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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第2章 出張にはトラブルが起きる件について
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30:どうしてこうなった?

第2章突入

 どうしてこうなった?


 ソフト設計をしている時、そんな言葉が浮かぶ事がある。

 ちょっとインターロックを追加したいだけなのに、動かなくなったり異常動作をし始める。

 後になって分かるが、そんな時は大体ほんの少しの間違いや勘違いだったりする。


 では今の状況はどうだろうか。


 ここはギルド内のメンテナンスカウンターの奥。武器を振り回せる大きなスペース。

 目の前には、正体不明の獣人の女の子。


 目元まで隠したフード、そこから少し覗く勝気そうな瞳。

 動きやすそうな短パンからは、にゅっと尻尾が飛び出している。

 扇情的というより()()()に見えるが、申し訳程度に付けられたプレートに大きく肌を露出した軽装。

 その素肌は日焼けのような薄い小麦色で、より()()()に見せている。


 痩せているわけではわけではないが、出るとこは出て、凹むところは凹んでいる感じだ。

 俺なんかはあんな感じの太ももは結構……うん。()()()だな。

 ()()()にしか見えないし、そうとしか見てない。

 だから見てもいいはずだ。()()()()()()()()()


 鋭い爪の右手に握られているのは似合わない木刀。

 その木刀でもって俺はボコボコにされ、転がされている。


 どうしてこうなった?



「うううううぅぅ うううううううぅ」

「いけぇええええ! 立てぇえええええええええ」

「あぁぁぁぁもういい! もういいって!」



 いつの間にか滅茶苦茶増えた冒険者やギルド職員に、物凄い剣幕で応援されている。



 あぁ……はは……マジでどうしてこうなった?


 こんなに応援されちゃ寝てられないよな。

 さっき打たれた肩がすげぇ痛い。

 けど……木刀を杖にして立ち上がる。

 倒れそうで不格好な正眼の構え。それでも気持ちだけは前へ。



「……お願い……します!」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 ゆったりと曲線を描くメインストリートは平日でも賑やかだ。

 広場には露店が並び、観光客の目を楽しませている。


 この時期からは避暑を求めて多くの観光客が訪れる。

 トレッキングやキャンプに川遊び。

 自然を満喫する楽しさは、日常では決して得られない感動を与えてくれる。


 ただ、俺は夏は山派か海派かと問われれば、間違いなく海を選ぶ。

 そして多くの人が海水浴へ向かう中、シロギスを狙いに行く。

 

 お目当てはサクホクの天ぷらとキンキンのハイボール。

 最初はそのまま、次に塩、そして大根おろしポン酢からのハイボール。

 そして外道のメゴチも絶品だったりするからやめられない。


 そんな事を考えていると、この村唯一の鍛冶屋へと着く。

 何のためか? 勿論釣り針と錘を作ってもらうためだ。


 見た目は質実剛健、飾り気の一切ない店構え。

 ガノンさんの支部長室とは比べられないほどに並んだ刃物。

 防錆油の匂いと鎚が振るわれる騒がしい音と熱気。

 そして乱暴に客を追い払う気難しそうな店主。


 ……そんな物は()()()()()()

 俺が想像していた鍛冶屋のイメージがマジで一切ない店構えだった。


 前の花壇には色とりどりの花が植えられ、生垣から奥に見えるテラスには翼の生えた猫(ケット・シー)がお昼寝をしている。

 お洒落なレストランかなと思うような外観。

『え? ここで合ってる?』と看板を見れば確かに【雷鳴山の鍛冶:フルグライト】と書いてある。


『こんにちわー』と入ってみれば、まず目に入ったのは真ん中の受付に座っている大人しそうな少女。

 なんか図書館にいそうなタイプの少女がゴテゴテとデコレーションされた禍々(まがまが)しいナイフをクルクルと回している。



「えっ? い、いらっしゃいませ」



 こちらに気が付くと、物凄い速度でナイフを隠して営業スマイルを浮かべた。

 ちらっと店内を見れば、左右の棚にはナイフや包丁が並んでいる。日常的に料理に使うような物が多く見える。


 なんか鍛冶屋というより刃物屋さんって印象を受けた。

 ただ、左側の端には禍々しいというかゴテゴテした武器がちょこっと置いてあり、より不気味さが際立っていた。



「ここは鍛冶屋ですよね?」



「はい。そうですよ?」



「あ、気を悪くされたならすみません。武器があまり置いてないので」



「あーあんた。弱そうだし初心者だね? ならしょうがない。この『未来の魔剣鍛冶』がご教授してあげるよ」



 大人しそうに見えて喋り方が少し荒い、その自称『未来の魔剣鍛冶』が言うことには、初心者用の装備と言われる『ギルドで購入できる装備』は本当に初心者用なのだと言う。


『なんのこっちゃ』と思ったが良く良く聞くと、その意味が分かってきた。

 初心者のうちはマナの総量も少なく扱いも下手なため、単純に硬い素材の武器が勧められる。


 ある程度マナの扱いに慣れてくると武器に纏うことで強化することができるから、硬い素材だけでなくマナを通しやすかったり、マナが豊富に含まれている素材が選ばれていくことになる。


