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異世界出張!迷宮技師 ~最弱技術者は魚を釣りたいだけなのに技術無双で成り上がる~  作者: 乃里のり
第1章 出張は楽しめれば勝ちという件について
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1:長閑なハイキングコースのようにも

 長閑なハイキングコースのようにも見える森の小道。

 ざぁっと柔らかな風に撫でられキラキラと木漏れ日が揺れる。

 木々の隙間からは、遠くに冠雪を僅かに残した山々が見えている。

 右手に流れる清流のせせらぎは心を静め、訪れた者を癒すだろう。


 季節は初夏ぐらいだろうか?

 土手には黄色や緑、青からオレンジ……ぁ……黒にも()()した……


 何て言うか……その……

 非常にカラフルに色を変える花々が咲いている。



「はぁ……はぁ……ぐっ……ぜぇぜぇ……」



 スーツに革靴の出で立ちのせいにしたいが、明らかに運動不足だ。

 肺が悲鳴を上げている。

 数瞬の現実逃避も許されず現実に引き戻された。


 通勤カバンを小脇に抱えた場違いな姿の俺は、()()()()()()()()

 現実逃避の甲斐もなく横目で振り返れば、相変わらず後ろから【犬のような動物】が迫ってきている。


 50cmぐらい…見た目は白いポメラニアンに似ている。

 一目で違う点は、目から蒼い光が漏れていることだ。


 お耳は大きくピンとしていて……

 あんよは少し短い……もふもふ……かわい……



「ぐっ……」



 腕の痛みに逃げながらも何度かどつかれ、派手に転がされたことを思い出す。

 お蔭様で裾がドロドロになっている。

 見ていたいと主張する視線を、頭を振って無理やり前に戻す。



「っ!」



 さっきまで無かったはずの黒色が目の前に迫る。

 頭の高さほどある茂みの寸前だった。


 目の前に迫った茂みを華麗に回避――


 中年に片足を突っ込んだ運動不足男にそんな動きはできるはずもなく、ガッサガサと片足のみならず、体ごと茂みに突っ込む。


 咄嗟に通勤カバンを出すが、剥き出しの指や手の甲に引っ掻き傷が出来る。

 ジクジクと痛む手を放っておいて、体をねじ込み何とか茂みをかき分ける。



『ドンッ』

「ぐぁっ」



 次の瞬間、背中にサンドバッグでも投げつけられたかのような衝撃が走った。

 吹き飛ばされ、地面を削るように転がる。



「ぐっ……ぅぅ……」



 肺の空気と共に、意識も吐き出されるように飛散していった。


 ……これが走馬灯なのだろうか?



『だっ大丈夫です! 平和で安全ですっ!』



 などと言っていた【うさんくさ子】の顔が脳裏に浮かんだ。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



「うおっ…… えっ?」



「お、おめでとうございます! コイズミ・トモヤさん。あなたは、ゆっ勇者に選ばれましたっ!」



 白衣を着てメガネをかけた少女は、唐突に新手のワンクリック詐欺のようなことを口走った。


 俺は中小企業に勤める29歳のただのサラリーマンだ。

 検査機を構想設計したり、組み上げた装置のラダーを組んだりしている。

 所謂、開発畑や技術畑と呼ばれる職種になる。

 この年にもなって勇者という頭がお花畑のような者に転職する勇気はない。


 見渡せばシアタールームだろうか。

 天井も壁紙も明るいクリームホワイトの部屋。

 照明はなく、天井が光っている。


 6人は座れそうな大き目の白いソファと足の低いこれまた白いテーブルが置いてある。


 ソファ正面には目を引く3mほどの非常に大きなモニターが浮かんでいる。

 そのモニターには3つの惑星が映ってい……浮かんでるっ? えぇ! なにここ!


