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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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20:……レオ……です

「……レオ……です……誰にも……習ってない」



 レオと名乗った小柄な魔導士は『お前ら名前は? んでお前さん魔法は誰に習った?』という問いに俯きながら答えた。



「ふーむ。あれだけの【暴風】を使えるのにか。……お前さん、レオはまずちゃんとマナ制御を習うといい」



 確かにこのままでは、いつか取り返しのつかない痛い目を見ると思う。

 おっちゃんはこの危なっかしい冒険者を放っておけないのだろう。

 まぁ俺も同じ気持ちだから分かる。



「でも……僕は早く……」



 早くと焦る気持ちと、このままではダメだという気持ち。

 表情は乏しいが心の葛藤が見て取れる。



「……昔の偉い人が言った言葉ですが『段取り八部』という言葉があります」



「だんどり……はちぶ?」



「えぇ。仕事の段取り、準備をしておけばその仕事は8割が完了したも同然という意味です。マナ制御を習うことは、その準備にあたると思いませんか? きっと闇雲にクエストをこなすよりは、遥かに速く辿り着けると思いますよ。 ……まぁ同じ9級に言われてもピンと来ないかも知れませんが」



「準備をする……え? ……9級? ……ソロで……ミルパを無傷?」



「そういやルーキー。得体の知れない奴だと思っていたが……」



「いやいや。あれはゴロックで潰しただけですよ」



「「ゴロックで?!」」



「え……えぇ。ゴロックを落として」



「……ルーキーお前……見かけによらずエグイ事するな……」

「……」



 ……ドン引きされた。

 なんだろうその顔は……変な倒し方を想像されている気がする。



「いやいや違うんですって。だからまずゴロックを」



「ひっ……」

「もう大丈夫だルーキー! ほらみろ怖がってるっ」



 えぇ……もうなんか絶対変な奴だと思われたよこれぇ。



「……僕……マナ制御を習います。でも……頼れる人がいない……」



「……西のグロイスは知ってるな? そこに『蒼氷のシェフィ』って奴がいる。面倒見がいいから大丈夫だろうが、ダメならウォードって名前を出せ。確か今は村長の秘書をしてるって噂で聞いたな」



「『蒼氷のシェフィ』……訪ねてみます」



 おっ。知ってる名が飛び出した。



「シェフィリアさんを知っているんですか?」



「知り合いかい? 昔ちょっとな」



 なんか気になるが……女性の過去を詮索するのはどうかと思うのでグッと我慢する。



「今回の迷宮主ダンジョンボスはドスミルパだからな。明日からは混むぞ。見学ならお前さん達も気を付けな。分かるか? 間違っても参戦するなよ?」



 そう言うとひらひらと後ろ手に手を振り、土産物屋に帰っていった。



「これからグロイスに帰ります。レオさんはどうしますか?」



「……宿を引き払って……明日」



「じゃあ同じ町なので会うこともありますね。それではまた」



「……また」



 明日すぐに向かう感じにまだ若干焦りが見えるが、あの面倒見の良いシェフィリアさんに任せれば大丈夫そうだと少しほっとした。



 ◇



 帰り道、車窓から段々と夕陽に染まる草原を眺める。


 淡いオレンジ色が陰影をぼやけさせ、一帯がざわめくように揺れる。

 少し薄暗くなってきた空との境目も次第にぼやけていく。


 遠くの草原を跋扈している魔物のシルエットですら幻想的に映る。


 また朝とは違った景色は、少し怖いような……どこか蠱惑的な美しさの一面を見せている。


 この自然豊かな世界はもっと様々な景色を持ち合わせているに違いない。

 あぁそう言えば夜の海も見てみたいなぁ……なんて思いが巡る。



「にいちゃん終点だよ」



 と、いつの間にか夢の世界を巡っていた俺は運ちゃんに揺すり起こされた。


 目をこすりながら、そこそこ快適な寝心地だったバスから降りる。


 ひと悶着あったせいでいつもより遅くなってからギルドに向かうと、慌ただしく動くギルド職員の姿があった。


 その中でもヤナさんは時計を見たり、周りを見渡したり、一際ソワソワしているように見える。

 なんだろうと思いつつもとりあえず目が合ったのでペコリとする。


 早速スーズリの所で買い取ってもらおうと『素材買取』に向かおうとすると、



「コイズミさんっ! よかったぁ~……無事でしたか? 遅かったので心配しましたよ……

 あぁこんなに汚れて! どこも怪我もしてませんね?!」



 ヤナさんが小走りで近づいてきた。

 そして俺の後ろに回ったり、服の汚れを払ったり、腕を捩じってきたりと目まぐるしい。



「いたたっ! 痛いです! どうしたんですか?!」



「ぁっごめんなさいっ。坑道で迷宮主ダンジョンボスが出たのと魔法の暴発があったと連絡があったので……もしかして巻き込まれたんじゃないかと……」



「少し……巻き込まれましたけど大丈夫ですよ。情報が早いですね。ドスミルパが出現したようですよ」



「ほんとに少しですか? もう……危ない時はすぐ逃げて下さいね。えっと迷宮主ダンジョンボスの説明はしていませんでしたね。ボスっていうのはたまに出現する強力な魔物のことなんです。取り巻いの魔物を引き連れたりと別次元の強さなので注意してくださいね。

