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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第4章 出張からの出張は最早拉致に近い件について
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101:え、なにこれ?

『え、なにこれ?』 

『なにあの地面?』

『なにこの状況?』


 と呆けていても始まらない。



「ねー意味分かんないねー 白犬ぅー ねー」



 と触り心地のいいモフモフを撫でまわしていても始まらないんだけど止められない。



「クゥーン」



「ねぇそうだよねぇー ねー白犬ぅー 助けにきてくれたのかなー?」



「ウオン」



「へぇそうかー ありがとねー ねー?」 



「オン?」



「いやーどうなんだろうねー」



 いやいや、だめだ。

 現実逃避している場合じゃない。


 でも、まるで状況がわからねぇ。


 馬鹿でかい音と揺れに飛び起きてみれば、障壁の中で転がされていた。

 隣の白犬もお揃いの拘束具を付けて。


 折られた腕は問題なく動くしもう痛みもない。

『自己修復』がうまい事やってくれたんだろう。


 まぁそんなことより問題なのは、アレだ。



 ――森がひっくり返っている



 地滑りでも起きたかって思うぐらいグチャグチャだ。

 どうすりゃああなるんだよ。


 遠くじゃまだバッチバチ戦闘音がしているしさぁ。

 怖いったらないもの。

 もうこの障壁から出たくないもの。


 目を凝らして見えるのはデカ犬と4人と……3人?


 え……あのデカい大剣のシルエットはガノンさんじゃ?

 てことは助けに来てくれたのか?

 あれー……大丈夫って伝えてあったはずなんだけどなぁ……


『バッッッシュ』


 大きな擦過音が続けて2回。


【防壁】を出して防いだ……?

 えぇ? みんな入り乱れて戦ってる!?

 なにあれマジでどういう状況?!


 デカ犬を討伐している感じじゃないけど……

 いや、なんか結構ヤバい事になってるのは間違いない。

 とりあえず止めよう、『段取り』は終わっているんだから。


 俺はスマホを取り出す。

『カシャ』っと一枚。


 拡大して長押し、ホイホイホイと【通話】を起動。


 これで準備は万端。



「はーい。止めてくださーい」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 唯一感じとれたのは振動。

 それは音という概念ではなく、頭蓋内部を強烈に揺さぶられたような衝撃。



「うぐぁあああ」

「ギャアアアアア」

「あ゛あああああ」

『グギギ』



 直後から襲い来る激痛、眩暈、吐き気。


 全くの意味不明。

 頭を抱えのた打ち回るほどの前後不覚。

 神獣を含め全員が戦闘不能に陥るという異常事態。



『……いっけね。やり過ぎた』



 その声がまともに届くことは無かった。

 唯一聞いていた小さな神獣は、不思議そうに首を傾げた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



 やべぇ……“上げ過ぎた”。

 しかも『オッケーグー〇ル』と同じ感じでやっちまった。


 全員がのた打つ惨状の原因は【通話バグ】と名付けた現象だ。


 実はというか、またもやというかディーツーの【通話】の説明には、色々と不備や問題があった。


 まず1人だけでなく複数人数での音声共有、そして映像視聴が可能だった。

 これは【通話】というよりどちらかと言えばWeb会議のイメージが近いだろう。


 この『相手の了承を得ずに強制参加させる事ができるWeb会議』のお陰でにゃんこ先生ことラッカさんには多大な迷惑をかけてしまった。


 ちなみに生き物でなくとも石でも花瓶でも参加させることができた時には『あぁやっぱり悪用しちゃダメなやつだぁ』という自戒しかなかった。


 次にワイヤレスイヤホンも使えたし他のスマホの機能も併用できた――までは良かった。


 便利な事に個別のボリューム調整まで付いていたのだ。



 ――もちろん相手の了承を得ずに



 こちらに聞こえる音量の調節だけでなく、相手に聞こえるものまで調節できる。

 そうなると話が変わってくる。

『あっこれやべぇヤツだ』と即座に警戒した。


 なぜならラッカさんは『虚空から声が聞こえる』、『横を向いたのが分かった』と言っていたからだ。

 音源スピーカーが1つということは、頭部伝達を考慮した一般的な立体音響方式でも頭部のマネキンを用いたバイノーラルでも、もちろんホロフォニクスでもないだろう。

 それでも音像定位が可能ということは、スマホに話かける距離、角度で相手との音の発生点が移動していると考えられないだろうか?


 実際今まで動いている相手にも自動で追尾して会話可能になっていた。

 音の発生点の移動はこのための機能だろう。


 問題は『スマホを近づけて話すほど相手の鼓膜に近くなる』ってことだ。



 ◇



 人が感じる音の大きさは、聞こえた最も小さい音を1とした時、100倍大きな音がしても感覚的には20倍程度。1000倍の音では40倍程度にしか聞こえない。


 こういう音の感じ方、人間の聴覚特性を考慮して『感覚量は刺激量の対数に比例する』という『ウェーバー・フェヒナーの法則』から、騒音は音圧レベル : dBデシベルが使われる。


 そして音は様々な方向へ広がろうとする性質を持っていて、音源から発生した音のエネルギーは距離が離れるにつれて薄まっていき小さくなる距離減衰という性質を持っている。


 まぁ知っての通り、人間は近くの目覚まし時計をうるさく感じるし、遠くの飛行機の音は小さく感じるってことだ。

 だから産業機器の騒音を測定する時も『1mの時に70dB未満』って感じで距離も重要になる。


 ではラッカさんとの会話を参考にしてみよう。

 スマホに対して50cm程度で話しかけ、虚空を引っかいていた距離を50cm程度として合計距離1m。口元に近づけた場合の距離を合計1cmとする。

 普通にシャワーの中で会話出来ていたから『70dB』として騒音減衰の計算をすると、



  SPL2 = SPL1 - 20log(r2 / r1)


  SPL2 : 距離r2での騒音値

  SPL1 : 距離r1での騒音値


  当てはめると、

 

  SPL2 = 70 - 20log(0.01 / 1)

  SPL2 = 110

 

 

 口元に近づけるだけでなんと『110dB』。

 普通の会話が自動車のクラクション程度に変わってしまう。


 これがデフォルトボリューム『50』でだ。


 今回は『戦闘音がうるさいしボリューム70くらいかなぁ……あの人たち全然話聞かないしな』と安易に考えてしまった。


 もしボリュームが単純な比率だった場合、50で『70dB』なら70なら『98dB』となる。

 電車が通る時のガード下やライブハウス程度だ。


 それをスマホを近づけて言ってしまった場合の値は『138dB』。


 これは至近距離の落雷あるいはジェットエンジンの離陸時の音を真横で聞いている状態らしい。

 もううるさいとかではなく、我慢の出来ない苦痛が表れ、鼓膜が破れる。


 そうだね。これは、『音響兵器』だね。


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