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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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23:ぽかぽか陽気の中

 ぽかぽか陽気の中、3人で商店を回る。

 メインストリートにはお土産屋、カフェなどが建ち並ぶ。

 また広場には屋台も出ていて、食べ歩きには持って来いな串焼きがいい匂いを放っている。


 サービス業以外の人々は休日ということもあり、いつもより人が多い感じ。

 まだ滞在の浅くせいか目に付く物は物珍しい物も多い。

 異国情緒溢れる雰囲気に心が弾む。


 そんな中2人が雑貨屋に吸い寄せられ、かわいい小物を見ている。

 チラッと見ると結構良い値段が付いている。どうやら一点物のようだ。


 鍛冶屋に直行しても良かったが、のんびり寄り道して買い物に付き合うのも悪くない。



 ――ん? あのフード付きローブは……


 2人のかわいい雑貨巡りを見ていると、ふと道に見たことのある姿が目に付いた。


 間違いないレオさんだ。観光しているのか?

 キョロキョロしながら物珍しそうにしている。格好も相まって少し挙動不審だ。

 俺もあんな感じに見えてたのか……気を付けよ。



「レオさんこんにちは」



「あっ……コイズミさん。……こんにちは」



 声をかけると挨拶を返してくれた。

 目深に被ったフードでより無表情が際立つが、昨日よりかなり落ち着いた感じかな。


 近づくとほんの少し……本当にほんの少し後ずさった。

 なんか……俺怖がられてないか?


 昨日も思ったが、この子はパーソナルスペースが広い。

 避けられているのは気のせいだと……思いたい。



「観光ですか?」



「いえ……今日は庁舎も休み。【蒼氷のシェフィ】さんは……いつも村長といると聞いた」



 あてもなく探していたと。すごい行動力だな。



「そこにいますよ。銀髪の背の高い女性です」



「えっ? ……親密?」



「いやいや。道具の選定に付き合ってもらっているだけですね」



「……声をかけても?」



「いいと思いますよ」



 意を決したようにレオさんはキャピキャピ可愛い小物を見ている2人へ近づく。



「あの……シェフィさん」



「はい。なんでしょう?」



「……僕はレオ……です。……僕に魔法を教えて……もらえませんか? 対価は……必ず後で……」

「承知しました。対価は結構です。まずはマナ制御の練習を行います。川辺に移動してもよろしいですか?」



「え……今から? ……いいの?」



 そんなにすぐ了承してもらえるとは思っていなかったようだ。

 珍しくレオさんは目を見開いている。



「そのマナの様子ですとマナ制御が優先だと感じました。そして何か差し迫った理由があると思われるので可能な限り早く対応します。ご迷惑でしたか?」



 その絶妙に不細工な猫柄のマグカップを持っていなければ名探偵です。



「いえ……その通り……です。……よろしくお願いします」



「コイズミ様。鍛冶屋はこの通りを真っ直ぐ行けば右手にございます。

 それではメル様。私は練習にお付き合いしますのでこれで一旦失礼いたします」



 少し名残惜しそうに選んでいたマグカップを棚に戻して言う。



「鍛冶屋はいつでも行けるので、私もついて行っていいですか?」



 魔法実技講座なんて中々見れるものでも無いだろう。

 是非見てみたい。



「よーし! じゃあシェフィのお手並み拝見といこうじゃないか!」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 レオさん達は先ほどから流れる川から水球を取り出しフワフワさせている。

 なんでもマナ制御を練習するには最適な練習法なんだとか。


 最初はレオさんの背中に触れながら『こうではなく、こうするのです』なんて言いながら共同作業をしていたが今は1人でフワフワ。自転車で言えば補助輪が外された感じかな。


 確かにその成果は水球の維持時間に如実に表れており、最初は2秒も持たなかったが今は3分ほど維持できるようになっている。


 ついでに俺も魔法について詳しく聞いてみると、どうやら6属性の魔法については『使えるか使えないか』ではなく、マナをそれぞれの属性に変換する得意不得意があるだけだという事が分かった。

