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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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21:甲冑がマナの灯りに照らされ鈍色に……

 甲冑がマナの灯りに照らされ鈍色に輝く。

 カーテンが閉められ伺い知れないが、外はもう暗くなっているだろう。


 支部長室はこれで3度目になる。



「がっはは! 久しぶりじゃねぇか! 今度はなんで連れてこられた?」



 皮肉を言いながら、目尻に皺を浮かべ豪快に笑うのはガノンさん。



「コイズミさんは『メミット石の納品』を一日で、しかも初日に20個納品されました。記録を大幅に更新しています。……ですが【特待処置】を勧めて良いものか……判断に迷いましたので」



【特待処置】……確か新種の魔物や魔獣、新しい迷宮ダンジョンの発見、効率の良い魔物の倒し方なんかを公けにして冒険者全体に情報共有するシステムで、まぁ早い話がギルドとしては、情報共有と標準化で冒険者全体の生産性を上げたい訳だ。


 その情報源の冒険者には多くの貢献度であったり、場合によっては情報料なんかも支払われる。

 当然飯のタネを教えたくない独占したい冒険者やクランも多いからギルドも苦労しているそうだ。



「2個の間違いじゃなくてか?! がっはは! 信じられねぇな! ……やるじゃねぇか。コイズミ!」



「20個は……そんなに多いのですか?」



「今までの青銅級クラスの最高は16個です」



 ヤナさんが補足を入れてくれた。

 うーん。そんなに変わらないと思うんだが……



「まぁその顔は『そんなに変わらない』とでも思ってんだろ? いいか。この16個って記録は確か『8級冒険者の2人パーティ』が出した数字だ。9級になったばかりの冒険者がソロで気軽に超えれるような記録じゃない」



 いやまずいなぁ……実質2時間ぐらいで集めましたとは言い出せなくなってしまった。

 常連の冒険者の職を奪いかねない……

 こんなに大事になるとは……



「ゴロック自体は危険度は低いのですが、硬い上に魔法も効きづらいので倒すのが大変です。そして目当てであるメミット石のドロップ率も低いため、皆さん敬遠されるのです。ゴロックを短時間で倒せるような方は、もう他の魔物を狩っていた方が効率がいいんですね。……実は16個という記録はあるクランの入団テストで、ツルハシで半日掘削し続けた結果なんです」



 渋い顔をしているのを察してか、再度ヤナさんが補足を入れてくれた。

 ゴロックは()()()()に使われるほど人気がない魔物だと。


 それが記録が伸びない要因、というかあの迷宮ダンジョンがあまり人気がない理由だよな。

 そして俺はそんなゴロックを馬鹿みたいに狩り続けるような物好きに見られている訳だ。



「……知ってるとは思うが、【特待処置】はお前にとって悪い話じゃない。情報を公開してもらえりゃギルドも助かる。

 だが……今回の件は別だ。どんな手品を使ったか知らねぇがあぶねぇ事はさせられねぇし、公けに出来る情報か見極めなきゃならねぇ。あぁ当然言いたくなけりゃそれでいい。ペナルティも無いしな」



 まぁ俺には別に断る理由はない。

 言ってもいいだろう。



「いいですよ。まずはこれを見て下さい」



 そう言って得意げに手帳に書いた構想図とバレーガ坑道跡地の地図を差し出す。



「これは……?」

「なんでしょうね?」



 横からヤナさんものぞき込んでくる。



「バレーガ坑道跡地の1層目のこの位置から大部屋を作りました。40m……あぁいや……えーとギルドの受付から端の解体所ぐらいの大きさですね。この大部屋は奥側に向かって段付きの勾配を付けています。一番低くなっている場所の下に部屋を作って、この間を穴で繋ぎます。要は大部屋でゴロックが出現すると、坂下にある穴からこの下の部屋に落ちる構造です。ゴロックも他の魔物も自動で砕けるのでサイクルが安定したら後は待つだけです。

 あぁ後は落下位置は飛び散らないように囲いを設けているので安全と遮音も考慮していますし、近くで魔物が出現しないように魔物除けのランタンを設置しています。

 ちょっと難点としては温度と湿度が――」



「おおい! コイズミ! ちょっと待て!」



 おっと少し急ぎ足だったかな?

 そうだ魔物出現の検証から話そうかな。



「お前はバレ坑の中にこれを作ったってのか?!」



「はい。そうですよ」



「どうやって?」



「えーと……収納……空間魔法を使いました」



「岩盤を切り取ったと……空間魔法はレア魔法だぞ? それにこの大がかりな物をか? 俺はお前のステータスを見ているからな……とてもじゃないが信じられねぇな。……がっはは! 今更か! お前には驚かされてばかりだ!」



 ガノンさんは面白いものでも見つけたような目で手帳と俺を交互に見る。



「……【迷宮技師ダンジョニア】」



 不意にヤナさんが何か遠い昔の話を思い出したように呟いた。



「……ダンジョニア?」



「はい。定期的に話題になる都市伝説の一つです。

 古代の遺跡は迷宮ダンジョンになりやすいことは知られていますが、すでに迷宮ダンジョンになっている場所を狩りしやすいように改装するとか、果ては居住区を作って迷宮ダンジョンで生活するといった痕跡が見つかっているそうなのです。

 つまりは迷宮ダンジョンを改良する技師エンジニアで【迷宮技師ダンジョニア】と呼ばれる特殊な知識を持った人、或いは職業があったのではないかと言われているんです。歴史ミステリー物の本や雑誌によく出てきますよ」



「へぇ……詳しいんですね」



 オカルト好きなのかな?

