40.5:両手で抱える
両手で抱えるほどの大きな紙袋でオワカレの手が振れなかった。
でもオワカレのアイサツは照れずに『またねっおにいちゃん』と言えた。
ちょっと驚いたような顔だったけど、四角い帽子を取って頭を撫でてくれた。
白い部屋に戻ると大きなお土産をテーブルに置いて、いつものもこもこ部屋着に切り替える。
胸に手を置くとポカポカと暖かい。
『ケーヴィーたーだいまー
……うんっうんっ! 『おいしい』ってすごかったよっ
いっぱい食べさせてもらったんだよっ
それにほらっ これ見て こんなにお土産をもらったんだよっ
『肉まん』も後で食べようねっ
……そうなのっ 追加機能をすごい褒めてくれたの!
え? ……うんっ えへへっ『おにいちゃん』って呼んでもいいかなって///
『はぁ! これがチャンス?』 って思ったの! ナイスだわたし!
……そうそうっ『おすすめの肉まんがあるんですよ。ディーツー』だってー///
ん? ……あーそうだ……どうしようか?
……スマホって……あの端末?
あー……いいねっ うんうんっきっと喜んでくれるよっ
そういえばケーヴィの方は順調なの?
……うん……うん。そうなんだっ 良かったぁ
おにいちゃんも無事だったし……あぁっ……そうでした!
まだケーヴィには怒ってるんだからねっ!
あっ……もうっ早いんだからぁー』
逃げちゃったケーヴィは置いといて、じゃあ早速取り掛かりますよっ
わたし仕事は早いんですからっ
今からわたしは魔石エクスプローラーですっ
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
――グロイスギルド2階の書庫
最近ではとても騒がしくなったギルド。
しかし日が沈み、広場に音楽が満ちる頃には静寂が包み込む。
「ヤナ遅くまでどうした? ん? 魔道書見てんのか」
「お疲れ様です。支部長も遅いじゃないですか。また奥さんに怒られますよ?」
「またってなんだ、またってよ。ウチは円満だぞ。んで、なんでそんなもん見てんだ?」
「……またちょっとだけ挑戦してみようと思いまして」
「どうしたんだ急に? あぁ……そうか。 まぁ……アレは特別だ。ほどほどにな」
「分かっていますよ。自分の才能の無さは」
「おい。そういうことじゃ――」
「ふふっ冗談です。……あたしは勘違いしてたんです。コイズミさんは……強くて賢くて凄い人なんだと、迷宮技師なんだから凄いんだと勝手に思ってたんです。でも違いました。多分あたしなんかより全然弱いステータスでした。それでもあの時、何度も何度も立ち上がって……」
「……」
「気がついたら、あたしは叫んでいました。あたしの所為であんなことになったのに、『ごめんなさい』って気持ちより、『頑張って欲しい』って思ってしまったんです。でも終わった時には服もしわくちゃになるぐらいだったのに、何事もなかったみたいに『大丈夫ですよ』って言ってくれて。『あぁこんなにも弱くて守ってあげたくなるような人が頑張っているのに、あたしは何をやってるんだ』って……」
「その後はぶっ飛ばされて、診療所行きだと聞いたがな」
「もうっ茶化すなら早く帰ってくださいっ お疲れ様でしたっ」
「がっはは。冗談だ」
「もぅ……でもその時からなんだか素直に思えたんです……『できるか分からないけど、とにかくやってみよう』って」
「……あいつは本当に迷宮技師なんだな」
「……? 支部長がそうギルド新聞に言ったんでしょう?」
「がっはは。こうして迷って燻ってた受付嬢を、簡単に変えちまいやがった」
「……ふふっ……そうですね。受付嬢の1人や2人、きっと楽勝で変えてっちゃうんですよ。なんてったって迷宮技師なんですから」
その日、遅くまで魔道書の前にはキラキラとマナの煌きが降り注いだ。
見守るのは、結局妻に怒られることになる支部長と魔石の補充が近いマナの灯り。
時折ゆらゆらと揺れるその灯りは、頼りなくも優しく照らし続けていた。
それはまるで誰かの胸に宿った小さな灯火が消えてしまわないように。




