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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
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33:あぁこいつらはだめだ

前回唐突の微エロ展開に続いて、ラッキースケベ注意

 あぁこいつらはだめだ。

 良いように言いくるめられてる。

 雇うんじゃなかった。


 まぁいい。こいつの頭がそこそこ回ることは分かった。


 しかし、本当に弱そうな男だ。

 髪と目は黒色。普段着を着て、武器も持っていない。


 殺気を飛ばしても全くの無反応だし、無警戒。

 すぐに逃げてしまいそうな小動物感。

 ちょっとだけかわいい。


 あっいや……う、うん。


 暗殺者アサシンどころか、その辺の石ころなんかよりも気配を感じない。

 そこにいないような隠蔽技術。まるで底が知れない。

 こいつは見た目によらず、すごい奴なのかもしれない。


 仕方ない。ここは直接接触しよう。



 ◇



 どうしてこうなった?


 こいつはなんで立ち上がってくる?


 何度も何度も打ち据えた。8級程度の冒険者ならとっくに倒れてる。

 意味がわからない。


 こいつは弱い。どうしようもなく。

 フェイントにも対応できないし、足払いにもすっ転んだ。


 動きは良くなってる。かなりの速度で上達してる。

 でも、それだけ。


 こいつのステータスはたかが知れている。ゴブリン以下かもしれない。

 訓練してもゴブリンがドラゴンに勝てないように、圧倒的にステータスが足りない。


 こいつは頭の回る奴だ。

 あの2人をけし掛けたことも、敵わないことも分かっているだろう。


 それでも立ち上がり、木刀で打たれ、惨めに転がされる。


 これになんの意味が有る?



「うううううぅぅ うううううううぅ」

「いけぇええええ! 立てぇえええええええええ」

「あぁぁぁぁもういい! もういいって!」



 あぁうるさいなぁ。

 どんどんと増えていった奴らがこいつを応援している。

 あの雇った2人まで。


 大きな歓声が上がる。


 あぁ……また立ち上がった。

 ……立ち上がってしまった。


 その意思の宿る瞳が、怒りや憎しみではない確固たる意思が今も真っ直ぐに捉えてくる。

 意識を刈り取るつもりで打ち込んだ打撃は、こいつの意思には届かなかった。


 ジクっと胸の奥が疼く。

 看過することができないほどの熱い疼き。


 なんなんだこれは。


 罪悪感?   なにを今更。


 苛立ち?   ううん。冷静だ。


 まさか恋?  寝言は寝てから言え!



「……お願い……します!」



 絞り出した声。さっき打った手がうまく木刀を握れず不格好な構え。

 どこまでも頼りなさそうな……でも……


 あぁ……

 そうか……そうだったんだ。


 ……こいつに『頑張って欲しい』って思ってるんだ。


 会ったばかりの、なんの思い入れもない、ただの他人に。

『頑張って欲しい』なんて思っちゃってるんだ。


 ……だめだ。

 そんな甘さは許されない。

 そんな情は許されない。

 許してはいけない。


 次で終わりにしよう。


 今度こそ意識を刈り取る。いや、吹き飛ばすつもりでマナを込める。

 狙うのはガラ空きの左肩。


 小さく何かを呟いた?

 スキル? 今更だ。 


 あいつはまだ動かない。



 地面を蹴る。



 やっと反応した。迎撃しようと動いている。



 でも遅い。致命的なまでに遅い。



 それなら木刀ごと吹き飛ばす。



 それで終わりっ!



 ◇



 打ち込む刹那。



「『収納』」



 なっ……木刀……



 先……



 消え……



 えっ……



 空……振り?



 なんだこれは……なんで木刀の先が無くなった?


 なんで首にあいつの木刀が突きつけられている?


 まさかユニークスキル? ガラ空きに見えたのはこれを狙っていた?


 ペタンと尻餅をする姿勢。

 ……これじゃしてやられたみたいじゃない。



「わぁあああああ やったぞおおおおお」

「いやっほう! 私の言った通りだろ!」

「うぅ……防錆油が目に染みらぁ……何だよく見えねぇや……うぅ」

「あああぁぁ ああああぁぁ」



 割れんばかりの大歓声が上がった。


 あぁもう! うるさいうるさい! もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。



「……ありがとうございました」



 なんで手を差し伸べる?

