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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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18:『収納』

「『収納』 『収納』 『収納』」



 最初は落盤に注意しながら恐る恐るやっていたが、岩盤が安定しているのを確認すると岩しまっちゃうおじさんと化してバシバシ削っていった。


 さっきくり抜いた窪みの入り口から、手帳に書いた構想図通りに高さ4m、幅10mx10mほどの部屋を作った。

 落盤しないように柱を等間隔に残してある。

 窒息が怖いから予め外で大量に『収納』しておいた空気を忘れずに『設置』と。


 この範囲収納や設置機能は、右手でマーカーを操作して左手でプレビューを操れる。

 なんとなくCADを使ってアセンブリしている感じと似ているためか、中々手早く慣れたと思う。



「腹減った! よーし始めますかぁ!」



 俺は鼓舞するように部屋に反響する大きな独り言をした後、部屋の真ん中の辺りにチュバ狩りで入手した米粒魔石を20粒ほどポイポイと撒く。


 1個100ゴル…… 1個100ゴル!

 勿体なく感じてしまうが検証のためだ……


 その上からさっきくり抜いた緑色の岩の端材を『設置』してバラバラと落とし、魔石を砕いた。


 これでよしっ! 後は結果を待つだけ。



 ◇



 俺は部屋の端に岩ブロックを『設置』して、間切りの小部屋を作った。


 昼食にしよう。

 魔石燃料のランタンのスイッチを入れると簡易ライトとは違う優しい光が漏れ出る。

 こいつには下級の魔物除けの効果があると書かれていた。

 洞窟での作業は精神的に疲れていたようで少しほっとする。


 ただ周りが薄暗がりの中食べるというのは、最悪のスパイスだった様でいつもは美味しいおやじさんの弁当が味気なく感じてしまう。



『ベキッ ゴッ ゴッ ゴツッ』



 ビクッと息が詰まる。危うく食後のお茶を噴き出すところだった。


 明らかに自分ではない存在が音を出した。


 ……壁から恐る恐る顔を出す。


 ライトを照らすと撒いておいた端材の奥にゴツゴツした丸っこい岩が転がってる。

 いや、今も転がり続けている。


 ギルドの魔物図鑑に載っていた通りの見た目。

 あのビーチボールサイズの岩が『ゴロック』と言われる魔物で間違いない。


 ぃよぉぉし! 成功だ!



