡れてキラキラと輝く。

 朝のしっとりとした空気は温められ、じめっとした感じが増してくる陽気。


 ここグロイスのギルドは連日多くの冒険者が訪れる。

『受付』はクエストの難易度を考慮して、効率良く冒険者に振り分けアドバイス、『メンテナンス』を覗けば猫耳イケメン店員が初心者に優しくレクチャーしてくれる。

 解体が必要なら素早く『解体所』が対応、そして持ち込んだ戦利品は安心価格で『素材買取』。

 こうしてキビキビと働くギルド職員達により冒険者は支えられていた。



「すごい指名クエストが来てますよっ」



 そのギルドの顔と言われる『受付』。

 新人受付嬢のヤナさんは目とメガネを輝かせながら告げた。

 ちなみに今立っているのはギルドの受付ではなく、2階の書庫から帰る途中だ。


 ここ数日は俺がにゃんこ先生にボコボコにされてから考え直したらしく、『面白いクエスト』を勧めてくることはなくなった。

 さらにお昼前という空いている時間であっても、持ち場を離れてまで伝えにくるのは余程のことなのだろう。


 ただ、これ以上冒険者のランクを上げる必要もないし金を稼ぐ必要もない。

 俺はとりあえず渓流、そして湖や海に行ければ何も問題はないわけで、どんなに『すごいクエスト』であっても丁重にお断りしたいってのが正直なところだ。



「いやぁすみませ――」



「いいえ! 絶対に受けるべきですっ」



「そんなこと言われ――」



「これは頑張ってきたご褒美ですっ」



「……ですから――」



「話だけでもっ」



 何かのヤバイものに勧誘されている感じだが、可愛い娘にこうグイグイ詰め寄られると『じゃあちょっとだけなら』なんて言ってしまいそうになるのは俺が年をとったからなのだろうか。



「おいヤナ。強制はすんなって言っただろう。悪かったなコイズミ。がっはは」



 豪快な笑い声と共に現れたのは支部長のガノンさん

 支部長自ら現れたとなるとこれは本当に『すごいクエスト』なのかもしれない。



「でもっ! そうだ支部長からもお願いしますっ」



「あぁーなんつうか……柄じゃねぇんだがな。話だけでも聞いてやってくれないか?」



 へぇ。ガノンさんまでもが勧めるクエストか。

 それは興味が出てきたな。



「じゃあちょっとだけなら」



 ◇



「うまい話過ぎませんか?」



 俺は率直な感想を口にした。



「えぇとんでもなく好条件ですっ」



 メモを取る手を休め、疑いの眼差しをヤナさんに目を向ける。

 当の本人はというとそんな目線を気にもとめず、ニコニコと微笑んでいる。


 プライバシー保護のため、通された個室。

 目の前のクエスト用紙に書かれた名は『処理済みツァンゴーレムコアの納品』。

 物々しい名前に身構えたが、内容は言わば『子供のお使い』だ。


 迷宮都市ロンメルにある迷宮ダンジョンの1つ、『ポルタ遺跡』。

 入口は10級で最深部は4級に指定されている。

 その超古代文明が残したと言われている広大な遺跡では、なんと様々なゴーレムが出現するという。


 そのゴーレムは倒すとコアをドロップする。

 コアが様々な産業に用いられ、今回のツァンゴーレムコアは高品質な鉄鋼素材としてメジャーな材料となっているそうだ。


 今回のクエストの納品数は10個、納期は1週間後、納品先はクランハウス。

 ここまでは至って普通。

『子供のお使い』、うまい話過ぎると思ったのは、その破格過ぎる報酬価格。

 報酬欄に書かれているのは『100万ゴル』。ヤナさんが言うにはこれは相場の10倍ほどの価格らしい。


 つまりツァンゴーレムを倒さずとも、どこかで適正価格で買って納品するだけで90万ゴルもの利益。

 うーんと唸るほど明らかに怪しいクエスト。



「このクエスト大丈夫ですか? 何か裏がありませんか?」



「大丈夫ですっ『アイゼイレ』と言う、超大手の工業系クランからの指名クエストですよっ」



 テンション高く説明をしてくれるヤナさん。

 ビシッと立てた人差し指のキレがいつもよりいい気がする。



「でもこんな……」



「ふふふっこれはコイズミさんが認められたんですっ! 迷宮技師ダンジョニアの凄さがっ」



「??」



「クランは優秀な冒険者に入って欲しいですよね? だから目星い人にはこうして好条件の指名クエストを出すことがあるんです。『いいクランですよー』ってアピールなんですよ」