 つまり大なり小なり使うことはできるが、それを『戦闘に使えるか使えないか』ということだ。


 俺もシェフィリアさんのご教授の傍らで何か出来るようにならないかと試行錯誤するが、全く進展は無し。

『マナ制御の基本はマナの質をイメージすること』って言われても、そもそもマナなんて全然感じられないもの。


 穴があくほどジロジロと見てしまっていたためか『少し離れて頂けませんか?』と遠まわしに『邪魔です』と言われてしまった。


 その代わりに俺はそこら辺の岩をひっくり返したり、川岸に石を組んで流れをせき止めた後に『収納』して水抜きしたりと生態調査紛いのことに勤しんでいる。


 最初こそメルさんは『聞いたことのない魔法だ! 空間魔法の短縮詠唱だと?!』と驚いていたが、『まさかユニークスキル持ちとはな! やはりコイズミ殿は面白いな!』と何かに納得したようで、もう慣れたものだ。



「コイズミ殿! ほらっ見てくれ! こんなに幼虫がいるぞ!」



 メルさんは自分より大きな岩をヒョイっとひっくり返している。

 俺は最初も度肝を抜かれたが、まだ慣れない。



「うーわっ! すごい! 気持ち悪いですね!」



「これは昔は焼いて食べられていたのだよ。冬なんかには貴重なタンパク源だったのだ」



「それは文明に感謝しなければならないですね」



「ふふっ。我もそう思う」



「あっほらメルさん! こっちには大きな――」



「お静かに願います」



 いけねっ。

 シェフィリアさんに静かに怒られた。

 やっべ目がこっわ。



「すまない」「すみません」



 反射的に謝るとメルさんと声が揃った。顔を見合わせると、何か面白くて思わず2人で吹き出した。

 それからもワイワイしながらの生態調査は2度目のガチ注意を受けるまで続いた。


 とりあえずグロテスクな川虫や幼虫なんかが大量に見つかった。釣り餌の確保は問題なさそうだ。



 ◇



 釣り餌調査に疲れたため、どっかりと岩に腰を下ろす。

 近くでメルさんはサンダルを脱ぎ、水と戯れている。



「『倉庫』」



 ふと思い立った俺はカバンからスマホを取り出す。

 当然圏外マークが表示されている。

 バッテリーは……おっ76%も残っている。


 んじゃまずは幻想的な魔法の風景。


『カシャ』


 そして緑髪を風に揺られるメルさん。

 ん……訝しげにこっちを見て――



「笑ってー笑ってー」



 にこっ


『カシャ』


 確認すると我ながらかなりうまく撮れたと思う。

 被写体が良いと映えるんだな。

 素敵な思い出として残しておきたい。



「先程のはなんだい? これは? ……我ではないか!」



 メルさんが俺の後ろからひょこっと覗き込む。

 近い上に俺の頭をもしゃもしゃ撫でるのは止めてもらいたい。



「これは……写真が撮れる魔道具アイテムですね」



「写真……『転写』の魔道具アイテムか? うまく映っているな」



「いい風景だったので記念に残してほきたいとももいまひて って何するんですか!」



 今度は横に回ったメルさんにほっぺたをムニムニされた。



「ふふっ。いやどうにも構いたくなってしまってな。すまない」



 全然反省していない素振りで笑いながら俺の頭を撫でる。

『それじゃあ仕方ないな』って思ってしまう。もしやこれがエルフの魅了だろうか?



「顔はやめてくださいね。こちらがレオさんとシェフィリアさんの写真です」



「おお。こちらもうまく出来ているではないか! まるでそこに入り込んだようだな!」



 そう言って『最近少し増えたなぁ』と思っていた脇腹の肉を横からムニムニ摘んでくる。



「いやそれも恥ずかしいですって!」



「ふふっ顔以外は良いかと思ってな。ん……よく見るとこちらは上手く転写できなかったようだな」



「……ん? なぜです? それとまだ摘んでますっ!」



「いやレオ殿の」「メル様!」



『バッシャアアアアアア』



「うぶっ! げっは!」



 シェフィリアさんの声に顔を向けると、思いがけない衝撃に俺は仰向けに転がった。



 離れた場所から水をぶっかけられた。それも相当なスピードで。

 スマホを手離さなかったのはリングのお陰だ。

 それほどの衝撃だった。


 ただ……ぶつかる刹那。メルさんはひらりと離れたのが見えた。

 ひどい……



「こ、このようにマナ制御が上手くなれば飛ばす事も可能です」



「……続けるの……ですか? ……吹き飛びましたよ?」

「シェフィやりすぎだぞ」



「ぅっ……も、申し訳ありません。……マナ制御が乱れました」



 いやいや。流石にこれには文句を言いたい!



