表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第4章 出張からの出張は最早拉致に近い件について
106/154

103:従魔化

 

「「『従魔化テイム』しましたぁ?!」」



『そんな訳ないだろ』という声が響き、『そんな訳ないだろ』と言うように神獣が体を捩り逃げようとしている。


 魔獣をこよなく愛するメルリンドは、その発言がどれほど突拍子もないことか理解していた。

 通常、従魔化テイムとは気軽に行えるようなものではない。

 魔獣の特性、互いのマナ相性に影響を受け、深い信頼関係を持って心を通わせる神秘だ。


 そうでなくば世の中は魔獣使い(テイマー)で溢れかえっていることだろう。



「コイズミ殿、それは……無理があるのではないだろうか?」



「テイムです! ほら所有証も付けてます! あっすいません、『清浄スカーフ』切ってしまって」



『ハッ ワフッ』



「いや、それは良いのだが、そういう事ではなくてだな――へぁっ? 首輪と腕輪は?」



「あー外しました。こいつも辛そうだったんで」



『ハッ ハッ』



「外した? どうやって!? 言っていることが良くわからんぞ!」



「非常識の極みです! 理解が出来ません!」



「おい! お前もそいつも魔経絡は無事か?!」



『ハッ ワフッ オン!』



「無事、だと思います。うっ ほらこんなに元気になりましたし。それよりテイムですよ! うっちょ白犬! 大人しくしてっ! あっ!」



 遂に暴れる神獣に負け、地面に置いてしまう。



「はぁああ! シロォ! おいで! 我が抱いてやるぞぉ! ほらおいでぇえ! シロォォオ! 余すところなく抱きしめてやるぞぉお! 【疾風の心得(ハヤテ)】!」



「メ、メル様っ今はお控えください!」



「がっはは! やべぇ魔導具にテイムに拘束具外しだとさ! シェフィ後は頼んだ! もう俺は諦めたぞ!」



「ガノン様もしっかりしてください! それがギルド支部長の言葉ですか!」



『グウウウ! ワフ! グウゥ クゥン!』



「ダメだよ! ねっほら白犬! おすわり ねっ」



 自由になった小さな神獣は貴族私兵に向かって威嚇する。


 表情はいつ攻撃してもおかしくない様子だが、『座って』と言われながら威嚇している腰をグリグリされているため、どうにも威嚇に覇気がない。



「よしほら白犬! デカ犬! これ! はい! 欲しい人!」



 意外に頑固な威嚇に、そう言って掲げたのはかなり大きな魔石が2個。



『オン!』

『グオン!』



 腰を上げ尻尾を振り、『早くよこせ』と催促するように動き回る。



「はい! じゃあ座って!」



 そう聞くが早いか2頭とも綺麗に腰を下ろした。



「はあああああ! なんという秀麗さぁ! なんという荘厳さだぁ! せめて体毛だけでも……【迅雷の心得(ジンライ)】!」



「ありゃグランミルパと……ドランゴルムのもんか?! ほら俺の言った通りだろ!」



「そんなことを言っている場合では……もぅいいです」



 色めき立つ外野を気にすることなく、手渡された魔石を飲み込み、器用にかみ砕いて食べ始める。

 美味しそうに食べる微笑ましい情景にひと時の平穏が訪れた。



「ほら、言う事聞きましウブゥ! ちょ今は舐めなくていウボォ!」



 大きな舌で舐められセリフが止まり、腹に受けた突進で倒れ込んだ。

 そのままグリグリともみくちゃにされながらペロペロと顔を舐められている。



「んあああ! いいなぁ! いいなぁあああ!!」



「ッ! メル様っ?!」



 矢も楯もたまらずメルリンドは飛び込んだ。

 しかし、神獣は音もなくスッと躱す。

 そのため『ズザザー』と地面を滑り、抱き抱えようとした腕は何度も空を切る。



「んあああ! ちょっとだけぇ! ちょっとだけでいいからぁあああ!」



「がっはは! 『触れる事すら』ってのはこれか!」



 超高速の追いかけっこが続く。



「一体、何を見せラれてイルのカシらぁ……」



 地面を滑る音が続く中、皆を代弁するような呟きが響いた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 ふぅ……なんかめちゃくちゃ疲れた。

