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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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2:口下手なディーツー

 口下手なディーツーの説明で状況を理解するのに苦労している。


 ただ、たまに俺に伝えてはいけないであろう情報まで織り交ぜて、大きな身振り手振りで説明してくれるのは見ていて微笑ましい。


 正直この状況を少し楽しんでいる。この不思議空間にも少し慣れてきたように思う。


 ちなみに今、目の前のテーブルには色々な資料とメガネと畳まれた白衣が置いてある。

 聞けばメガネと白衣は、安心してもらうのと賢く見られたかったから着ていたとのこと。

 ……医者のコスプレ? まぁメガネは似合っていたと思う。



「お、お分かりになりましたか?」



 ソファの隣に座り、白衣とメガネを外したディーツーは横から(うかが)うように聞いてくる。



「ええ大体分かりました。ありがとうございます」



 どうやら顔色を窺われている時は、なんとなく思考が読まれているようなので今度こそ失礼の無いように返事を返す。



「いえっ物分かりがよくて助かりましたっ。誰かと話すのは初めてなので緊張してしまって……あっ……のじゃ」



 この思考を読んでくるメガネを外した少女。ドアや窓がない不思議空間。

 そしてこのように人と話す事が無かったと言う事からも分かるように、置かれている状況は現実離れしたものだった。


 まずこの場所はと聞いてみたが『魂の中継地点デスっ』と急に片言で言っていたのでそういう設定か嘘だろう。自称女神様についても詳しくは教えてくれなかった。


 ただ何となく想像できるのは、何か、もしくは誰かを観察するためのモニタールームのような場所といった感じだろうか。


 というのもモニターに映っている3つの惑星の真ん中には明らかに地球に見える星がある。


 最初デザインかと思っていたが、それにしては雲の流れやたまに超高速で拡大されては消える人々や風景の映像が極めて精密過ぎるし、チラチラと何かの測定値みたいなものも表示されている。


 左の片面だけ目玉のように見える星や右のぼやっと青白く見える星も同じように拡大され、見たこともない多関節動物キモイのや幻想的な青い海などが映されている。


 夜が訪れると大陸の至るところに地球よりは少ないが綺麗な光の粒が見える。

 光源を夜に備えられる文明があるということだろう。

 まさか高度な文明がある系外惑星でも観察しているのだろうか。


 閑話休題


 得られた情報をまとめると本来であれば、俺は寝ている間にこの部屋に連れてこられる。

 暴走トラックに潰されて、ここに招待された……という事にする。

 それから勇者だの女神だのという説明を受けるはずであったのだと思う。


 というのも目の前の机には色々な資料が置かれている。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――戻れないとすることで、未練を断ちやすい状況を作りだすための常套――

 ――

 ――勇者設定は広く受け入れられており、設定を持ち出せば話がスムーズに――

 ――

 ――語尾に『のじゃ』を付けることで高貴に見せることができ、より気高い――

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おい『のじゃ』の説明はなんだ?

 たまに忘れてたように『のじゃ』を付けるのはこれが原因か。

 しかもこれは俺に見えちゃいけない資料だろう。



「ほんとにすみませんっ! 【ケーヴィ】の予測がこんなにズレた事は無かったものですから……」



「ケーヴィ?」



「あっなんでもないです……」



 このように先ほどから口をつるっつる滑らせては、ダンマリを決め込む。



「つまりは、元々私をここに連れてくる予定でしたが、予測されていたタイミングが違ってしまい、本来の時間と手順ではなかった……という事ですね?」



「ざ、ざっくり言ってしまえば、そうなりますっ」



「なぜ私なのですか?」



「詳しくは言えませんが、このズレこそがコイズミさんをお連れした理由になります。今だってほんとなら、まだ寝ているはずなんですよっ。予測の閾値(しきいち)から大幅にはみ出しちゃってますっ」



 人間の行動を予測できるほど高度な知能か技術を持った【ケーヴィ】の予測を俺ははみ出したから連れてこられてしまったと。


 アウトローには憧れるけど至って平凡に過ごしていたのに。

 あれか? 早く起きたのが原因なのか?


 そもそも閾値なんてサンプルのn数が少ない時なんか良くはみ出す。その都度、サンプル数増やしたりの試行錯誤だ。



「約1200兆ですっ」



「はい?」



「予測の閾値設定に用いられたサンプル数ですっ。コイズミさんは1200兆分の1ということですね」



 ……ここまで正確に思考を読まれると少しむっとしてしまう。



「いつから私は狙われていたのですか?」



「ね、狙うは言葉が悪いですっ! ちょっと待ってクダサイ。……えーと資料ではチキュウでいう約2日前からですね。正確にはコンビニ? と言われる小型の商業施設でコバヤシ・ミカさんを見ている時に予測揺らぎが出てからです。何しろ揺らぎ自体が観測されたの初めてで、壊れたのかと思いましたよっ」



