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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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3:開けた森に立っていた

 開けた森に立っていた。


 さわさわと流れる風、少し懐かしいような濃い草木の匂いが転移が終わったことを告げた。


 木々の隙間から木漏れ日が射し込む。

 鬱蒼(うっそう)としたというよりは、人の手が入り整然と間引きされたような木々が並んでいる。


 遠くには小鳥が飛んでいる。はっや! 何あれ! ほんとに鳥か?

 目にしたことがない樹木や植物に目を奪われる。きっも! 何これ!

 周辺からは虫や動物?の色々な鳴き声が聞こえてくる。


 景色は大分違っているが田舎にある実家の裏山に少しだけ似ていると思った。


 胸いっぱいに空気を吸い込む。それだけで心が弾む。


 この【L88-22】に来るにあたって、説明を聞いた。

 気温から始まり、生息している魚まで。


 まぁなんというか。

 1ヶ月の海外出張だと思うようにした。海外に行くなら現地情報は必須だろう。

 こんな状況でもせっかくなら楽しんだ方が得だ。


 さて状況を確認しよう。

 手元の安物の時計は8時10分を指している。

 えぇ……あの不思議空間にいた時間進んでなくね?

 ……一旦置いておこう。


 自転方向は逆じゃなかったので恒星(たいよう)の位置からすると時刻は10時ぐらいといったところだろう。


 事前の説明にあったように少し人里離れた場所に移動されたのだと思う。

 時計が進んでいなかったことや白空間ワープの原理は気になるが、まずは近くにあると言われた町を探そう。


 歴史で習った通りなら文明は川を起点にする。

 すぐそこにある川を下れば町が見えてくるだろう。



 ◇



 踏み均されたように川の土手は歩きやすい。

 澄み切った清流を土手から覗く。


 岩が流れを塞き止め、跳ね返った雫がきらきらと舞っている。

 ゆったりとした流れ込みには羽虫が舞い、それを狙っているであろう少なくない魚影が見える。


 ――町に着いて道具を買ったら、戻って来よう。

 カバンの中に入れた丸い紫色の宝石を思い出しながらわくわくを抑える。

 先立つ物がないと……と言ったらディーツーはこの紫の宝石を5つもくれた。

 懐が寂しい時の出張経費の先払いはありがたい。

 昔この星で採取したサンプルらしい。


 いつまでも美しい景観を眺めていたくなるが町を目指そう。


 しばらく歩く。

 風が気持ちいい。


 さらにしばらく歩く。

 少し汗ばんできた。カバンに肩掛けアタッチメントを付けた。


 さらにさらに……歩く。


 はぁはぁ……町見えないんだけど!


 途中で休みながらだが2時間は歩いた。時計はもう11時になりそうだ。

 太陽は既に真上辺りに来ている。


 木陰で休みながら『少し』って距離を数字で確認しなかった俺が悪いとしぶしぶ納得する。

 休憩がてら水筒に移しておいた湧水を飲む。

 持ってきていた水筒のお茶はもう飲んでしまった。

 そのせいか催してきたので土手の脇の木陰に入る。


 用を足し終え、ふと森の奥の方を見ると白い小さな何かが動いている。

 なんだろう……白い何か……動物?


 ちょっとだけと思い、ゆっくりと確認に向かう。



 ◇



 近づいてみると、その白い犬のような動物は木の実を食べているようだった。

 明らかに犬なのに草食とか可愛いじゃないか。ころころ。もふもふ。かわい……


『カサ……カサ』


 少しの間覗いていると後ろの茂みが小さくガサゴソと動いた気がした。

 ……振り返るが何もいない。


『気のせいか』と犬の方を向くと蒼い目と目が合った。



「「…………」」



「ワウ!」



 吠えたかと思うとバシバシと周りの枝が切り飛ばされ、木に亀裂が入る。



「ふおっ! なんだ! あっぶねえ!」



 カバンを頭の上にして庇いながら逃げる。



「ワゥ! ワウ!」



 白い動物がすぐに後ろに迫る。

 バシバシと周りが弾ける。


 何か飛ばして攻撃してくる?!


 ――追いかけっこはここから始まった



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 何かが背中をふにふにと触っている。



「うぅん……ぐっ!」



 微睡(まどろみ)からゆっくりと、鈍い痛みで最後は一気に覚醒する。

 急いで痛む体を起こし辺りを見渡す。



「ふおっ!」



「クゥゥウ」



 起きる前に距離を取ったのか少し離れた位置に俺を追いかけていた可愛い動物がこちらを伺っていた。


 先ほどのふにふには鼻か足で突かれていたようだ。

 どうやらすぐさま襲って食べる気ではないらしい。



「クゥゥ?」



 (いぶか)しむように首をクイクイと左右に傾げ少しずつ近づいてくる。

 慎重に俺の様子を見ながら近づいてくるように見える。



「うっ……」



 吹き飛ばされた恐怖を思い出し、ぶわっと嫌な汗が出る。

 ビクッと体を引きずるように後ずさる。


 ぴたっと動物の動きが止まった。


 俺の様子を見て止まった……のか?