 あんなに打ち据えたのに。大怪我してたかもしれないのに。



「いいぞぉ! ねえちゃんもいい稽古だったぞ」

「久しぶりになんか胸が熱くなったなぁ! よーしお前らクエストいくよぉ」

「いやぁいいもん見たなぁ。私はコイズミはやる男だと思ってたんだよぉ」



 野次馬達がゾロゾロと帰って行く。

 本当に手加減した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 違う。そんなことをしたんじゃない。


 もしかしてこいつは……庇った?

 そのために何度も何度も立ち上がって?


 また胸の奥が疼いた。


 こんなのは知らない。

 こんな……よく分からない気持ち、知らないっ



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 いやぁ危なかったぁああああ。


 まだ心臓バクバクしてるもの。

 なに最後のアレ。木刀がなんかチリチリしてたよ?

 ()()()()()()左の肩を狙ってくれなきゃヤバかったんじゃないか。


 まぁ大方ちょっとお手並み拝見だとか、そんなところだろう。

 もしくは本当に稽古を付けようとした超絶お節介か。


 どちらにしろこれで『にゃんこ先生』も大人しく引き下がってくれるだろう。



「なんで止めたにゃ?」



 急に腕をぐって引っ張って、立ち上がって突っかかってきた。

 だめだ。全然引き下がってない……

 それと近い。



「はい?」



「木刀を! なんで止めたにゃって聞いてるにゃ!」



 なんでって言われてもなぁ……



「傷つけたくなかったから?」



「あ、あまちゃんなのにゃ! なんで疑問形なのにゃ? 馬鹿なのにゃ?」



 あっ、めんどくさい感じの子だ。



「あっちょっとすみません。あのー木刀を壊してしまいました」



 にゃんこ先生が落とした木刀を拾って猫耳イケメン店員に謝罪する。

『それは初心者がマナを通す練習に使うやつだから』と笑って許して貰った。



「へぇ……そんな練習があるんですねぇ」



「あー無視すんにゃー! なんなのにゃこいつピンピンしてるにゃ! すごい奴なのかすごくないのか全然分からないにゃ!」



 だめだ。ちょっと間を置いたらどうかと思ったけど全然だ。

 そういやこの猫耳イケメン店員は『にゃ』付けないのにこの子だけ『にゃ』付けるのは何なんだろう。



『あぁそれは猫人訛りですね。西部ですとこういう感じですよ』と猫イケ店員。



「へぇ……訛りなんですねぇ」



「無視すんにゃあー! あっ田舎もんだと馬鹿にしてるにゃ!」



「そんなことないですよ。むしろ可愛らしいと思ってますよ」



「にゃ、何言ってるにゃ?!」



 おっなんか大丈夫そうだ。



「すみません、これで失礼しますね。ヤナさん書庫借りますね」



「はいっ ……どうぞ うぅ」



 なぜか目を腫らしたヤナさんから書庫の使用証を受け取る。



「すみませんでしたっ あたしが挑発に乗ったせいで、こんな事に……」



「あぁ大丈夫ですよ。もう痛みもないですから」



 さっさと調べ物をしよう。

 時間は限られてる。



「にゃあを殴るにゃ!」



 肩をぐっと止められた。

 あっ、めんどくさい感じだ。さてはめんどくさい感じのやつだこれ。



「えぇ……嫌です。そんな趣味はないですし」



「お前みたいなへなちょこのパンチじゃ、にゃあのマニャを貫けないにゃ! 触れることすらできないにゃ!」



「えぇ……じゃあ意味ないじゃないですか」



「にゃあの気がすまないにゃ!」



「えぇ……横暴じゃないですか」



「いいから殴るにゃ!」



 俺の手を取って、強引に殴らせようとする。



「いやっちょっと止めてくださいってっ」



 もう付き合ってられない。軽く振りほどく。


 ぐっ! 力つっよ! 全然振りほどけない。



「観念するにゃ!」



 足が浮くほどの力でぐいっと引かれて体勢を崩す。



「「あっ」」



『ムニッ』



「……んも……んむ……?」



『ムニョン』



「にゃっ」



 あぁ……この顔の左右にあるのは……



「にゃんっ」



 で、指に触れるコレは……



「に゛ゃああああああああああ」



 そこで俺の意識は吹き飛ばされるように刈り取られた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 目が覚める。


