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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第5章 出張先での揉め事は極力避けたい件について
139/154

133:なに?! 大きすぎて見えづらい?!

 

「なに?! 『大きすぎて見えづらい』?! 『圧迫感があるから大き過ぎるのは控えろ』?! そんなふざけた要求が認められるかっ」

『グルゥ!』




 静かに出番を待つはずの選手控室。

 その場に似つかわしくない文句と紫電、そして唸り声が飛んだ。




「も、申し訳ございません。ですが観客からクレームが来てしまって……スポンサーへの配慮もありますのでどうか……お、お願いしまーす」




「何という言い草だっ 前途ある若者の夢をその夢を支える大会側が潰そうとするとはなっ」

『ワウ!』




 逃げるように部屋を出る大会関係者の背中に恨み節をぶつける。

 既に弟分認定されているスライムへのいちゃもんに神獣も声を上げた。


 この場にいる全ての者が理不尽を感じているのは明白。

 代弁により少し溜飲が下がっているだけなのだ。




「まぁまぁ。メルさん。観客・・が言っているんだから」




 そんな中、神獣を撫でまわし宥める者が場を和らげた。




「むうんっ本当に観客・・ならな。我はリリー達の頑張りを知っている……大人たちの都合などで無下にされるのが我慢ならんのだ……」




「そんなによく見たいなら見せて上げましょう。目にものってやつを。ね、リリー、バル。次はプランBでやってみましょうか」




「はい、なの!」

『ポブチッ!』




「プランB? ……うむ……そういうことか! ふははは! 見せつけてやろうではないか! 格の違いを!」




 ◇




「さぁ続いての試合は大注目のリリー選手の登場です! 前代未聞の超巨大スライムを引き連れた小さなヒロインの快進撃は続くのか! 今回の戦場は『川辺』となっております! さぁマルダさん。スライムにとっては水辺を有する『川辺』は有利。衝突は中央に流れる川付近で間違いないでしょう。先ほどの試合を見てどうでしょうか? 一躍優勝候補という見方もあるようですが」




「あんなものはまぐれに過ぎん。相性が良かっただけだ。相手が水の中で動ける魔獣だったら何の意味もない。魔石を狙われて終わりだ。となれば、ここで脱落だろうよ」




『ブーブー』

『言い訳乙』

『うるせぇハゲ野郎ー』




「……またも厳しい解説ですが、次の対戦相手は4番人気優勝候補の『熱砂のビキニ』ハイビス選手! 相棒は首吊りの草とも呼ばれる砂漠の強敵『ネックハンギング・タンブルウィード』、通称『ハンブルウィード』です。確かにあの柔らかくて強靭なツルの魔獣に水の攻撃は効果が薄いでしょう。ではどういった立ち回りが求められるでしょうか?」




「ま、あの巨体で逃げ回るしかないだろうな。かっははっ! 巨体が仇になるとは皮肉な――」

「ゲートが開きましたぁ! 勢いよく大きな球体が飛び出したのは西ゲート! 狐耳は元気いっぱい! 趣味は昆虫採集、好きな食べ物はポポンの実、小麦色の肌が眩しいハイビス選手! 『ハンブルウィード』に乗っての登場です!」




『待ってましたぁ! ハイビー!』

『たぎるわぁこいつぁたぎるわぁ!』




「クルクルと回る本体から伸びたツタが高級椅子のように優しく彼女を支えています! キラキラと飾り付けられたその様子はご令嬢を運ぶ高貴な車のようです! ですがあのツルを侮ってはいけません! あの一本一本が恐ろしく強靭な武器! 前の試合『ゴライアスタートル』戦では水魔法にも噛みつきにも怯まず、逆に絡みつき吊り上げて全く身動きをとらせなかったのです! マルダさん。前試合のダメージも疲れも無さそうです。後は的確な指示といった所でしょうか?」