 それは人それぞれに使う武器や扱いやすいマナの属性があり、初級装備以降は基本的に素材を渡してのオーダーメードかカスタマイズで作られるとのこと。

 だからあの猫耳イケメン店員が『きちんと整備された物を売る』と言っていたんだな。

 初心者が粗悪品を掴まされて、戦闘中に武器や防具が壊れたら目も当てられない。



「ということで、初心者へのおすすめはそっち」



 禍々しい刃物を勧められた。

 いやいや初心者だけどなんかヤバさが分かる。


 5万ゴルの値札が付いてるけど、安いのか高いのか分からん。

 男心をくすぐる感じで格好良いとは思うけども……

 そもそも武器を買いに来たんじゃないし。



「いや……あの……」



「嫌って何が嫌なのさっ」



『禍々コーナー』を指差して急に大きな声を出した。



「いえ、そうじゃなくてですね」



「みんなみんなそう言うのっ。持ってくれさえしない! もうなんでなの?!」



 禍々しいのと()()の用途が分からないからじゃないですかねぇ……



「さぁーなんででしょうね。それはそうと、今日は依頼で来たんです」



「だったらっ分からないなら持ってみればいいじゃないっ」



 だめだ。

 この『禍々娘』は癇癪を起こした子供みたいに全然話を聞いてくれない。


『こういう時は聞いてあげるのが一番』と営業をやっている友人が言っていたな。


 しょうがない。禍々しい中でも比較的大人しい剣を指差して尋ねる。

 大人しいといっても、切っ先が球状で何故か釘バットみたいにジャギジャギとんがっている。



「……これは何を倒すための剣ですか?」



「そりゃ魔物に決まってるでしょ」



「具体的には?」



「シャドーウルフでもゴブリンでも、何でもいけるよ」



「それは……無理でしょうね」



「なんでよっ?」



「シャドーウルフの黒い毛は断ち難いんです。だから突きで倒すのが一般的です。これでは突けない。仮に突いたとしても毛に先端のトゲが絡まればそのまま引きずられますよ」



「う……」



「ゴブリンでも同じことです。奴らは群れで行動するので、振り回す武器より小回りがきく武器が求められます。先端に重心があるこの武器では1匹目は倒せるでしょうが、3匹も来たらやられるでしょうね」



「それはそいつの【力】が弱いから……」



「初心者は弱いんです。だから弱い者の助けとなる武器を選ぶんですよ。それとも弱い者はやられても――」



「……」



 あっいけねっ 言いすぎた。黙ってしまった……

 こんな偉そうなこと言っても、俺両方見たことも倒したこともない。

 魔物図鑑に書いてあった内容を並べただけだ。



「おいどうした。マルテ。おっ? いらっしゃい」



 奥の方から、THE職人みたいな人が出てきた。

 頭に巻いたタオルに筋肉質な腕。そして火の粉をはらう鍛冶師の前掛け。

 これだよこれ。俺が求めていたのはこの感じだよ!


 ちらっと俺の方というか禍々コーナーを見て、片方の眉毛が曲がった。

 どうやら俺がコーナーの近くにいることで、察したようだ。



「お前……要件を聞いたか?」



「ぅ……」



「……お客さん。悪かったなぁ待たしちまって。要件を聞こう」



「……くっ」



 マルテと呼ばれた禍々娘は乱暴に扉を開けて外に飛び出して行ってしまった。

 ちらりと見えた横顔には涙が浮かんでいるように見えた。



「おいっ! マルテ! ったく」



 唖然とした態度からため息をつくと腕を組んだ。



「……出直しましょうか?」



 なんかこんな状況で『武器じゃなくて釣り針作ってください』とは言い出せなくなってしまった。



「とんだ恥ずかしいところを見せちまって……悪いがそうしてもらえると助かる。予約もちょっと溜まっちまってる。難しい案件が有ってな」



 そして『自慢の看板娘がいなくなっちまったんじゃ商売もできねぇ』と苦笑いを浮かべた。



「気にしないでください。また来ます。……彼女は大丈夫でしょうか?」



「どうせいつもの川辺辺りだ。腹が減ったら帰ってくるさ」



 申し訳なさそうに目を伏せた後、仕事の顔つきになる。



「お客さん名前は?」



「小泉といいます」



 予約の台帳に名前を記す。



「俺はサイトンだ。よろしくな。ん……コイズミ? あの迷宮技師ダンジョニアの?」



 新聞効果がこんなところにも。



「……なぜか数日前からそうなりました」



「ゴロックトラップの切断刃あるだろ? あれは俺が作ったんだよ」



 あぁあれね。とてつもなく早く作ってくれて助かったんだ。

 この世界での図面の書き方が分からなかったが、とりあえず三面図を書いてギルドに渡した。

 長さの単位は教えてもらったので、形状だけはしっかり伝わるようにしたんだ。


 そしたらなんと半日納品。早すぎて目を疑った。

 現物確認すると刃の表面粗さも鏡面かと思うほどピッカピカで、また目を疑った。

 そんな丁寧な仕事をする職人さんなら良い釣り針を作ってくれるだろう。



 ◇



 素材屋や魔道具屋アイテムショップにちょっと顔を出していたら、もう夕方。

 休日はなんでこんなに時間が過ぎるのが早いんだろうなぁ。


 ただ……気にしないでおこうと思っていても、涙を浮かべた横顔が思い出される。


 いやーさっきのは俺のせいだよなぁ……

 ちょっと見るだけだからと村の東の橋に向かう。

 そこから川辺を伺うと……いた。


 ちょこんと石に腰掛けて禍々ナイフをクルクル回している。

 止まった足音に気がついたのかこちらを向いた。


 こういう時はなんて声をかければいいんだろう。



「えっと……お腹減りませんか?」


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