 観測って言ってるじゃないですか……2日間も見られていたのか。

 どうやらモニターは観測に使っている物というのは間違いない。


 それに名前はミカさんといったのか、あの可愛いバイトの小林さん。1年半前に彼女と別れてる俺には、営業スマイルでも眩しく映ったんだよな。



「1日前は、お仕事先のミヤギ・エリナさんと話している時ですねっ」



 総務の看板娘に出張の必要書類を渡しに行った時か。5期下の後輩で若い若いと思っていたら最近色っぽくなっていたんだよな。



「そ、そしてぇ今もですっ!」



 犯人はあなたですと言わんばかりに身を乗り出してくる。

 遠まわしにスケベだと言われている気がしてならない。



「はぁ……そうですか」



 確かにこの少女のことを微笑ましく可愛いと思っている。

 ただ、それ以上にうさん臭さを感じているのが現状だ。



「か、かわいいっ!? うさんくさ……」



 目の前でころころと表情を変えている。

 やっぱり微笑ましい。



「それで、これから私は何をすればいいのですか? 何度も聞きますが戻れないのですよね?」



 やはり家族や友人の事や途中になってしまっている仕事については後ろ髪を引かれる。



「えぇ申し訳ありません。一度申請が通ってしまった事ですので……これから【L88-22】に行ってもらいます……あっ勇者としてのじゃ」



 その勇者設定はまだ忘れていないのか。

 語尾がおかしくなってきているし。



「なんですかそれは。どこですか?」



「どこかは言えません……ですが! だっ大丈夫ですっ! 平和で安全ですっ!」



「……本当に安全なんですか? 勇者と言うからには人は住んでいるんですよね?」



「本当にっ! 安全ですっ。えぇ平和に暮らしていますよっ」



「そうですか……それにしても()()()()綺麗な星ですね」



「あっそうなんですよっいいですよねぇ! 夜の海は濃い青色になってとても綺麗に見えると思いますよ。是非行ってみてください。 あっ……」



 良かった。右の青白い星か。

 緑の星はキモイのが映っていたからかなり嫌だった。

 俺は少しニヤケながらモニターの青白い星を観察する。



「……記憶を消すしかアリマセン。許可申請中。シバラクオ待チクダサイ」



 急に立ち上がり真面目な顔、照明が薄暗くなる。



「えっ! ちょ待って待って! こっわっまじ怖えぇ!」



 立ち上がって逃げようとする。

 ……すぐに明るくなった。



「ぁ……なんか今のは……しょうがないそうです。『記憶を消すなんて何考えてるんだ! そもそもお前が口を滑らせたんだろう』と言われてしまいましたっ……うぅ」



 目に見えて気を落としてしまう。



「すみません……意地の悪いことをしてしまいました」



 なぜか悪いことをした気になってくる。

 そこまで設定が大事なのだろうか。一先ず大人しくしておこう。



「いえ……抜けているのはわたしですから。とっとりあえず説明を続けますねっ!」



 ディーツーは沈んだ空気を入れ替えるようにして笑顔を作った。

 この少女は気を回せる良い子なのかも知れない。



「行ってもらった後は自由に過ごしていただいて構いません。さっきも言いましたが平和で安全ですっ。自然豊かですが人々の生活水準もチキュウと大して変わらないのですぐに馴染めると思います。

わ、わたしこう見えて仕事は早いんですっ!

もうここに来てもらった時に【L88-22】の言語もインストールしてありますし、わたしと会話が出来ているので官能確認もオッケーですねっ。後はタンパク質の変質も済んでいますし、コイズミさんさえ良ければいつでも行けますよっ!」



 前言撤回。

 さらっと得意げにこの『うさんくさ子』はとんでもない事を言う。

 流石に見過ごせない。



「……勝手に連れてきて、勝手に体を弄って、知らない星に行って勝手に過ごせ。いつでも行ける? 行きたいはずないですよね? 私には何の利益もないでしょう?」



「うぅ……すみませんっ! その通りです……すみません。もうほんと……すみませんとしか言えなくてすみませんっ。

 ……あっ……えっ……なになに……えっと提案といいますか、『お試しではどうでしょうか?』『1ヶ月ぐらい行ってみるというのはどうでしょう? 出張のようなものです。身の安全は保障しますし、チキュウの時間は止めておきます』ですって!  す、すごいっケーヴィそんな事までできるんですねっ!」



 インカムか何かで指示が来ているのだろうか。うさんくさ子まで驚いでいる。

 そしていきなりのケーヴィは何だ? 神か何かか?



「1ヶ月……それにそんな大掛かりなこと……こんな事信じられるわけっ……」



「そ、そうですよねっ……そんなすぐには承諾してもらえ……えーと『L88-22は水が豊富ですので貴方の趣味の釣りも楽しめると思います』……? だそうですが……そんなことじゃ迷惑をおかけし」

「行きますっ! お試しなら! うさ……女神様もお困りでしょうし」



「えぇぇぇ?」



 ◇



 軽く説明を受けた後、意気揚々と白い空間に包まれる俺をディーツーは『よく分からない』という目で見送っていた。


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