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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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4:身の安全は保障すると言われたが……

 身の安全は保障すると言われたが、もう初日にトラブルが発生した。

 今生きているのは、奇跡のようなものかも知れない。


 分かっている。

 俺が馬鹿だった。舞い上がっていた。

 襲われたのは迂闊(うかつ)に森の奥に入った自分が悪い。

 日本だって安全だと言っても山奥には熊や蛇がいる。


 でも近くに猛獣がいる場所に飛ばすなら注意してくれてもいいだろ?

 正直、貴重なサンプル扱いだった自分がそんな雑に扱われるとは思ってなかった。

 半端な銃とかが効くかは不明だが、護身用の武器だって持たせて欲しかった。


 ふぅ……今更嘆いてもしょうがない。

 クライアントを現地確認した時に聞いていた内容と違うことはよくある。

 仕様変更、仕様追加は割と日常茶飯事だ。

 ディーツーとの定時連絡の時には、町までの距離の事と共に確認を入れるとしよう。


 そうこう考えている内に白犬達とは打ち解け、白犬に至っては撫でまわした結果、背中をこちらに向けて『ぐでー』っと横になっている。

 野生どこいった。



「ぐるぅぅ」



 今のはデカ犬の鳴き声じゃなく俺の腹が鳴いた。

 色々あって昼をかなり過ぎている。腹が減った。

 本来なら町で異世界料理に舌鼓を打っていたはずだ。


 そういや出来るだけ見ないようにしていた離れた位置に置いてある異様な物。

 デカ犬が持ってきたであろう、あの血まみれの動物はなんだろう。


 強いて言えば牛に似てるがかなり筋肉質でデカい。頭には一本角が生えている。

 あまり近寄りたくはないな。


 白犬達あれ食うのかな……

 雑食だったのか。


 ふと視線を向けていると、牛もどきに向かって木々の間から細い木の枝が伸びてきていた。

 小さくギギギと軋むような音が聞こえる。


 なんだあれ! 木が動いてる?!


 まるで植物の成長を早送りで見ているようだ。

 何本も根を張るように、歩くような速度で移動している。

 牛もどきに鋭い枝を伸ばそうとしている?


 何をするのだろう。

 目を見張る。



「ガルゥ!」



 一歩前に出たデカ犬が唸る。

 一瞬体の周りに青白いものが漂う。


 バシュッと風を切る音。そして突風が俺を襲った。



「うわっ!」



 離れている木が千切れるように吹き飛ぶ。



「ワウ!」



 白犬も残った根本部分に向かって何かを放つ。

 根本から切り裂かれた木は完全に動かなくなった。



「すっげ! なにそれぇ! なにこれぇ! 魔法かよっ!」



 何この犬達! 風操れんの? 魔法使えんの?

 RPGの風魔法にしか見えなかった!



「ねっデカ犬っ! もう一回! 分かる?! もう一回出して! 白犬っもういっかい! ね? もういっかい!」



 興奮する俺を白犬親子共々不思議そうな顔で見てくる。

 全力で催促するがもう打ってくれる気はないらしい。残念……


 最初に白犬が俺に光を放ったのも何か効果があったのだろうか。

 傷が治ったのはそのおかげかも知れない。


 早く町に行って色々と確認しよう。


 事前の説明には一切なかったことだ。

 俄然楽しみに感じてきた。



 ◇



 俺は動かなくなったことを確認してから、恐る恐る木の残骸に近づく。

 普通の木に見える。今まで動いていたとは思えない。

 ただこの黒っぽい木には見覚えがある。


 振り返れば、俺が突っ込んだ茂みの近くにも切り刻まれて転がっている。


 ……ふと気が付く。


 もし追われている時に今の風の威力を俺がまともに食らっていればひとたまりもなかっただろう。


 今冷静になって思い出すと、逃げている時に何度かどつかれたのは黒い木の無い方向へと転がしていたように思える。


 白犬を覗いている時、俺が潜んでいた周りには黒い木と茂みが有った。

 あの時のガサゴソ音がしたのは勘違いではなく、枝で狙われていたのだろうか?

 だから俺ではなく周りの木を攻撃したということか。


 黒い木の茂みをかき分けていた時は背中に体当たりをしたのだろう。

 狙われていた枝から身を挺して庇ってくれたのか。


 一連の行動に合点がいった。



「……守ろうとしてくれてたのか?」



 白犬を撫でながら正面から見つめる。

『気にすんな』とでも言っているかのように『ぷいっ』と目を逸らされた。



「……白犬ぅ……ありがとうぅ……何も知らないのに俺を助けてくれて……」



 白犬達は涙ぐむ俺を先ほどよりもっと不思議そうな顔で見ていた。



 ◇



 白犬をぐりぐり撫でていると、デカ犬は牛もどきに近づいた。

 白犬も手を離れ、そちらに向かう。これはどうやら食事をするようだ。

 俺はあまり見たくないから、少しだけ離れる……


 デカ犬は先ほどの動く木の事があったせいか、周囲を警戒している?