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 ――それはギルドの2階で魔物について勉強していた時


 と言っても冒険者向けの魔物図鑑『図解! 誰でも倒せるようになる魔物図鑑』をペラペラ眺めていただけだが。


 まずとてもお世話になったチュバパイセンの記述を抜粋して翻訳するとこうだ。


 -------------------------------------------------

『チュバ』


『形態・特徴』

 全身黒い体毛に覆われており、大きな耳、鋭い牙と爪を持つ。

 弱い麻酔毒を注入し、痛みを感じさせることなく血を吸う。

 視覚は弱く、主にマナ覚、嗅覚、聴覚を用いる。

 体長は80cmから1mほどになり、それ以上の個体は牙と爪が大きく成長し進化個体とされる。

 魔石位置は胸。


『マナ食性』

 血液


『出現環境』

 森、草原、洞窟

 近代では牧場、地下街


『ドロップ』

 10級魔石、牙、爪、骨


『危険度』

 通常個体:10級  

 進化個体:9級


 -------------------------------------------------



 次にゴロックの記述は、



 -------------------------------------------------

『ゴロック』


『形態・特徴』

 丸い岩石。

 転がって移動する。

 マナ覚を用いて、マナの濃い場所に集まる習性がある。

 体長は40cmから80cmほどになり、それ以上の個体は硬度も著しく上昇する。

 周辺の鉱物に即した体構造を持つことから、採掘用装備が必須。

 魔石位置は個体によって異なる。


『マナ食性』

 不要

 極稀に動物の死体や排泄物


『出現環境』

 岩場、銅鉱


『ドロップ』

 10級魔石、鉱石


『危険度』

 通常個体:10級  

 進化個体:10級

 ※崖上等に出現した際は、落石を引き起こすため注意


 -------------------------------------------------


 となっている。


 こちとらどこに行けば弱い魔物を狩れるのか場所を知りたいのに、場所名じゃなくて、森とか岩場とか大まかな事しか書いていないんだよなぁ。


 後ろの方のページに書いてあったRPG御用達の強敵ワイバーンなんかは、きちんとホルン山、ユピノー第二迷宮(ダンジョン)と書かれていたのにだ。

『追い込み漁かよっ』と思うような効率のいい倒し方の記述まで挿絵入りで。

 出張中には出会うはずもない魔物を詳しく書かれてもなぁ……



 ――ふと思い立つ


 最初は初心者には優しくない図鑑だと思っていたが、もし書かれている通り地名や場所は関係なく周辺環境によって特定の魔物が出現しやすいのであれば……


 環境さえ整えれば狙いの魔物を出現させることが出来るのでは……?

 これって特定の魔物のマナスポットって人工的に作れるってことじゃないだろうか。


 安全に魔物狩りできるじゃないか!


 俺はすぐに村周辺の迷宮ダンジョンを調べ始め、マナスポットの構造を練ることにした。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「うおらぁぁああああ!」



 ガンッ!



「もういっちょぉぉお!」



 ガッ!



「きっつぃいいいいい!」



 カン!