 いやいや落ち着け。

 腕を組み思い返す。


 えーと今日はいつもより早めに目が覚めた。

 ニュースを見ながら朝食を済ませた。


 占いカウントダウン…今日は9位。


『まぁせっかく早く起きたんだから早めに出よう。最近よく行くコンビニでコーヒーでも買うか』と車に乗り込もうとドアを開けたはずだった。


『へ……?』と思考が止まる。

 目の前にはいつもの運転席ではなく、真っ白い空間になっていた。


 その白い空間が音もなく広がったかと思うと、この白い部屋に車のドアを開けて驚いたままの間抜けな恰好で立っていた。


 まだ心臓がバクバクしているが、人間本当に驚いた時は『うおっ……』ぐらいの薄いリアクションになってしまうのだろう。

 間抜けな恰好の羞恥心からか、そんな言い訳めいたことを考えてしまう。



「おめでとーございまぁす! あなたはっ!」



「あっ聞こえてます」



 胸の前に両手を握り、一度目より大きな声を出している白衣のメガネ少女を手のひらを見せ(なだ)める。


 見渡していた視線を少女へと向ける。


 気の弱そうな感じではあるがパッチリとした黒目。

 幼さを残している顔立ちは非常に整っており、大変な美少女。

 黒髪のロングヘアを後ろでクルンとまとめ、赤い(かんざし)に見える物で刺し留めている。


 少女を知的に見せている黒縁のメガネ。

 前を開けている白衣から覗く水色のブラウス。

 ネイビーのフレアスカート。ヒールのあるサンダル。

 コスプレのように見える白衣以外はよく似合っていた。



「あっすみませんっ」



 宥められ声のボリュームが戻った。



「と、突然のことでさぞ驚きでしょう。残念ですがあなたは亡くなられました。ざ、残念です」



 さも残念そうに、残念顔を作る残念メガネ少女。



「はぁ」



 言っている意味が分からないが相槌を打つ。



「コイズミさんは、お仕事帰りのシンゴウ? と言われる安全装置の待機時間に…え~スマホ? と言われる携帯情報端末を操作していた運転手がトラック? と言われる大型の運搬車両で後ろから――」



 記憶と違う()()となぜか疑問符だらけのセリフ。

 大きな身振り手振りで内容が入ってこない。

 正直うさん臭さしか感じない。



「少しよろしいですか? まずあなたは?」



「あっすみませんっ! わたしは【ディーツー】ですっ! あっ……いえっ……【女神様】と呼んでください……のじゃ」



 ディーツー? D2?

 このメガネ少女は型番のような名前らしい。



「初めましてディーツーさん。仕事帰りやトラックとおっしゃっていましたが、私はまだ出勤していませんし、トラックにも身に覚えがないのです」



「と、突然のことで混乱しますよねっ。生前の記憶も曖昧になっていると思います。でも大丈夫ですよっ! お、落ち着いてくださいねっ!」



「……覚えているのは今日は*月*日で。朝食を食べた後8時ぐらいに車に乗ろうとして、白い空間に飲み込まれました。記憶もはっきりしていると思うのですが……ディーツーさん今何時ですか?」



 自分の時計を確認しながら、聞いてみる。

 えっ針動いてないんだけど……



「えっ ほ、ほんとですか? ちょっと待ってクダサイ」



 真面目な顔になり、一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後、



「ほんとですねっ。タイミングがズレています…… し、信じられませんっ!」



 自称女神様のうさん臭いメガネっ娘は、俺以上に困惑している。

 それはもう目をまん丸に見開いているもの。



「うっ……うさん臭いはひどいです……。今原因を調べてますので、シバラクオマチクダサイ」



「っ! まさか心読みました? 後なんで急に片言……わっ?!」



 片言になった途端に照明が薄暗くなった。

 さらにディーツーは目を開けたまま微動だにしていない。


 うわこっわ!

 何この状況! 何一つ分からねぇ!

 帰りてぇ!


 出口はどこかと振り返る。再度部屋をぐるっと見渡す。

 今更どこにもドアや窓がないことに気が付いた。


 こっわ! ナニコレ!

 これもうホラーだよ!



「失礼しました。お待たせしました」



 良かった。薄暗かった照明が戻った。



「……いえ、それでご説明いただけますか?」



 さっきはどさくさ紛れに思考を読まれたように思える。

 このうさんくさメガネからしか情報を聞けないからには失礼なことは出来ないな。



「うさん……くさメガネ……あ、悪化してますっ! すごく失礼ですよ?!」



「ははっ冗談です。それで、ご説明いただけますか?」



「あっ! は、はい! え~と、コイズミさんに分かりやすく説明するとなるとー うーん トリガー間隔が10msだったはずが、急に2msになった……感じ……?」



「あぁ~検出範囲狭めたら急に処理早くなって、変なもの拾ったり逆に検出できなくなった感じですか」



「そ、そうですっ! そんな感じですっ! 分かっていただけましたかっ」



「いいえ。全く」



「ひっ! ですよねっ! す、すみませんでしたっ!」



 しょうがない。

 まずは現状把握だ。話を聞くことにしよう。

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