 ……柔らかなベッドに寝ていた。


 見渡せば木材がふんだんに



「あっ起きましたねぇ」



「ローザさん……それににゃんこ先生」



「なんなのにゃその名前は?! にゃあにはラッカって名前があるのにゃ! あぁっ言っちゃったにゃ! 忘れるにゃ!」



 にゃんこ先生ことラッカさんに診療所に運ばれたらしい。

 そしてどうやら診察されたようだ。……俺下着姿だから。



「ひどい顔の腫れも引いたのでもう大丈夫そうですねぇ」



「悪かったにゃ……ここまでするつもりは無かったのにゃ」



「いや、アレは……私もすみません」



「あ、アレも忘れるのにゃ! もうにゃあの存在ごと忘れるのにゃ!」



「あらあらぁ仲がいいのですねぇ。お友達なんですかぁ?」



「違うにゃ! 他人にゃ! 一応謝ったにゃ! もう帰るにゃ!」



「コイズミ殿! 無事か! あぁ良かった!」



 その時、扉を勢いよく開け、メルさんが飛び込んできた。

 遅れてシェフィリアさんも。



「ボコボコにされた猫人(キャットピープル)の乳を揉んでぶっ飛ばされたと聞いたぞ!」



「いやっあれはっ! ……ぐぅ……その……通りです」



 極めて遺憾ですがその通りです……反論の余地がありませんし、もうまともに顔を見れません。



「違うにゃ……アレは事故なのにゃ! コイズミは悪くないにゃ……むしろ……」



 おぉにゃんこ先生! どうか弁護をお願いします!



「ほう……では貴女が件の猫人か」



「にゃ?」



 部屋の空気が変わった。



「……覚悟は出来ているのであろうな?」



「にゃあ?!」



「か弱き者をいたぶる性根を! 叩き直される覚悟はできているのであろうな!!」



 ひぇっ! それはもう激烈に怒ってらっしゃる。

 怒りに震えるメルさんを中心に、空気の流れ? いやマナの流れ?

 目に見えるほど収束したマナがバチバチと紫電を放つ。



「ひにゃあ! 怖いにゃ! バチクソ怒っているのにゃ! ぶ、ぶっ飛ばしたのは胸を揉まれたせいなのにゃ!」



 あっ、売った? このにゃんこ先生俺を売ったよっ!


 しゅうんと音を立てて紫電が消え、マナが散った。



「……そうか。コイズミ殿の故郷では……その……乳を揉むという行為は和解や親愛の所作なのかもしれないが……ここでは違うのだ。控えてもらえると……助かるのだ」



 そんな羞恥の顔をされるとすっごい罪悪感が……



「いや違うんです……」



「メル様違いますよ」



 おぉシェフィリアさん! 分かってもらえますか!



「この者が本性を現しただけです。恐らく彼女の肌の露出に魔が差したのでしょう。今後近づいてはなりませんよ。この者にはっ」



 ひぇっ……なにあの目、こっわ!



「『異文化理解は体験して一歩目』と言ったのはメルちゃんですよぉ。そうでなくともトモヤさんは無理やりそういう事をされる人ではないですよぉ」



 ローザさん……マジ女神。

 今度菓子折りでも持ってこよう。



「……それもそうだな。確かに『魚を釣るという文化」の例もあるしな」



 ふぅ……よかった。なんとか一段落したようだ。

 こんなことで時間を潰してる場合じゃあないんだから。



「それに、もしそのぉ……あれでしたら、私の……で、よろしければ……///」



「「「……」」」



『じゃあお言葉に甘えて』


 って言いてぇええええ

 ぐぅぅローザさんそんな恥ずかしそうにしてまで! なにこの包容力!

 許されるのか?! 異文化は許されるのか?!

 理性さんが死んでしまう。そして社会的信用さんも死んでしまう。



「……もう……からかわないでくださいよ」



 血の涙を流す理性さんがなんとかそう答えさせてくれた。



「……我も……もしよければ」

「ダメです! メル様っ! それ以上はいけません! ぐぬぅ かくなる上は私が!」



 あっ、だめだ。

 全然一段落しないやつだこれ。



「じゃあにゃあはこれで失礼するのにゃ。コ、コイズミはなにもかもを忘れるのにゃ!」

「あっじゃあ私も調べものがあるので、ちょっと服を着させて貰いますね」



 どさくさに紛れて帰ろうとしたにゃんこ先生に便乗しよう。



「どこに行くつもりかな? まだコイズミ殿をボコボコにしたという件が片付いておらんが?」



 そう言って紫電を放ちながらにゃんこ先生の肩をがしっと掴む。



「ひにゃあ! ごめんなさいなのにゃ! もう帰して欲しいにゃああああ!」



 結局、この騒ぎは昼休みが終わるまで続くことになった。

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