「ぶつかる前に『メル様』って言いましたよね?!」



「つ、つい乱れました」



「マナ制御が上手くなれば飛ばせるんですよね?!」



「うっ」



 マジでつい『やってしまった』という感じだ。

 乱れたのはマナ制御じゃなくて心だという事が顔からビンビンに伝わってくる。


 それに『やりすぎ』と言ってはいるが、こんなことになっているのはメルさんが『やりすぎた』所為だろう。



「はぁ……いや。私もすみません。練習を邪魔するような事ばかりしていたのですから」



「ぅ……いやっ! 私が未熟だったのです! 申し訳ありませんでした……」



 衝動的にやってしまったことを本当に反省しているようだ。

 深く頭を下げさせてしまった。

 いやぁ謝らせたい訳じゃないんだよな。


 それじゃあこうしよう。未熟な俺が()()やってしまってもいいよな。



「『範囲』 『設置』 『設置』 『設置』」



『バッシャアアアアアアアアアア』



「「「きゃあああああ」」」



 水抜きしたときの大量の水を頭の上からぶっかけた。

 ついでにメルさんとレオさんにも。



「これでお揃いですね」



「やったな! コイズミ殿!」

「メル様にまでっ! 許しません!」

「……練習の成果を」



 ◇



 それからは入り乱れての魔法を駆使した高度な水の掛け合いとなった。

 周囲には無数の水球が浮かび飛び交った。



「『収納』 『設置』 うわっ冷たっ!」



「きゃっ! まだまだ! おっレオ殿もやるじゃないか!【水球】」



「ひゃっ……シェフィ先生の……お陰……『الكره المائية قليلا【水球】』」



「先生///……その調子で続けていけば上級魔法も御する事ができるでしょう。お手本を見せて差し上げましょう! 『روح الماء ، وإطلاق النار علي العدو【水葬瀑布】』」



 手を掲げるシェフィリアさんの頭上にマナの煌きが起こったかと思うと周囲から水が勢いよく集まり始める。

 そこにはまるで行き場を無くした鉄砲水が渦を巻き、決壊の時を待っているかのような巨大な濁流が生成された。



「ええええええ?!」



「……上級魔法?」



「おい! シェフィ! コイズミ殿が巻き込まれるぞ!」



「ぁっ……」



 慌てて手の向きを変えようとするが間に合わない。



『ドッパアアアアアアアアアアアアアアン』



 洪水のような水量。うねり、渦巻き、飛沫を上げる。

 全てを押し流し、洗い流すような濁流が放たれた。


 うおおおおおおお! あっぶねぇええええ!


 咄嗟に逃げ出す。

 すると目の前で濁流は不自然に向きを変えた。


 俺にビチビチと大粒の飛沫を飛ばしながら目の前を巨大な濁流が通り過ぎた。

 そのまま『ドドドドドォ』っと川の流れと合わさりながら土砂を巻き込み下っていった。


 クッソ怖かった……変な笑いが出てくる。それに軽く足が震えているのは寒さだけじゃない気がする。



「こ、このようにマナ制御が上手くなれば操ることも可能です」



「……授業? ……危うく流されていくところ。 ックシュ」

「シェフィやりすぎだぞ。クシュン!」



「ぅ……今のは調子に乗りました。申し訳ありません。ヘックチ!」



「ほんとに怖かったですよ! ヘッブシ! ……そろそろ帰りましょうか」



「そうしよう。有意義な時間だったな!」



 気が付くと少し日が陰ってきていて、涼しさが増している。

 びしょびしょに濡れた服には少し寒い。



「おっコイズミ! ここにいたのか。……なーにやってんだお前ら」



 知った声に顔を向けるとガノンさんが心底呆れた顔で立っていた。

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