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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
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36:出来たよっ これが依頼品

「出来たよっ これが依頼品【鉄湿疹病の起きない初心者用の細剣】」



 それはまるでクリスタルの刀身。


 ほんの少し反った片刃。

 切っ先は鋭く、流れるような流線を描き、磨かれた刃は寒々しい光沢を放つ。


 太刀ほど長くなく、言わば小太刀。

 飾りのない機能美を追求したその姿は、奇しくも日本刀に酷似していた。



「なんだってっ? おいそれって……見せてみろ」



 慣れた手つきで、切っ先から刃の端に至るまでじっくりと見定めるように眺める。

 それは少しの妥協も許さない熟練の鍛冶屋の目利き。


 続いてマナの通りを確かめるように、刀身にマナの輝きを灯す。

『気高く孤高』そんな事を思わせるような淡い白光が刃に宿った。



「マルテ。これは……何を斬るための剣だ?」



 じっくりと眺め見定めた後、そう問いかける。

 あのお節介な客に問われたことと同じ内容を。



「……初めは岩石系の奴を抜かした全ての初級魔物。マナ操作が上手くなった後はハイオークまでの6級魔物。これは初心者から中級者が一人で戦い抜くための細剣」



「……この2日で何が有ったんだ? あんたの入れ知恵かい?」



「いや何も。私は材料を用意しただけですよ」



 ニヤッと笑った口から『ほぅ』っとため息に似た感嘆が漏れた。



「そうか……。一見強度が足りてないように見えるが、よく考えられている。特殊な素材だが重心や刃渡りも片刃にしたことも全て理にかなっている。これはコイズミ。正しくお前に合わせて作られたモノだ。マルテ……良くやったな。大したもんだ」



『これは紛れもなく俺を唸らせる逸品だ』とついに熟練の鍛冶屋が太鼓判を押した。



「……ほんと? ほんとのほんとにっ? やったっ…… やったぁああ」



 不安な顔から一転、笑顔が弾ける。

 そのまま勢いよく抱きつく。



「おいっマルテっ! あぶねぇって」



 細剣を当てないように身をよじるその顔は嬉しそうな、それでいて少し悔しそうで、そして何より誇らしげに見えた。



 ◇



 しばらくして身を離したマルテは真剣な表情になり、サイトンへと向き合う。



「実はコイズミさんにも同じ質問をされたんだ。……その時はあたしは答えられなかった。だから剣を持つ人の事を考えてなかったって気づけたの。いくら腕を磨いても、いい物を作ってもそれを持つ人のこと考えなきゃ意味ないんだって気づかせてくれた」



 一旦言葉を区切る。

 決意を込めた青い瞳が真っ直ぐに父親を捉える。



「だから、あたし『魔剣鍛冶師』は()()諦める」



「一旦?」



「うん。決心がついたっ あたしは『剣聖』になるっ」



「なっ! なんでまたいきなり?」



「図鑑を見ただけじゃ全然分からなかったの。実際に魔物や魔獣と戦ってみないと武器の善し悪しは分からないって気づいたの。だからっ……あたしは自分で戦えて、自分で武器も作れる『剣聖』の『魔剣鍛冶師』を目指すのっ」



