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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第4章 出張からの出張は最早拉致に近い件について
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104:突如聞こえたのは……

 突如聞こえたのは、明らかにこの場に居ない者の声。



「タルヴィだって? ど、どうなってんだっ! イデアル!」



「ッ! この声は……タルヴィ様……待ってくれ! どういうことだい?!」



「そんなあり得ナイわ! どれだけ離れてイルとおもっているノ!」



「えっえっ! 間違いないよこの声! タルビンだよっ あっタルヴィ様だよ」



『ええい! うるさいうるさい! 黙れ! 役立たず!』



『役立たず』と呼ばれた者達は姿は見えていない声の主に片膝をついた。

 喚く声と高圧的な言動から信じる他ないとの判断だろう。



「コイズミ殿、これはまさか?」



 囁くメルさんに俺はこくりと頷いた。



 ――クエスト自体が消えたんだ



 ◇



 高いのにどこか野太い声。

 そんな声の主はタルヴィ・ベンクト・シルム。


『男爵』、『14才』、『肥満体系』。

 好物はミルクフロッシュの唐揚げとハニークリームアイスと女遊び。

 最近は夜の街に入りびたり、お気に入りの娼館は――っとこれはいいか。

 ラッカさんが調べ上げた内容は、起きる時間から交友関係、性癖に至るまで。


 やべぇものこの個人情報。

 詳細が過ぎて引くぐらいだもの。


 調べ上げられてしまったこの『わめく豚男爵』が貴族私兵たちの雇用主であり今回のヴィント捜索クエストの依頼主だ。

 男爵がどれだけ偉いのかは知らないが、赤と緑と金色のチカチカするような豪華な服を着た姿が立体映像に映し出されている。

 そして酒場での蔑称『喚く豚男爵』を体現するように、苛立ちながらうろつく度にぶるぶると贅肉が揺れていた。



「タルヴィ様! どうか! 期限までまだ時間はあります!」



『うるさいうるさい! 発言を許可していないぞイデアル! クエストに文句言ったくせにちんたらして!』



「……申し訳、ございません。ですが必ず期限までには――」



『もういいって言ってる! クリンゲル達が『アルトレーシェン』を捕獲したって連絡が入った。『共和国』からなら後2日もあれば届く。分かる? お前たちはもう用済み。分かったら大人しくさっさと帰還しろ! 愚図!』



「そんな……」



『『拘束具』も貸し与えたよ? 捕まえて連れてくるだけなんだよ? それでよりによって先に従魔化テイムされるなんて! これだけやって成果が上がらないなら後1週間で出来るわけないでしょ馬鹿!』



 口汚く罵る豚男爵さんを見てるとこっちまで不快になっちまう。

 代わりにかわいいものでも見て……



「『先に従魔化テイム』……そういうことか?」



 目が合ったメルさんの問いにまたもこくりと頷く。

 すると整った顔立ちに隠すことなく眉間に皺を寄せた。


 そう。

 これこそが山火事から始まった事件の根幹。


 この『喚く豚男爵さん』は魔獣を集めさせ、『従魔化テイム』しようとしていたんだ。


 だから『この場にいる神獣』を諦めたのは『従魔となった個体』を『主替え(リテミング)』できる僅かな可能性とそのための膨大な工数を鑑みた時に『新たな個体を見つける方』を選択したから。

 いや、制限時間を考えればそれしかなかっただろう。


 加えて言えば、『豚男さん』は拘束具を安全に魔獣を運ぶためではなく、通常のテイムとは違い拘束具を使用して痛みと恐怖で強制的に従わせる所謂『裏テイム』という方法にも使おうとしていたらしい。


『裏テイム』は自身より遥かに強い魔獣も効率的に従魔に出来る方法だが、当然メリットだけではない。

 無理やり腕力で従わされていれば当然いい仕事は出来ないことと同じで、本来持つ従魔のパフォーマンスを発揮できないだけでなく、寿命も極端に短くなるそうだ。


 拘束具の不具合や取扱の不備で、従魔が人を襲撃する事件が増加したことに加え、それに乗じた魔獣保護団体のロビー活動やシュプレヒコールなんかが実を結び、王国法では法整備が進み違法とされた。


