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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第5章 出張先での揉め事は極力避けたい件について
129/154

125:ある者は旧友を訪ね……

 

 ある者は旧友を訪ね、酒を酌み交わし、郷愁に浸る。


 ある荒くれ者は拳闘に勝ち、雄叫びを歌い上げる。


 またある冒険者は『迷宮技師ダンジョニアすごかったねーかわいかったし』と語り、その『ファンの熱い語り』にうんざりする相方にたしなめられる。


 水都に集まった哀悼も歌もバカ騒ぎも。

 それら全てが建国に散った英霊達を慰めている。


 そんな騒がしい建国祭の初日の夜。

 ミーティングと言う名の酒盛りが開かれていた。


 ただ、病み上がりのメルリンドはフルーツジュース。

 合わせてシェフィリアもフルーツジュース。

 コイズミのみがフルスエールを飲むという構図になっている。


 宿代もメルリンド持ちであり、酒を飲む本人だけが『流石に申し訳ないなぁ』という感情を抱いていた。


 そんな申し訳ない気持ちを知ってか知らずか個室には静寂が流れている。



「むーん……どうすれば……」



「やはり問題というのは待ってはくれないものですね……」



 その静寂の根源は複数の問題。

 彼女らを悩ませている理由は明白だが複雑であった。


 目の前に開かれた手帳にはバレットジャーナルで4つのタスクが書かれている。



 ===============



 >ローザさんの救出

 ―  ビザウ嫌なやつ

 ―  フオーリ・レ・ムーラの迷宮整合


 ・バルの修行

 *〇 祭り最終日は従魔戦

 ―  酸× 殴× 巨大化〇


 >シリル(シュリ姫)の教育

 ―  めんどくさい


 ・レストラン『狼牙』の集客

 ―  割引セール以外



 ===============




『ローザの救出』は進展がないまま難航。

 未だ明確な解決方法の見えない聖教会問題は保留となり、『もう侵入して攫ってくるか』という冗談も空しく消えた。


『バルの修行』はバルがまともに攻撃できず難航。

 スライムの性質をよく知るメルリンドでも頭を抱えた。

 魔石が2個あるユニーク個体という強みが全く活きなかったのだ。


『シリルの教育』はなんだかんだと法律を振りかざして難航。

 シェフィリア主導の元、『まずは見て感じることだ』と観光案内に都内を紹介してもらっただけで『あれは条例違反』『これは違法』と喚いていた。

 当の本人は慣れない環境に気疲れしたのか、シェフィリアの部屋を借り寝ている始末となっている。


 そして新たに追加された『狼牙』の集客。

 これは大手ライバル飲食店が超大規模の広告宣伝と大幅割引セールを行ったことにより、客足が減ったことに対するアイデア募集。

 元々計画していた割引セールだけでは、客足は見込めなくなってしまい、このままでは祭り用に仕入れた食材が余りに余ってしまう。


 つまりはたった1日にしてやる事が山積み。

 解決する前に問題が積みあがっていく焦燥に、どこからどうやって手を付けて良いのかさえも掴めずにいた。


 今はバルの修行をどうするかという問題に向き合っている。



「むーん……啖呵を切ったはいいものの……まともな攻撃が出来ぬとはな……」



「……あの場では申し上げませんでしたが、もし十分な修行の成果が出なかった場合は幼獣杯ピッコリーノの棄権を強くお勧めします」



「ん、なぜだシェフィ?」



「ガンベレット家の推薦という情報が出てしまったため、パグロ様とリリーが懇意にしているとの見方が強まるでしょう」




「……そういう……ことか」

「??」




「トモヤ様。当事者達の想いはどうあれ、出場させ名声を上げさせるという状況は公爵家と平民間の外堀を埋める地盤固めと見られるでしょう。当然それを好ましく思わない者もおりますから、試合日前に、あるいは試合に乗じて従魔を消すなどの妨害は大いにあり得ます」




「ッ! そんなっ子供の試合で……」




「『公爵家と関係を持つ』とはそういうものなのです。今は【影壁】と【影縫】を付与しておりますから心配ありません。ですが、試合中となると手が出せません」




「むーん……ならばやはり酸スキルは覚えてもらいたいが……バルは酸生成が苦手だ。優しすぎるのかも知れん」




「得意の巨大化も低いステータスでは動きが遅くなってしまうだけの的となってしまう。そのステータスを上げようにも倒せる魔物も極めて少ない。……これは難題です」




「ん? バルに酸を飲ませちゃダメなんですか?」




「ッ! その発想は無かったぞコイズミ殿! 自らの中で酸を生み出さぬとも良い! 試す価値は十分にある!」




「……確かに。スキルでするものと考えておりましたが、液体であれば楽に取り込めるでしょう。大会であってもスライム内部であれば事前に用意して持ち込むことも可能です」




 新たな視点の案に解決の糸口が見えた。

 しかし、続く提案に更に仰天することになる。




「ん……“液体であれば”取り込めるんですか?」




「あぁ。特にバルは取り込むことに特化している。あの巨大化しての水撒きなんかが良い例だな」




 何かに気が付いたようにジョッキを置き、手帳に書き始めた。

 手を止めるとニヤリと口角が上がった。




 ――『段取開始』出来るかも知れません



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