「クゥゥ……」



「こんな事になってるのはお前のせいじゃないか……」



 心配そうな顔に見えるのは気のせいだろうか?

 何となく……これ以上危害は加えて来ないように思えてしまった。

 正直少し目が蒼く光っている事以外は白い可愛い犬にしか見えない。

 強張っていた力が抜け、思わず話かけてしまう。


 今度はさらにゆっくりと白犬は距離を詰めてくる。

 手を伸ばせば触れる位置まで来た。



「クゥゥ ワゥ!」



「うおぃ!」



 すると白犬の目の青い光が増したかと思うと、びっくりしている俺に向かって光が伸び、ふわっと包み込まれた。

 その青白い光はすぐに俺の中に消えた。


 ……嫌な感じはしないが、別に何か変わった気もしない。



「クゥゥッ? ワゥ!」



 俺と同じように首を傾げた白犬は、再度光を伸ばした。

 そして同じように消える。

 またもや何かが変わった感じはしない。


 ナニコレ? ……本当に謎の発光現象だ。



「よく分からないな」



 手を伸ばし、首を傾げる白犬の首横をがしがしと撫でる。

 気持ち良さそうに目を細める。かーわいい。


 がしがしした時、茂みに突っ込んで出来た引っ掻き傷から血がにじんでいるのが見えた。

 あーこれ後から痛くなるやつだ……


 俺の視線に気が付いたのか、白犬は手の傷を見つめた。



「クゥゥン……ペロッ」



 心配そうな声を出す白犬に手の傷を舐められた。



「フシュッ! フッシュッ!」



「なんだ! どうしたおい!」



 唐突に傷を舐めた白犬は首を嫌がるように振り、フシュフシュ言い出した。

 風のような速さで少し離れた川辺に向かって走り出し、水をぴちゃぴちゃ飲み始める。



 えぇ……血が不味かったのか?


 しばらくして良くなったのか手前までトコトコ戻ってくる。

 ただ先ほどより少し距離が開いてしまった……寂しい。


『ドサッ』


 その時、何かが倒れたような、落ちたような音がした。

 白犬と俺は音のした方に顔を向ける。



「ガゥ! グルゥ!」



 デッカ! 熊? 狼?

 と思った時には目の前に牙が迫っていた。



「ぅあっ!」



 何の覚悟もできぬまま、思わず体をのけ反って倒れこむ。



「ワウッ! ワゥ!」



「グルゥ!」



「ワゥ!」



 ん……襲われてない……?


 背中に鳴き声が聞こえる。

 目を開ける。


 2mほどのデカい狼と白犬は会話をしているようだった。



 ◇



 5分ほど続いた会話はあぐらを組んでる俺に白犬が擦り寄ってきたことで終わった。

 デカ犬はもう襲って来ないようだ。


 会話の間、木の影からチラチラ観察していたがどうやら親子のようだ。

 信じられないが白犬もあんなに大きく成長するのか……

 会話が成り立っている様子からとても知能が高いように見える。


 周囲の状況はと言うと、先ほど『ドサッ』と聞こえた音は向こうに落ちてる血濡れの動物だろう。


 後はさっきは気が付かなったが、俺が突っ込んだ茂み周辺は、バラバラに切り刻まれている。

 気絶している間に何があったのだろうか?


 そして何より、待っている間の時間で指や手の甲の引っ掻き傷が()()()()()()()

 塞がっていたとかではなく、気がついたら本当にきれいさっぱり。

 何となく胸の痛みは残っているが吹き飛ばされた体の痛みや歩いた疲労もどこかに消えていた。


 白犬に舐めてもらったのが効いたのだろうか?

 治すなら襲わなくてもいいだろう。いまいち分からないな。



「こうしてると可愛いんだけどなぁ」



 俺は背中を向けて座った白犬の腰回りを、がしがし撫でながら首を傾げる。



 サクサクと草を踏む微かな音。

 デカ犬が……近寄ってくる。


 近くで見るとやっべ……デッカ……こっわ……

 圧倒的強者を前に身が強張る。


 すると目の前で首を曲げた。

 優に人の胴体ほどある首を俺に押し付けるように見せる。



「……あぁ……ははっ……お前も……撫でてほしいのか」



 俺はデカ犬の首横を震える両手でがしがし撫でる。目を細め気持ち良さそうにしている。


 安心からなのか変な笑いが漏れる。

 でも笑うことが出来る。それだけでも今は良かったと思える。

 頬にほんの少し冷たい雫が流れたのはきっと気のせいだろう。


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