 製造するメーカーにも厳しい規則が追加された現在では拘束具自体は違法ではないが、その製造は厳格な管理の元行われており、従魔証明の装飾に模した拘束具や防具に模した物、果ては魔獣の体内に埋め込む下劣な物などの『違法変造品』の摘発は総力を上げて行われている。


 しかし、帝国では表向きに忌諱される方法とされてはいるが違法にはされていない。

 だからあくまで『捕獲した魔獣』として、拘束具を付け生きた状態で帝国まで搬送する必要があったのだ。

 まぁさっきの『クエストに口答え』ってのは最初にここら辺を諫めたんだろうな。


 これらの情報は全てラッカさんから持ち込まれたものだ。

 こういう痒い所に手が届く感じの情報をくれる諜報員がいてくれると本当に助かる。

 情報は極めて強い力だ。1級冒険者を止めるほどの手札となる。


 もう彼女には『よく調べたで賞』を上げたいもの。

 報酬1割どころか5割ぐらい増やしてあげたいぐらいだ。

 モーリーミルクもバッチリ奢ってあげよう。


 そんなことを考えている間にも豚さんの騒音は続いている。



『高い金出して雇ってやっているんだぞ! 感謝が足りないんだお前ら! 代わりなんていくらでもいるんだからな! 2度と忘れるな馬鹿!』



「……申し訳ございません。次こそは必ず――」



『次が! あると! 思ってるのが! 駄・目・な・ん・だ! 言っていた通り序列は降格! 序列10位からやり直して反省しろ! のろま!』



「そんなっ! どうかっ――」



『うるさい! つけあがった罰だ! 優遇しすぎていたのが駄目だったんだ!』



「ッ! ふざけんな! 元はと言えばてめぇがっ――むぐ!」

「ルスカ! 落ち着きなサイ! うっ!」

「うがぁ! 落ち着いていられるか! イデアルは、ルシアナはどうなるんだよ!」



『だから感謝が足りないって言ってるだろ! 【ひれ伏せ!】』



「うぐぅああ!」

「きゃああああ!」



 貴兵たちが倒れ込んだ。

 シルム家の印が明滅している。


 あれは拘束具と同じ効果もあるのか?

 スマホを通した声にも反応するんだな。

 確かに雇用関係上の保険は必要だろうが、これはやり過ぎだ。



『嫌なら解雇してやったっていいんだ! 俺様は雇い主だぞ! もっと敬えっ! まったく上下関係をちゃんと――あ゛ぐああああ!』



「「ッ!」」

「なんだ?!」



 突然の絶叫に騒然となった。


 俺には豪華な部屋で頭を抱えている豚さんが見えている。

 転げまわってへそまでめくれ上がったシャツに、辛うじて残っていた貴族としての威厳は無くなった。



『なんでだぁああ! 止めてくれぇえええ!』 



 これは『他の人』への音量は0で豚さんは50。

 そして手元のスマホが『ブッブブー』と振動している。



『あ゛あああ! ゴォイズミィイイイ! 頼むううう!』



 うるさいからしょうがない。

 たっぷりと時間を取ってから止めるか。

 ……曲を停止っと。連動していたバイブも止まった。



「…………はい、止めました。すいません。余りにうるさかったので、つい」



『はあはあ、『つい』じゃない悪魔め! 今までと同じと思うな! イデアル! ルスカ! シトゥルーナ! ペイリ! 新たなクエストを出す。序列を戻してやってもいい! 【命令だ! コイズミをぶちのめせ!】』



「「なっ!」」



「ッ! させるか!」



『ひゃはは! 今は駒がそこにいるんだ! 安心するがいい。もしお前が死んでもヴィントとやらは『主替え(リテミング)』してやるから! そら! 早くやれ! 愚図! ……どうした命令だぞ? 【命令だ! ぶちのめせ!】 従わなければ…………あれ?』



 貴兵たちは動かない。

 そもそも印の明滅が起きていない。

 命令に背いたのに【痛撃】が発動していないのだ。



『どうした早く! 【命令だ! ぶちのめせ!】 言ってるだろ! おい!』



 立体映像を右端に追いやっていた『ある人物』の音量を50に戻す。



「……これで宜しかったでしょうか? “レオーベン閣下”」



『あぁやっと声が届くのだな……ここまで愚かだったとはな。タルヴィよ』



「ッ! ち、父上っ!?」

「「レオーベン様!?」」

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