「彼女は我が『樹の友』も期待している新人だ。『ハンブルウィード』もよく調教されているし、的確に剪定もしている。若いながら難しい植物魔獣の制御もお手の物だ。是非とも来年は我がクランが歓迎しよう。あんな戦術も何もないデカいだけのスライムなど叩いて飛沫にするか、魔石を――はぁ?!」




『リリーたーん俺だー! ってなんだありゃあ!』

『ひ、光ってる?! でもきゃわわ!』

『なんかヤバそうだけど! リリーちゃんかっわいいんだよなぁ』




「な、なんだあの色はぁああ?! 銀色です! キラキラと銀色に輝いています! それに小さい! 明らかに小さい! ゲートに詰まり見上げるほどだった超巨体がリリー選手と同じ画角に入るほど小さくなっています! いや普通のスライムよりは大きいのですが、先ほどと比べてしまうと余りに頼りなく見えてしまっているのです! マルダさん! あれはどういった意味があるのでしょうか?」




「わからん! わからんがスライムは中に取り込んだ物の色の影響を受ける。一体何を取り込めばあんな色に――」

「っとここで情報が入ってまいりました。『クレームに対応して小さくなりました』……クレーム? っと全く分からないまま準々決勝が始まるようです!」




 ゴーン!




 ――バル『ごー』なの!

『ポッ!』




「まず動いたのは銀スライム! おっそいっ! 木々の隙間を川へと向かいますが圧倒的に遅い! 何故か勝手に速いと思っていましたがこれは歩くような速度です!」




 ――たまちゃん! 力の差を見せつけるよ! 『ヴァイン・バッシュ』だ!

『バババ!』




「おっとー! ここでハンブルウィードも動きます! 木を掴み撓らせ加速! そして大きく飛び上がったあ! 機敏な動きで一気に距離を詰めます! マルダさん! 狙いは上空から一撃のようです!」




「ツルを纏めて叩きつける大技だ。かははっあれの回避は難しいぞ!」




「銀スライムは動かない! いや動けないのかあ?! これは万事休すぅう!」




 ズガアアアアアアアン!




「決まったぁあ! 大振りの一撃が銀色を捉えました! あまりの衝撃に地面も大きく凹んでおります! 変幻自在のスライムと言えどもこれは大ダメージでしょう!」




『ババッ?!』




「ハンブルウィードが飛び退きました! 銀スラはどうなって……えっ?! き、切れています! 切れたツルが取り残されています! マルダさん! マルダさん! これはどういうことでしょうか?!」




「ふがっ! なんで……なんでだ! 切れるはずがない! まさかあの銀色の中に魔剣でも隠していたのか?!」




 ガサガサ




『ポブチッ!』




「ッ! ツルを掻き分け姿を現しました! 信じられません! 無傷です! 全くダメージを受けているようには見えません! マルダさん!」




「儂が知るか! あの得体の知れないバケモノはなんなんだ!」




 ――こ、ここで引いちゃダメ! たまちゃん! 『ヴァイン・スパイク』!

『ババ!』




 ――『そーどだんす』なの!

『ポッ!』




 ザシュッ!




『ババ?!』




「またも切れたぁ! 魔石を狙った何本ものツルの槍を割り裂きました! み、見てください! 伸びた腕が刃のようになっております! 斬ったものの正体が判明しました! 信じられませんが液体が白銀の刃に変わっております!」




「ふがっ! スライムが刃物だとぉ! おいカメラ班もっと寄れ! アップで良く見せろ!」

「あっちょっと! 勝手に――」




 ザシュッ!




「あっ銀スラが前進! ハンブルウィードが牽制するもことごとく切断されています! 既に丸かった形状が半球へと近づいているぅー!」




 ――強い! でもっ! たまちゃん決めるよ! 全開! 『グラウンドブレイク』!

『バッババ!』




 ――『にょろにょろ』なの!

『ポッ!』




 ドガガガガガ!