 ヤナさんは目を輝かせながら説明を続ける。



「小規模の迷宮ダンジョンの改造は行われていますが、これほどの規模となる例がないのです。ギルドの記録では60年くらい前に実際にレトブ湖の改良をある貴族が試みたようですが、失敗に終わっています。後から分かった事ですが、どうやら自身の賢さと権力を示すための他にブルーパールを思い人の隣国の姫に大量に届けたかったというのが事の発端らしいのです。

 莫大な資金と労働力を投入しましたが、効果は薄かったようで、逆に狙いとしていたブルーパールを落とす魔物ビーノスがほとんど出現しなくなったそうです」



『これは“愚かな貴族話”の代表みたいものですね』と他の誰にも聞こえないように囁き、ペロリと舌を出した。


 今でこそギルドが発展して魔物の情報も多く集まっているだろうが、当時はそれほど情報もない中で始めたんだろうな。

 所謂見切り発車というやつだ。



「お前がその……迷宮技師ダンジョニアとか言うやつの真似事を言ってんのは分かった。こんな馬鹿みてぇな内容公表したらギルドが正気を疑われるな……ヤナ、分かっているだろうが、これは他言無用だ。これはまだ公けには出来ねぇ。

 それになコイズミ。20個納品の実績とお前じゃなけりゃ『目を覚ませ』とガツンとやってるとこだ。空間魔法に関しては後々見せてもらうとして、まずは確認する必要がある……現場を見てもいいか?」



「えぇ。いいですよ。安全のために入り口を閉じてあるので案内します」



「よし! 明日向かうぞ!」

「何も支部長自ら行かなくても……それにドスミルパが出現していますよっ」



「久しぶりに参戦するか!」

「駄目ですよ! それじゃ迷宮ダンジョン荒らしと変わりませんよ!」



「がっはは! 冗談だ! ドスミルパだったらすぐ討伐されるだろ。それが終わってからだな。お前の戦いぶりも見てやろう!」



 俺にとってもガノンさんほどのステータスを持った人の戦いぶりが見れるのは楽しみだ。



「じゃあ討伐の連絡が入りましたらコイズミさんにお声がけしますね。都合のいい日にちで調整します。あっ『メミット石の納品』は納品完了してますので安心してください」



 俺も明日は休みにして、商店を見て回ったり、近くの川に出向こうと思っていたからありがたい。

 レオさんがシェフィリアさんを訪ねると言っていたしな。



「分かりました。お願いします」



 そういや日程を調整してくれるのはいいが……ギルドの人っていつ休んでいるんだろう?

 今日も遅くまで働いているし、ここ数日ずっとヤナさんが担当をしてくれているが。



「少し気になったのですが、ギルドの休みの日っていつなのですか?」



「えっ……/// そ、それは、もしかしてお、お、お誘いですか……? そ、そんな……///」



「ばっかやろう! 勤務中だ! 俺はこれでも支部長だぞ? せめて俺のいねぇ所でやりやがれ!」



「いやいや! 違います! いつもヤナさんが担当してくださるので、ギルドって休みがあるのかと心配になりまして」



「なんだ。そんなことか」

「なんだぁ……そんなことかぁ……」



「……ヤナは確か通常勤の『火水土風』が出勤で『闇光』が休みだったな。基本的に日勤は4勤2休だ。交代しながら穴を開けないようにしてるんだ。夜勤は受付だけだがやってる。冒険者には定期休みはねぇからな。そこが冒険者の辛いとこだな」


 目に見えて落ち込むヤナさんを横目にガノンさんが説明をしてくれた。


 この国は一週間が6日で、マナ要素の6属性に因んだ曜日となっている。

 ちなみに今日は風だ。明日からは休みの人たちが多いから、この町は賑やかになると思う。



「休みがあっても本を読むだけのギルド職員とどっちが辛いでしょうか……」



 凹み過ぎでは?



「あ~……その……なんだ……ヤナは新人だが良くやってくれてる。コイズミ。これからもよろしく頼む」

 チラッ



「えっ……えぇそうですね。的確なアドバイスをくれるので私も助かっていますよ」

 チラッ



「そ、そうですかねぇ……///」



 良かった機嫌が直ったようだ。


 こういう気配りが出来るところが支部長たる所以だろう。

 そして白髪の原因の一つでもあるのかも知れない。


 ギルドの功労者に心の中で拍手を送った。



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『ドスミルパ』


『形態・特徴』

 ミルパのボス個体。

 赤い甲殻に覆われている。甲殻の硬度は高く近接攻撃は効きづらい。

 主にマナ覚、視覚を用いる。

 体長は6mから体高は3.5mほどになり、長く鋭い鋏は驚異。

 狭い空間でも高速で移動するが、地中を掘って進むことも可能。

 弱点属性は火。 ※甲殻には火耐性を持つため、部位破壊必須

 魔石位置は腹。


『スキル・アビリティ』

 眷属召喚、土の加護


『マナ食性』

 魔石、鉱石、肉


『出現環境』

 洞窟、坑道


『ドロップ』

 3級魔石、甲殻、顎牙、節足、鋏


『危険度』

 通常個体:5級  


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ここで大分遅いタイトル回収です。

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