「くっくっ……わっはは! 『剣聖』の『魔剣鍛冶師』とは大きく出たなっ」



「もうっなんで笑うの! 最悪っ ほんとの本気で考えてるんだからっ」



「くっくっ分かってる分かってる。おいコイズミお前が焚き付けたせいで、娘が“俺を超えていく”と言いやがったっ! こりゃあ負けてられねぇな!」



 そう言うと奥に入っていき、すぐに大事そうに箱を抱えてきた。

 その年季の入った木の箱を優しく台に乗せた。



「開けてみな」



 どこにでもあるような、でもどこか雰囲気の有る古い箱。

 マルテはいささか緊張気味に蓋を開ける。



「っ! これって!」



 震える手で箱から取り出した物は、鞘に納まった剣。


 おもむろに鞘から抜く。

『シャイン』と音を立て現れたのは、ムーンストーンのような柔らかな青みを帯びた刀身。

 その見つめる小さな瞳に似た色の剣を、ゆらゆらと揺らめくようにマナの流れが包み込んだ。



「やっぱりこれは【魔剣】! すごいっ マナが溢れてくる!」



「まっ早くても数年後になると思ってたんだがな。誕生日祝いだ。大事にしろよ」



「えっ?! 貰えないよ! こんなにすごいの貰えないっ」



「わっはは子供が遠慮すんな! こいつはお前の乳歯を触媒にしてる。名剣と呼ばれるか(なまくら)と呼ばれるかは、お前次第だ。……俺を超えるんだろ?」



 ガシガシと乱暴に頭を撫でる。



「こいつの銘はステナが名付けた。銘は【メーアマルテ】。お前と一緒に成長する、お前だけの魔剣だ。まずはこいつを超えてみせろ」



 諦めかけた夢より大きな夢を掲げたマルテの横顔には、かつて見せたものとは違う雫が光っていた。

 その光は『未来の剣聖』と『未来の魔剣鍛冶師』、そして『未来の名剣』が同時に誕生した瞬間であった。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「ただいまー ミスリルが安かったよー ってなになに? これは?」



 突然入ってきた女性はそう言いながらも、親子の抱擁を挟むように包んだ。

 マルテさんと同じような髪色。これがお母さんのステナさんかな。なるほど確かに美人さんだ。


 こうして明らかに場違いな俺は席を外すタイミングを見失い、だいぶ前から目を拭いつつ見守っていた。



「ステナ。おかえり」

「ぐずっ すんっ おかえりなさい」



「誕生日おめでとう。マルテ。パパがそれを渡したってことは、自分で進む道を決めたんだね。偉いよ」



「それどころか“俺を超えていく”らしい。俺らも負けてられないぞ」



「それはすごいねっ ね? よーし今日は誕生日と新しい門出のお祝いだねっ 極楽鳥のステーキも作っちゃおー」



 うぅ……良かった。本当に良かった。

 もうダメ。見てらんない。

 ちょっと席外そう。



「パパ。この方は?」



「あの迷宮技師ダンジョニアのコイズミだ」



「えっ! あの?! じゃあグランミルパの素材持ってます? 見せてもらえないかなっ? かなっ?」



 ペコリとしてから邪魔しないように席を外そうとしていたらステナさんに捕まった。

 呼び止められたとかではなく捕まった。


 あまりの速さにビクっとしてしまう。



「は、はい。どうぞ」



 びくつきながら『倉庫』から取り出し渡す。



「ありがとう! 『انظر من خلال الحقيقة.【慧眼】! これはっ土と火のマナ! 耐火……いやいや耐冷にも? それにこの硬度!」



 アダマンタイトがどうだとか、リョクオウジュがどうだとか興奮したようにグランミルパの甲殻を撫で回しながら観察し始めた。



「悪い。ステナは素材に目がないんだ。目利きは確かだぞ」



 そうか。ステナさんが材料の買い付けをやっているのか。

 あの感じはちょっと怖いが、確かにまだ公表されていないグランミルパの特性なんかも当てている。



「もうお母さんっ! この剣を見てよっ あたしが作ったのっ」



「あっ! ごめんねっ つい新種の素材を見ると……えぇ?!」



 マルテさんの抗議に我に帰ったステナさんは台の上の小太刀を見ると、またすごい速さで我を失った。



「これはクリスタル? いや違う。白輝龍の牙? ううんマナが弱い。となると……」



 オーガバイコーンの角がどうだとか、世界樹の葉脈がどうだとか悩みながら材料を当てようとしているようだ。



「はぁー……ほんとにもうっ あっははっお母さんらしいね。ねっ答えを教えてくれないかな? せーんぱい」



「先輩?」



「これからは冒険者のせんぱいだもん。ねっせんぱい?」



 いつの間にか上目遣いが上手な後輩が出来ていた。



「俺もこいつの材料は気になってた。例の依頼に最適だ。というか狙ってただろ? 良ければ売ってくれないか?」



「すみません。今はこれ以外に作っていないんです」



「作った?! まさかこれを?」



「えぇ実を言うとこの材料は有り触れた物なんですよ。誰でも手に入って誰でも作れます」



「わかんなーいっ! 全然わからないよっ」



 丁度材料当てに勤しんでいたステナさんも自分の世界から戻ってきた。

 それじゃあ種明かしと行こうか。



「これの元は『初心者が使う木刀』です。そしてこの形態の名前は――」


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