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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
33/154

32:やっべ。宿屋の場所……

前回突然のシリアス展開に続いて、微エロ注意

 やっべ。宿屋の場所聞いときゃ良かった。


 そう後悔する俺の背中でレオさんはスースーと寝息をたてている。

 先程までは『【水球】は大きくなるほど制御が難しくて、水が暴走を始める』とたどたどしく打ち明けてくれたりしていた。

 今は全然起きる気配はない。よっぽど疲れていたんだろう。


『ムニ』


 恐らくマナ疲弊の症状だ。


『ムニュ』


 こんなになるまで頑張って練習していたんだなぁ。


『ムニョン』


 あ゛あ゛! ダメだ! なんだこれ!

 歩くたびに背中に柔らかい感触を感じる。

 それもかなり()()()


 最初は良かったんだよ。起きてたから。

 でも寝たなぁと思って一回ずり落ちないように『よっと』ってやってからはもうダメだ。

 気になってしょうがねぇ。


『レオ』に『僕』なら男の子だって思うよな。

 小柄なエルフの性別なんて分からないし確かめないじゃないのさ。

 これは流石に俺の宿に連れ込むわけにもいかないよなぁ。



 ◇



 ということで、ここに来たわけだ。

 ローザさんの診療所。ここなら間違いないだろう。



「あらあらトモヤさん。そんなに濡れてどうしたんですかぁ?」



 あぁ今日も癒しのオーラがダダ漏れだ。

 何度か顔を出す内にローザさんはトモヤさんと呼んでくれるようになった。

 顔には出さないがすごく嬉しかったりする。



「この子が多分マナ疲弊で倒れてたんです」



「あらー。それじゃあこちらにお願いします」



 案内されたのは、1階の奥の部屋。

 そして押入れの中から出してきた折りたたみの診察台の上にレオさんを寝かした。

 手際よく靴と靴下を脱がすローザさん。流石に手馴れている。



「服を脱がしますのでちょっと手伝ってくださいねぇ」



 ローザさんがレオさんを支えている。

 俺に脱がせと?


 ま、まぁいいか。相手は子供だし。

 確かに濡れている服は脱がしづらいしな。

 今更、子供の服を脱がすなんてことで動じない。

 相手は子供だし、な。


 敵はダボっとした厚手のローブ。

 万歳をさせるようにして脱がせる。


 ん……引っかかって上手く脱がせないな。

 ちょっと強引に、よいーしょっと。


 ――目の前に黒い髪留めと金髪から覗く少し長い耳。

 そして薄手のインナーを持ち上げる双丘がこぼれた。


 ……おい。なんだこれ。ちょっと透けてるじゃねぇか。ブラジャーしろよぉおお。

 オッドアイ金髪ロリ巨乳とか業が深すぎるだろぉおおおお



「はーい。お次は下ですよぉ」



 あまりの事に戦慄していると、さらに無慈悲な声が響いた。

 ローザさんは少しだけ腰を浮かせるように支えている。


 俺は平静を装うが、意を決して次の敵のベルトを緩めた。

 そして今度はゆっくりと間違いが起きないように脱がしていく。


 あれぇ……なーにこれぇ……すっごい背徳感。


 流石にあまり見ないようにしていたが、チラッと紐のような物が見えた。

 へぇ……以外にお洒落な感じの……いやいや不謹慎にも程がある。



「『نسيم دافئ ناعم【薫風】』 それじゃ診てみますねぇ」



 風魔法で素早く乾かすと、手を当て触診のようなことを始めた。



「……やっぱりマナ疲弊ですねぇ。これほど魔力が高いのに……相当マナを消費したんですねぇ」



『寝てれば良くなりますよぉ』とのこと。

 そのままヒョイっとベッドに運び、優しく寝かせた。



「あのままだったら体温が下がって危なかったですよぉ。えらいですよぉ」



 そして背伸びをして頭を撫でてくれる。

 連れてきて良かった。

 いやいや。そういうアレじゃなくて。

 やっぱり放っておかなくて良かった。


 しかし、そんなになるまで練習してしまうのはちょっと心配だな。

 今度シェフィリアさんに相談してみようか。



「さぁ次はトモヤさんの番ですよぉ」



 はい?