 あぁ。初めは白犬に食べさせるのか……


 可愛い動物の献身に続いて、親の愛情を目の前にして最近めっきり弱くなった俺の涙腺が崩壊した。


 動物の思いやる愛情っていいよなぁ……

 最近実家にも帰れていなかったなぁ……ぐずっ

 みんな元気にしているだろうか……


 手の甲で拭いながら故郷を思い出してしまう。



『ガブチッ ビチュブチッ!』



 あぁ……そんな……モツの生出しはマズいですよ白犬さん……


 思い出の中の家族や友人を無邪気な白犬が追い払う光景が浮かぶ。

 軽やかにノスタルジーがどこかに吹き飛んでいった。



 ◇



 周囲の警戒に引っかかるものがなかったのかデカ犬も食べ始めようとするが、ふとこちらを見た。


 すると一瞬で俺の後ろに回る。

 鼻先を使って牛もどきの方向へ俺を軽く押す。



「グルゥ? ガゥ!」



 優しくとれば『良ければどうぞ』、乱暴にとれば『お前も食え』みたいに聞こえてしまう鳴き声。

 いやいや。いや……いやいやいやいや。



「いえ、お気持ちはうれしいのですが結構です。お気遣いなく」



 両手でやんわりとお断りする。

 まず食べる以前に牛もどきだった物を直視できない。


 魚の生態については色々聞いて頭に叩き込んだ。川魚はほぼ地球と同じように食える。

 しかしこの牛もどきは人が食べれるかどうか分からないし、助けてもらっておいてなんだが、流石に生肉を食う勇気はない。

 体のことを考えれば早く町に行って食事をとる方が賢明だろう。



「ガゥ!」



「いえ結構です」



 デカ犬とのにらみ合いが続く。



「ワゥ!」



 食べていた白犬が突然吠えた。

 かじっていたモツの中に何か……光る物を見つけたようだ。


 そう。咄嗟に見てしまった。光る物以外にもいろいろと。

 うげぇ……しばらく肉食えないかも。


 その光る物を咥え、俺の前まで持ってきて置く。

 白犬は顔を突っ込んでいたせいで口元の上の方まで赤く染まっている。

 それ怖いって。



「……くれるのか?」

「グゥウ?」



 デカ犬も不思議そうに白犬を見ているようだ。

 拾ってみると血濡れではあるが、10mm程度の小さなビー玉に見える。


 水筒から水を出し手ごと洗った。

 牛もどきが飲み込んでいたのだろうか丸みがある。

 そういえば胃に石を入れて消化の助けにする習性があったことを思い出す。

 あの習性は鳥だったか?


 本当に良く目を凝らすと薄く黄緑色に光を放っている。

 発光する石……放射能とかじゃないよな……


 (いぶか)しげに眺めていると



「ワゥ」



 白犬は『ちょっと貸してみろ』とでも言っているかのように手のひらで転がしていた宝石を咥える。


『ガキッ』とかみ砕いた音が響く。

 マジかよ。噛む力強過ぎじゃね?


 そして砕けた欠片を俺の手に戻した。

 1/3ほどに砕けた欠片を咥え、さらに噛み砕いた後飲み込んだ。

 白犬は『こうやるんだ』と言わんばかりのドヤ顔に見える。



「えぇ?! 食べ物なのこれ?!」



 いくらなんでも雑食すぎるでしょう!


 ジーっと見つめられる中、まぁ飴にも見えるし生肉よりはましかなと欠片をよくよく念入りに洗い、思い切って口の中に入れる。



『ギギッ』



 ……石だ。


 舐めても微塵も味は感じない。ほんの少し生臭いぐらいだ。

 噛もうとしてもギギッと歯軋りのような音しか出ない。

 無理無理! これ絶対人間の食べ物じゃない!



「ありがとう。貰っておくよ」



 俺には食べられなかったが親愛の証のように思える。

 大切にとっておこう。


 カバンにしまおうとした時、ディーツーに貰った紫の宝石が目に入る。

 色と大きさは違うけどさっきのビー玉はこれじゃない?



「お礼にこれを食べるか?」



 試しに2つ取り出し白犬とデカ犬の前に差し出す。



「ガオゥ!」「ワオゥ!」



 2頭の声が重なる。

 デカ犬までも腰を上げ前足を低くした姿勢になり、大きな尻尾をぶんぶんと振っている。

 目が輝いて見える。良かった好物のようだ。


 ゴルフボールぐらいの紫宝石をほいっと渡す。


 白犬は空中でうまくキャッチした。

 デカ犬はそのまま飲み込み、白犬はガリガリ砕きながら食べた。


 かなり美味しかったようだ。

 さっきより目が輝いている。


 比喩ではなく本当に……


 ナニコレ? 白犬の目はビカーッと輝き始めた。

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