 今回出現したドスミルパって言うのはミルパが大きくなって赤っぽくなったようなボスなんです。ちょっと気持ち悪いですよね。でもドスミルパは結構人気のボスなんですよ。耳が早い商会なんかはもう素材の納品クエストを発注していますね」



 それで職員の人が準備と対応に追われているのか。



「へぇ……5級から推奨と聞きましたから、私には難しいですね」



「よく勉強されていますね。絶対に近づいてはいけませんよ。

 でもボスが出現中は、魔物も多く出現するので沢山の冒険者が向かわれます。

 大体いつも3日ほどで討伐されますので、それまではちょっとしたお祭り騒ぎです」



 あぁそれで土産屋のおっちゃんが忙しくなると言っていたのか。



「あっ引き留めてしまって申し訳ありません。納品クエストでしたから、まずは『素材買取』ですね」



『それではまた後で』と言い残して、満足そうに受付カウンターに帰っていった。



 ◇



「やー! コイズミー。今日はちょっと遅かったねー」



 気のいいドワーフのスーズリは少し心配そうな顔をしている。



「バレーガ坑道跡地に行っていたので、少し遠出だったんです」



「おー。チュバ卒業ってことだねー。バレ坑ってことはメミット石かなー?」



「はい。お願いします。この変な足とかもありますが……」



 魔石は残して、トレイにメミット石とミルパなどのドロップを出した。



「えー……コイズミ……もしかしてまた貰ったのかい?」



「ふふ。今回は自分で獲ってきましたよ」



「そうかー。すごいなコイズミ! 期待の新人なー。よし。じゃ『انظر من خلال الحقيقة.【慧眼】」



 じっくりと品定めをしながら、重さも量っている。



「本当にすごいなーコイズミ! メミット石全部ドロップ品だねー。硬いのによく倒したねー」



「分かるのですか?」



「へへー。採掘したのとではマナの純度が違うんだなー」



 へぇそこまで分かるものなのか。大したもんだ。

 誤魔化しは効かないってことだな。



「一度にこんなに持ってきたのは久しぶりだよー。明細も出すねー」



 そう言うと明細を書いてくれた。


 -------------------------------------------------------------------

 メミット石 *ドロップ品

 300コロ  : 1200ゴル  15個   18000ゴル

 400コロ  : 2000ゴル   3個    6000ゴル

 600コロ  : 5000ゴル   2個   10000ゴル


 チュバの爪  : 300ゴル    1個     300ゴル


 ミルパの顎牙 : 1000ゴル   4個    4000ゴル

 ミルパの前足 : 1500ゴル   2個    3000ゴル


 計41300ゴル 

 -------------------------------------------------------------------


 ふおお! ナニコレ? メミット石高すぎじゃない?

 こんな野球ボールぐらいの大きさで。


 もうゴロックトラップだけで食っていけるんじゃないだろうか。

 こんなもの即売りに決まってる。



「全部お願いします」



「多分明日からクエスト更新されて、値下がりするだろうからいい判断だよー。はいー。41300ゴルー。ほいっとー」



 そりゃそうか。

 冒険者が殺到して供給過多になれば値崩れも起こすか。

 タイミングが良いんだか悪いんだか。



「ありがとうございました」



「納品クエストだから受付に寄ってねー。またねー」



 ◇



 かなり高額な買取額になったとホクホク顔で受付に向かう。



「コイズミさん。先ほどは失礼しました」



 落ち着きを取り戻したヤナさんにクエストの完了報告をする。

 もう冒険者の証(メダリオン)を石板に近づけ『ピコーン』の一連の流れも慣れたものだ。



「はい。確かに…………えぇぇぇぇ?! 20個ぉぉぉぉ?!」



 もう疎らにしか残っていない冒険者と忙しく動いていたギルド職員の『何事か』という目が集まる。



「ぁっすみません! 何でもありません!」



 慌ててヤナさんが周囲に頭を下げると、好奇の目は次第に引いていった。


 再度落ち着きを取り戻したヤナさんはジトーとした目で見てくる。

 こりゃまずい。そんなに驚くほど多かったのか……



「コイズミさん……2個の間違いではないですよね?」



「……これが明細です」



 書いてもらった明細を渡す。



「…………えぇっ! ミルパまで倒しているじゃないですか! もう……危なかったら逃げてって言いましたよね! 無茶しないでくださいっ

 はぁ……それに本当に20個ですね。……コイズミさん貴族の方ではないですよね? 富豪だったりします?」



「いえ……違いますが……」



「じゃあどうやって20個も集めたのですか?! あまりに異常です!」



「ええと……ゴロックを落として砕いて集めました……」



「ふぇ……?」



 そうですか。ドン引きですね。



「いやいや。ですからね。まずゴロックを」

「……ちょっとこっち来てください! ロイさん後お願いします!」



 同僚に場所を任せると、ぐいぐいと手を引っ張っていく。


作者は主人公が段々と認められ始める感じが好きです。

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