「わ、私はいいですよ。すぐ帰りますので。お代はいくらですか?」



「いりませんよぉ。はいー。お風呂行きましょうねぇー」



 そういうと俺を抱き抱えて脱衣所まで運び始めた。

 いやちょっと! つっよ! 全然抵抗できない! あっ! 


 そしてあっという間に服を脱がされパンツ姿にされた。

 ……なにこれすげぇ恥ずかしい。前向けない。



「ほらもうこんなに冷えてますよぉ」



 そして背中からぎゅっと抱きしめられた。

 いやいや。ダメだって。当たるんだって。

 すごいいい匂いするんだって。勘違いしちゃうってこれ。


 あっ……あったかい……すごい落ち着く……

 強ばっていた体の力がすっと抜けた。



「人を助けることは誰にでもできることではありません」



「……?」



迷宮ダンジョンには誰かが倒れていても見て見ぬふりをする人もいます。それ以上ひどい人も。今日はきっと助けるためにこんなに濡れたのでしょう?」



「いや……そういうわけでも……」



「うふふ。わかっていますよぉ」



 そう言うと、ぎゅっと少し力が強くなった。



「トモヤさんはきっと素敵な冒険者になります」



 溶け込むようにその言葉が響いた。


 あぁ……そうだ……とにかくやってみよう。

 自分でも驚くぐらい素直にそう思えた。


 そうだよ。技術者(エンジニア)の仕事だってやってもやっても、知らないことばっかりだ。

 今『何ができるか』じゃない。『何をできるようにするか』だ。


 背中から感じる温もりは力強くとても暖かい。

 心の奥で燻っていた苛立ちは、今はもうどこにも無くなっていた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 翌日、俺は2日ぶりにギルドを訪れていた。

 2階の書庫で色々調べるためだ。

 何ができるか分からないが何もしないよりマシだと思ったのだ。


 実はあまりギルドに来ていなかったのには理由がある。

 8級に成れたし、金も手に入った。

 別にこれ以上クエストをやらなくてもいいってのが1つ目の理由。



「あっコイズミさん!」



 そして2つ目の理由がこのメガネっ娘受付嬢のヤナさんだ。

 例のグランミルパ討伐からのゴロックトラップの地域興しクエストでは、完全に蚊帳の外だったのがすごく悔しいらしい。


 後はどうやら俺が迷宮技師ダンジョニアという二つ名を貰ったせいで、ミステリアスなものに見えるらしく、何かに付けキラキラとした瞳で見られる。


 まぁそれだけならいいんだけど、



「面白いクエストありますよ!」



 というように、俺に“面白い”クエストを持ってくる。

【アスカン屋敷の開かずの間調査】、【ホーエン砦のゴースト退治】等々俺には荷が重いものばかりなので困ってしまう。



「いや今日は調べ物なんです。2階を借りますよ」



 そう言って2階の書庫の使用許可を貰う。



「えぇ……もう全然クエスト受けてくれないじゃないですか。もう私は用済みですか!」



 使用証を取り出すが、渡してくれない。



「えぇ……人聞きの悪い。そのクエストは私には荷が重いんです」



「そんな事ないですよっ コイズミさんなら絶対できますって。なんてったって迷宮技師ダンジョニアなんですからっ!」



 いやぁそんなキラキラした目で見ないで欲しい。

 きっと腕力でもヤナさんにすら勝てないんだから。


 グランミルパを倒したんだからとガノンさんに勧められ、ステータスチェックをしたところ以下が現在のステータスだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 コイズミ・トモヤ 8級冒険者


【力】  35 ← 34

【耐久】 54 ← 52

【器用】 68

【敏捷】 24

【魔力】 3  ← 2


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……何も成長していないと言ってもいいぐらいの成長。

 逆になんで魔力が上がってんのか首を傾げたもの。

 俺は冒険者に向いていないとかではなく、この世界に向いていないんじゃないかと思い始めた。



「あれが噂の迷宮技師ダンジョニア? 2週間で8級に到達した奴があんな弱そうな奴?」



「どうせインチキでもしてんだろっ いけすかねぇオークの尻尾野郎だ」



 待合の方から口の悪い男女の声が聞こえた。

 というか明らかに俺に聞こえるように話している。


 チラッと目を向ければ、明らかに素行が悪そうな格好で椅子に腰掛けている。

 なんだろう……なんとなく分かるのは犬耳の男に狐耳の女?