「ここで土魔法炸裂ぅー! 激しい土埃が舞っています! これは【烈石槍】だぁ! あぁ! さらにツルを使って周りの物を投げつけているう! 必倒の岩が! 大木が! 銀スラに襲い掛かるぅう! あっ安心してください! 木の残骸も破片も『障壁魔導具ならイッツミー』の【防壁】が防ぎます!」




「ふぅ……かっはは! 心配させおって! こんな大技を隠していたとはな! あれでは刃物であろうと一溜りもあるまい! スライムだけに、な」




「凄まじい連打連打ぁあ! これは決まってしまうかぁ?!」




 ――バル『ごー』なの!

『ポップチ!』




「なんだと! 吹き飛んですらいないだとう! どうなっている!」




「き、効いていません! 渾身の大技を物ともせず前進しています! 地面ごと吹き飛ばす物量も細長くなった銀スラを止めることが出来ないぃい! まるで銀色の大蛇です! 不安定な地面を確実にハンブルウィードを追い詰めていきます! 既に危険な間合いと言っていいでしょう!」




 ――たまちゃん! 退避! 下がって!

『ババ! バッ?!』




「おーっと? 逃げられなーい! どうしたのでしょう! ハンブルウィードが飛び退けません! あっ! 足元にご注目下さい! 地面から見えるのは銀色です! 地中を伸ばした腕がツルを掴んでいたああ!」




 ――あぁ! 振り切って! たまちゃん!

『ババブ』




「ダメです! 振りほどけなーい! 既に複数のツルに銀スラが絡みついています! っと支えられなーい! ツルがへたりました! 地面に縛り付けられている様子は凄まじく重そうです! これは首吊りの草の御株を奪う強力な拘束攻撃だぁあ!」




 ――『えんどしっくる』なの!

『ポポッチ!』




「ここで腕が巨大な鎌に変形ぃー! 名実ともに草を刈り取る形状をしています! 狙いは当然本体の核でしょう! 致命の鎌が迫るぅううう!」




 ――いやああ!! たまちゃん!




 ――『もういいよ』なの

『ポビ』




「とめたぁあ! 寸前で鎌を止めましたぁ!」




 ゴーン!




「ここでゴーング! 戦場を破壊する激戦の勝者はリリー選手! 優勝候補を圧倒! スライムの持つ凄まじいポテンシャルを見せつけましたあ! 戦略も素晴らしかったですねマルダさん!」




「儂の1000万ゴル……1000万……くそがよぉっ! なんだってあ――」




「…………。さっ、切り替わった映像魔導具マナビジョンにはハイビス選手。その小麦色の頬には涙が伝っています。優しくハンブルウィードが寄り添うも最後の大会へかけた想いが溢れてしまっています。いつも彼女の壮烈な挑戦は私達に勇気と爽やかな感動を与えてくれました! だからこそ、私達は知っています! 彼女はこの敗北を乗り越え、悔し涙を勝利の美酒へと変えていける魔獣使い(テイマー)であると! だからこそ、私達は待っています! 従魔戦モンスター・コロッセオ本戦での雄姿を!」




『ファンになったぞぉー!』

『よくやったぞハイビー!』

『ぼかぁ弱いんだってああいうの うぅ ハイビー!』




「会場から大きな拍手が送られています。っとなんでしょう……リリー選手がハイビス選手に駆け寄りました。魔導袋から……あれは……えー……ッ! 肥料です! 肥料を手渡しました! 剪定し過ぎてしまったツルへの回復薬ということでしょうか! 次にリリー選手は……あれは……看板です! 頭上に銀色に輝く花屋の看板が形作られました! 掲げようとしてもリリー選手の手は届いていません! 背伸びが可愛らしい! ハイビス選手にも驚きと笑顔が見えます! そして今、握手が交わされましたぁ! お互いの健闘を称えます! なんと美しい光景でしょうか! 先ほど荒んだ心が浄化されるようです! さぁ準々決勝を突破した小さなヒロインリリー選手! 冒険譚はまだまだ続きます!」


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