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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第4章 出張からの出張は最早拉致に近い件について
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102:いや……その……

 

「いや……その……『大丈夫』とは聞いていたが心配になって……その……倒れているのを見たら……ついカッとなってしまったのだ……」



「ふむ。それでメルさんから戦闘を仕掛けたと」



「う、うむ……その……話ぐらいは聞いても良かったかなとは……」



「そうですね。助けに来てくれたのは感謝します。でも真っ先に力で解決というのは――」



「そんなことねぇ! お姉さまは俺の性根をっ んひぃ!」



「落ち着いてくれルスカ! そんな事を言ってる場合じゃないんだ」



「離れなさい! お姉さま……? どういう事ですかメル様!」



「あ……いや、仕置きで尻を叩いただけなのだが……」



「すいません。ちょっと今は『現状把握』をしているので――」



「はっ! 『轟雷尻ビンタ』を食らったのか! そりゃ3日は痛みが取れねぇぞ。そいつにゃ【治癒】もポーションも効かねぇ。『鍛造と同じでマナを叩きこんでる』ってサイトンが言ってたぜ」



「『轟雷尻ビンタ』?! 我は初耳だぞっ!」



「既に伝統のしつけの言葉です。名を聞いただけで村の子供は震えあがります。ちなみに命名したのはガノン様です」



「がっはは! 恐ろしさが伝わるだろう?」



「この前校舎で怯えられたのはその所為か! ガノ坊!」

『バチバチ』



「ヒェッ! ケツが無くなっちまう!」



「こんなのが何日もぉ はぁはぁ はぁう!」 



「いや、ですからね。まずは『現状把握』を――」



「お、お姉さまぁ もう一回ぃ はぁはぁ」



「おねぇさまぁん おっ似てる!」



「ちょっと大人シク座ってナさい!」



『はあああああい! 話を聞いてくださあああああああい!!!』



「ッ! 【防音】! うぐぅうう! き、効かないぃ?!」

「ぐぅうう! なんだこれえ! 悪かった! 悪かったって!」

「んぎぁああ! 耳は弱いのだぁあ!」

「んひぃい! ひゅごいぃい」

「がぁあ! こんな事している場合ではぁあ」

「あわわわわわ」

「んグゥ! なんでわたくしまでぇ! ああ! ペ、ペイリが泡吹いテるワァ!」



 ◇



 チラチラと神獣を凝視する者にその様子を凝視する者、嬌声を上げる者に呂律がおかしい者等々、なんだかんだで遅々として進まなかった『現状把握』がやっと終わった。


『真っ先に力で解決はどうなのか』と言った手前だが、あまりの脱線に次ぐ脱線に『全っ然話聞かねぇ』と力で解決してしまった。

 腕を組むたびにガビガビに固まった血が気持ち悪いったらないもの。

 長時間過ぎてスマホが熱持ってるもの。


 座り込んでいる耳が丈夫な人たちから目線を横に向ける。

 そこには離れた位置で大人しく待っていてくれたデカ白親子。

 あちらの方がよっぽど話が分かる気がするな。


 首輪を外そうとして【痛撃】が走っただろう痛々しい鳴き声も、それが徒労に終わり白犬を隠すように伏せたデカ犬がペロペロしていたのも随分前に終わっている。

 ペタンとしていた大きな耳も段々と良くなってきたようだ。


 さて、問題はここからだ。


 神獣を連れ去りたい貴族私兵。

 当然抵抗する神獣。

 その抗争自体を止めたい3人。


 どうやっても平行線と濡れた消しゴム。

 決して交わらず、介入すればグチャグチャにこんがらがっていくだけだ。


 それじゃ『仕上げ』と行こうか。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 手詰まり。


 そうイデアルは結論付けた。

 この状況においても思考は如何にして神獣を連れ去るかをシミュレートしていた。


 先ほどまでの混戦であれば、愛すべき仲間を見捨てることさえ想定すれば可能性はあった。

 しかし、蒼眼は向けられていなくとも神獣が放つ全てを見透かすような【威圧】の中で、明らかに等級を偽っている上級冒険者の6つの眼を掻い潜り、問答無用で制圧される不可思議な魔導具アイテムを瞬時に無力化して、神獣を手にする。

 命を賭しても、どんな手札を切ったとしても不可能としか思えなかった。


 それは彼の能力を大きく見誤っていたことに起因する。


 彼の操る恐ろしいほど広範囲に声を届けられる不可思議な魔導具アイテム

 これにより上級冒険者達の速すぎる到着を導いたかに思えた。


 其の実、あの口ぶりからすると場所を知らせはしたが呼んではいなかったようだ。

 いや、呼ぶ必要すらなかったのだろう。


 拘束腕輪の『攻撃不可』を無効化し、上級冒険者達すらも押し並べて制圧するなど一体誰が想像できただろうか。

 耳を塞ぐも無駄、鼓膜が破れていても振動と激痛が走り、【防音】すら貫く。

 あれは『神器レガリア』と呼べるだろう。


 故にここからは武力行使ではなく交渉。

 理と利で戦わなくてはならない。


 幸い2つの拘束具という手札がある以上こちらの――



「ちょっと待っててくださいね」



 彼はおもむろに神獣の方へと足を進める。


 そして、大きな神獣の影で何かを……



『グウルル!』



「うっ! 動かないで! 格好いいからほらっ! ねっ! ほんと似合ってるから! ねっ!」



『ウオン!』



「いいから! ねっ! ほらブンブンしないで! ねっ! かわいいから! ほらかわいい!」



 一体何をして――



「ワウ!」



「うぐぅっ!」



 ――出てきた。

 いや、小さな神獣に押し倒されて飛び出したのだ。


 どこか感じる違和感。


 ペロペロと顔を舐めている首元には見慣れない……スカーフ?


 一瞬思考が止まる。



 ――ッ! 『拘束具』がない!?



 総毛立つ。

 掴みかけた希望が手のひらから零れ落ちる。


 ダメだ! 絶対に逃すわけにはいかないっ!



「【雪花】」

「させんよ」

「ま、大人しくしといた方がいいぜ」



「ッ!」



 安穏とした空気が消え瞬時に足元が凍り、細剣と大剣が首筋に添えられる。

 そして大きな神獣からは渦巻く風が向けられていた。


 僅かに漏れてしまった殺気を塗りつぶした濃密な殺意。

 指一本でも動かせば首と胴が離れてしまうような動静は『もう二度と傷つけさせはしない』という断固たる意思表示だ。


 視界が歪むほどの驚愕、失意、焦燥。


 理由も、根拠も、理屈も何もかも不明。

 しかし、実際に拘束具は、一縷の望みは取り外されてしまった。



「ここまで来て……」



 諦めてしまえば、諦めてしまう事が出来るのなら……



 ――諦めることなど、出来るわけがないっ!



 即座に折れそうになった心が『嫌だ』と叫んだ。


 たとえ恨まれ、疎まれ、蔑まれようとも――



「まぁまぁ。ちょっと落ち着いてください」



 歩いてくる彼の腕にはスカーフを首に巻いた神獣が抱かれ、すぐ後ろから覗き込むように大きな神獣が続く。

 その大きな耳には揃いの色のリボンのような飾りが結ばれ揺れている。


 そして小さな神獣を見せつけるように手を伸ばし、穏やかに笑った。



 ―-テイムしました

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