 それぞれ腰にあるのは2つの短剣と弓だ。

 

 装備を着崩したように着て、どことなくヤンキーチック。

 ただ、俺にはどこぞのテーマパークで耳の帽子を付けたカップルにしか見えない。


 名が売れればやっかみを受けることは分かってたけど露骨過ぎないか?

 そんな安い挑発はスルーでいいだろう。



「コイズミさんはそんな人じゃありません! 取り消してください!」



 おーいっヤナさんが挑発に乗ってどうすんだって!



「おっと聞こえちまったか。悪かったなオークの尻尾野郎」



 さらに挑発するように下卑た笑いを浮かべた。


 なんか……すごくわざとらしい挑発なんだよなぁ。

 そのオークの尻尾野郎ってのがイマイチピンと来てないし。



「もうっなんなんですか! ギルド嬢を舐めないでください!」



「いやいいですって。私なら大丈夫ですからって、つっよ!」



 必死に、それこそ本気で必死にヤナさんを止めていると近づいて更に絡んできた。



「ギルド嬢のケツに隠れる事しかできねぇじゃねぇか。インチキ野郎。やっぱりお前弱いんだな」



「コイズミさんはすごいんですっ馬鹿にしないでください!」



「いや弱いですよ」



「そこまで言うんだったら俺と……ん? 弱いの?」



「そうですね。きっと皆さんの足元にも及びませんよ」



「え……いやぁ……そう……か」



「……その2つの短剣は両手で使うんですか?」



「えっ ああ? そうだがなんだっ? やんのか!」



「すごいっやっぱり二刀流! じゃあ熟練の冒険者なんですね。すごく手入れもされてそうですし」



「ぉっ分かるか? そうなんだよ。左右でこう、上手い事やるのは中々できねぇんだよ。それに武器の手入れを欠かさないのが冒険者の基本なんだぜ」

「あんたちょっと、何やってんだい」



「おや? そちらの弓は……あまり見ない素材のようですが」



「はんっ! こいつは『老白柳の枝』を使ってる。お前みたいなのには使えない上級素材さ」



「それじゃあなたも熟練冒険者さんなんですね。そんなお綺麗なのに」



「う……うるせぇ……よ///」



「……私の装備はギルドで購入したものです。そしてバレ鉱のことも8級に成れたのも皆さんの協力があってのものなんです」



「ぅ……。わ、悪かったなオークの尻尾野郎なんて言っちまって……」

「ちょっとっ……うぅ……あたしも悪かったよ……」



「いやいや。弱いのは本当ですから」



 技術者エンジニアは客先で交渉することも良くある。

 喧嘩腰や乗り気でない相手はまずは褒めて乗せること。

 これはこの世界でも有効なようだ。



「じゃあにゃあが鍛えてやるにゃ」



「え?」



 そんな嘘みたいな語尾の言葉が聞こえた。

 顔を向ければ、穴の空いたフードから飛び出た猫耳をピコピコさせた女の子が立っていた。



「弱いなら訓練しかないにゃ。訓練所借りるにゃ」



「あっちょっとっ!」



 そう言うが早いか俺の腕を掴みグイグイ引っ張っていく。



「ギルド内の揉め事は困りますっ! コイズミさんを放してください!」



 ヤナさんお願いしますっ!

 あぁでもそんなに引っ張らないでっ!



「訓練するだけにゃ。問題あるにゃ?」



「そんなの問題っ……あれ? ないです……」



 ヤナさーんっ!



「ほらにゃ。じゃあ行くにゃ」

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