「うーん。いや有難いのですが、私はクランに入るつもりはないですよ」



「それでもいいのです。クランに好印象を持ってもらえれば、きっと何かあった時には手助けしたくなるでしょう? 優秀な冒険者と顔を合わせておくという事が重要なんです」



 あーそういうことか。だから納入先がクランハウスなのか。

 これは宣伝も兼ねたスカウト、顔合わせ、それに新人に唾をつけておくって思惑がある訳だ。


 ただ、どれだけ好条件でも今は出張(バカンス)中だ。

 やっぱり別にやる必要ないかなって思ってしまう。



「こういう指名クエストって断れるんですか?」



「えぇ! 断る気なんですか! こんなにいい条件なのに?!」



 ニコニコ顔から突然『信じられない』とでも言いたげな表情へと変わる。



「せ、説明しましたよねっ? どこかで買って納品するだけで100万ゴルですよ?! 貢献値も高めに設定されてますし、何より安全ですっ! 何も断る理由なんてないじゃないですかっ! あたしが代わりにやってあげたいぐらいですっ」



「まぁお金もそんなに要らないですし、これ以上冒険者ランクを上げなくても……」



「どうして……そんなっ……あたしは知ってますっ。グランミルパを倒したのがコイズミさんだってこと。ゴロックトラップの利権を放棄したことも、黒晶の利益を受け取らないこともっ」



 気が付けば語気を強める声とは裏腹に、説得してくるヤナさんの目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。



「あたしは悔しいんですっ! コイズミさんはもっともっと……」



「ヤナ。そこまでだ」



 これまで黙って見守っていたガノンさんが優しく諭すように制した。

 俺の為を思ってのことなんだろうけど、まさかヤナさんがここまでヒートアップするとは思っていなかった。

 少しだけ困惑してしまう。



「『指名クエストを断れるか?』だったな。答えを言えば断れる。有名冒険者には引切り無しに指名が押し寄せる。まぁ当然全部は受けられねぇからな。ただ、こんな条件のいいクエストを断ろうとすんのはお前以外に見たことねぇがな。がっはは」



 じゃあ断れるなら断ってしまおうか。時間が惜しい。

 ただでさえ昨日みたいに雨が降った日は釣りに行けないんだから。



「しょうがねぇ。判断は冒険者の自由だ。しかしポルタ遺跡に行くんだったら、ついでに俺にも『アンギラ』を獲ってきてもらいたかったが残念だ。お前の空間魔法なら簡単に捕獲できると思ってたんだがな」



「アンギラというと、あの?!」



「あぁ遺跡の中には大きな池があるんだが、豊富に水生生物が生息していてな。中でも珍しいのが長くてヌルヌルしたアイツ。滋養強壮剤の材料になる。しかも蒲焼きにすると美味いんだぜ」



「行きますっ! アンギラ! ポルタ遺跡! あっやりますっクエスト」



 目をパチクリと見合わすガノンさんとヤナさんには分からないだろう。

 放置していた竿先の鈴がチリンチリンと鳴ったときの高揚感を。

 そして俺の頭の中にはもうじっくりと七輪で焼かれたうなぎが湯気を上げていた。


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『ツァンゴーレム』


『形態・特徴』

 中型の人型ゴーレム。

 体組織が砂岩に似ており、斬撃は不向き。

 上半身に無数に鋭利な突起を持つ。

 マナ覚を用いるため、死角に注意。

 体長は1.5mほどで動きは遅い。

 魔石位置は頭。


『スキル・アビリティ』

 鋭釘スパイク


『マナ食性』

 無し


『出現環境』

 ポルタ遺跡、ウルム遺跡


『ドロップ』

 7級魔石、コア


『危険度』

 通常個体:7級  


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