「はぁ……はぁ……」



 ガラン


 ツルハシを置き、座り込む。

 若干よろめきながら何度も打ち付けたが一向に倒せる気配がない。


 ゴロックは所々凹んだが何事もなかったように転がっては壁にぶつかり、止まるを繰り返している。

 下級魔物除け効果のあるランタンから離れる方向に動いている。


 分かってたよ……非力な俺がそう簡単に砕けるわけないよな。

 運動不足解消にしかなっていない作業は早々に打ち切る。



「はぁはぁ……『範囲』『収納』からの『設置』」



 綺麗に北半球を切り取られたゴロックは塵に変わった。

『設置』しなおした部分も同じだ。


 塵の中を見ると米粒程度の魔石が落ちている。

 メミット石は見えない。ハズレだ。


 まぁ一先ず構想通りゴロックを出現させることが出来た。

 部屋を作っている時には出現せず、魔石を砕くことで出現した。

 マナが濃くなれば魔物が出現しやすくなるのは間違いないとみていいだろう。


 よーし。あとは()()を上げるだけだな。



 ◇



『ドゴオオオオオオオオオン』


 地響きと轟音を響かせ、岩が落ちて砕けた。破片が周囲に飛び散りサラサラと塵に変わっていく。

 先ほどまでキシキシ不快な音を出していたムカデにカマキリをくっ付けたようなデカい甲虫の魔物『ミルパ』も一緒に潰したようだ。


 ここは部屋の下に作った言わば『処理部屋』とでもいう役割の部屋で、最初の()()()から30mほど下に位置する。

 魔物除けのランタンを置いていると、魔物も湧かないようで今みたいに休憩も可能だ。

 俺は水筒の冷えたお茶を飲みながら天井に空いた穴から、窪みに落ちては砕けるゴロックを眺めている。


 先ほどゴロックの出現検証をした部屋は大きく形状を変えた。

 まず何より広さは40mx40mほどの体育館レベルの広さになり、見た目は段々畑のようになっている。


 ざっくり言うと奥側の中央がV字に凹んだ階段状になるように大部屋が作られている。

 V字の深さは大体8m、勾配の角度で言えば10度程度になる設計にしている。


 先ほどの地響きの一連の流れとしてはこうだ。

 上の大部屋で出現したゴロックが魔物よけのランタンを嫌がり坂を下る。

 そして低くなった中心の穴から落ちてきて砕ける。

 ドロップした魔石は次のゴロックが落ちてきて諸共に粉砕する。たまに他の魔物も混じるが落ちてきて塵に変わるか、ゴロックに潰されている。


 これまである程度塵が溜まると砕かれた魔石ごと『収納』し、大部屋に上り『設置』して撒くを繰り返した。

 くり抜いて作った螺旋状の階段で上り下りできるようにしてある。


 制作途中はカマキリ野郎のミルパが出現して初見は恐怖のあまりマジで逃げ回り、何もかも諦めて帰ろうかと思ったり、天井やら壁からゴロックが一気に5体以上出現して落下穴が詰まったりとハプニングに襲われながらもなんとか構想図の形にすることが出来た。


 難点を挙げるならば、少し蒸し暑いのをどうにかしたい。


 これを名付けるなら『フィーダー付き岩自動粉砕機』。カジュアルに言うなれば『ゴロックトラップ』だ。

 その名の通り製造現場でよく使われる部品などの供給装置をイメージしている。

 粉砕部は単純に自由落下の運動エネルギーだ。


 大体30秒に1回のペースで落ちてくるようになり、なかなかいいサイクルタイムじゃないだろうか。


 所々気になって微調整をしていたら迷宮ダンジョンに入ってから3時間ほど経ってしまっていた。

 かなり苦労して作った人工マナスポットだ。

 完成披露でもしたいぐらい感慨深い。


 ゴクッと冷たいお茶を飲み、達成感を噛みしめる。



 ふぅ……でも……あれ……なんか忘れているような……



「……あっ! あぁ! 納品クエスト! メミット石!」



 やっべ! サイクル上げて喜んでいる場合じゃなかった。回収しなきゃ!


 慌てて確認したが大部屋に撒いたのは、ほとんど砕けてしまっていた。

 ……見なかったことにした。


 流石に落下位置の窪みには近寄れないので離れた位置から「収納」して塵の中を探すことにする。


 採取を続けると米粒魔石と共にちょこちょこメミット石もドロップすることが分かった。

 加工される前のメミット石は綺麗な六角柱の結晶になっている。根気よく集めると2時間ほどで20個溜まった。


 と言うか飽きたが20個集まるまで我慢した。

 せめてエアブローでもあればと何度も思った。


 他には砕いていない10級魔石が15個、チュバの爪1個、ミルパの顎牙と鎌の付いた足が4個づつ手に入った。

 ミルパのドロップだから拾ったけど……なんか微妙に柔らかいし何に使えるんだろうか。


 まぁ収穫は置いといて、落ちるのを待つだけの簡単なお仕事は性に合わなかった。

 薄暗い場所は段々と陰鬱とした気分になってしまう。


 救いとしては、一度ある程度のマナが溜まると定期的に魔物は出現するらしく砕いた魔石をそれほど頻繁に運ばなくても、落ちてくるサイクルはほとんど変わらなかった。

 これが分かっただけでも大きな収穫だな。


 帰りのバスの時間もあるし、もう今日は帰ろうか。


 念のため落下穴の上に岩ブロックを『設置』して塞ぎ、大部屋入り口もしっかり元の形に戻した。



 -------------------------------------------------


『ミルパ』


『形態・特徴』

 硬い甲殻を持つ甲虫の魔物。

 穴を掘って潜むことも可能。

 また暗闇を好むため、マナ覚に長ける。

 体長は50cmから80cmほどになり、それ以上の個体は足も長くなり跳躍力が増す。

 両手の鋭い鎌で獲物を掴み捕食するため、飛びつく攻撃に注意。

 弱点属性は火。

 魔石位置は腹。


『マナ食性』

 鉱石、魔石、肉


『出現環境』

 洞窟、稀に地下街


『ドロップ』

 9級魔石、顎牙、前足


『危険度』

 通常個体:9級  

 進化個体:7級

 召喚個体:7級


 ※迷宮主ダンジョンボスに召喚された個体は統率されるため注意が必要。


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