 洗ったけどまだ顔がベタベタしている気がするしさぁ。

 まぁ1名俺よりも汚れているし、秘書に怒られて打ちひしがれているけど。



「さて、テイムだと分かっていただけたでしょうか」



「……そうだね。信じられないけど認めざるを得ないだろうね。特にその子は」



 その子と呼ばれた白犬は前に座ってスカーフを自慢している感じのおすましさんになってくれている

 横に座るデカ犬は大きな耳をピクピク動かすたびにリボンがひらひらと揺れているのが可愛らしい。

 しかし相対する彼、彼女らの警戒している様子からするとなんか【威圧】でもされているんじゃないだろうか。



「シロイヌとデカイヌだったね……安心していいよ。もう君達は襲わない」



 その【威圧】を受け止めるシスコンイケメンイデアルさんは毒気を抜かれたように大人しい。

 さっきまでの鬼気迫る感じはどこかへ行ってしまった感じだ。



「ッ! そうか! コイズミ殿! 『従魔』ということにしてしまえば、手出しが出来ないのだな!」



「登録すれば所有物扱いになりますので、当然危害を加えれば王国法にも帝国法にも抵触します」



「あぁ連れ去っても色んなとこの検閲で引っ掛かりまくるしな」



 突然打ちひしがれていたメルさんが『バシ』と膝を打ち、シェフィリアさんが補足してくれた。

 流石、理解が早くて助かる。でも――



「法律か。……君達は優しいね」



「……何が言いたいのだ?」



「いや、他意はないよ。気に障ったのなら謝るよ」



 まぁそうだろうな。

 この状況でも法律に則って穏便に済まそうとしてくれる事へは感謝こそすれ、今更この人は法では止まらない。

 もし本当の意味で止めたいのなら、物理的に血生臭い方法をとる必要があるだろう。


 目的のためには起こり得る限りの可能性を探し、出来得る限りの選択肢を試す。

 極力選択しないだろうが、結果この森を焼野原にしようと、王国を敵に回そうと涼やかな瞳の奥の激情はそんなことでは止められないだろう。



「教えてくれないか……“こんな事”をどうやって考えついたんだい?」



「確認したんです。それまではあくまで検討案の1つでしたから」



「確認した? 一体それはどういう、いや……検討案ってことは、君にとっては拉致される前からって考えていたってことかい? それは嘘だろう――と言えない所が君の怖さだよ」



 短く嘆息すると、真摯な瞳に射抜かれた。



「言えた義理じゃない事は理解しているよ。……まだ『ヴィントの捜索』に協力してもらえないだろうか? 罪ならば償う、どんな復讐も受ける、君の望みの対価も支払おう。信じられないと思うから拘束具を付けてくれていい。……だからお願いだ。助けてはもらえないだろうか」



「イデアル……あナタ……」



『新しい個体の神獣ヴィントを探す』。

 その手伝いをしてくれと、恥も外聞もなく、ほんの少しの悪感情さえ微塵も感じさせず頭を下げ懇願した。


『助けてほしい』と帝国の貴族私兵の1級冒険者が、他国の格下も格下の7級冒険者にだ。

 俺にだってこの願いの重さぐらいは分かる。



 ――既に回答は決まっている



「お断りします」



「お願いだ。どんな条件を付けてもらっても構わない! 君の協力が必要なんだ!」



「いいえ。『ヴィントの捜索』には協力できません」



「ッ…………そう、か……ならば――」



「する必要がありません。――そうですよね? “タルヴィ卿”」



『……あぁ。今を持ってクエストは解除だ』



 スマホから声が届く。

 立体映像には、太った男が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