アルカナの魂
「きのこっのっこーのこげんきのこー」
アテナがどこか聞き覚えのある様な歌を歌いながらきのこを採取している。
俺たちは早速ギルドでG級冒険者用のきのこ採取のクエストを受けて山に来ていた。
港街オッツカから南東へ少し行ったところに様々なきのこが群生している山があるのだ。
それにしてもアテナはご機嫌だな。
「きのこ好きなのか?」
「好きですよ! 私が一番好きなきのこはマッツコタケと言うきのこです!」
「へぇ〜。 どんなきのこなんだ?」
「太くて大きいきのこです!とっても美味しいんですよ!特にデラックス級の物は頭一つ抜ける美味しさです!」
太くて大きいデラックス級のマッツコタケね……。 平日から夜更かししそうな名前だな。
てかデラックス級てなんだ……。
「……それは食べてみたいな」
「この山にも自生してるらしいのですが……。 珍しいきのこなので見つけられたらラッキーですね!」
そうして俺たちは本来の目的である毒キノコを採取して行った。この毒キノコは調合すると薬になるらしい。素手で触る分には問題ないとの事だった。
そんなこんなで作業を続け、なかなかの量が採れた。
「そろそろ良いんじゃないか?」
「そうですね。 では野宿の準備をしましょうか」
今はもう陽が傾いて薄暗くなってきている。
街まで歩くのも時間が掛かるので野宿をする前提で準備をしてきのこ採取に来ていたのだ。
野宿の準備と言ってもたいしてやる事はない。
俺たちはいい感じの腰を下ろせるところを見つけ、火を起こした。
後はオッツカで購入しておいた野宿用のシートを敷いてタオルケットを被って寝るだけだ。
だがまだ寝ない。夕飯だ。
スープを作り、保存食を用意した。後は先程採った食用のきのこでも焼いて食うか。
「マッツコタケは採れませんでしたね」
「珍しいきのこなんだろ?しょうがないさ」
結局マッツコタケは見つける事が出来なかったな……。
「シンさん。あの……」
「なんだ?」
「アルカナ王国のみんなと、お話ししてみたいです」
「あぁ、飯食ってからな」
そう言うと、アテナの食事のペースがほんの少し上がった。
「ご馳走様でした!シンさんお願いします!」
夕食を終えると共に、嬉しさと怖さが混じった様な表情で俺に頼んできた。
死んだ親しい人と話せるってのはどんな気持ちになるのか……。 俺も経験した事はないから分からないが、きっとアテナみたいな複雑な顔になる様な気もする。
「はいよ」
俺はアルカナとリシュテームで分けていた魂の、アルカナの方の魂を全て出現させた。
チラッとアテナを見ると、まだ俺の方を向いてる。
見えてないか?
「……見えてないか?」
「え?えっと……はい……」
やっぱり見えていなかった様だ。
アテナは凄く落ち込んでいる。だがまだ諦めるのは早い。
「そうか。じゃあこれでどうだ?」
俺はアテナにも見えるようにスピリットオペレーションのスキルを操作した。
「わわっ!」
どうやら見えるようになった様だ。
「すごい……きれい……」
アテナは瞳に涙を浮かべながら感動していた。
アテナの目の前にはアルカナの人の魂が一万以上、夜の山に広がっているのだ。
この壮大な光景は、京都の五山送り火なんかとも比較にならない。
山一面に、青い炎が身を寄せ会うようにキラキラと揺らめいている。
「この全てが、アルカナの者達なのですか……?」
「そうだ」
俺たちが戦場から逃げる途中、勝手にみんな集まって来たのだ。自動収集とかなのかもしれないが。
その中には兵士だけではなく、巻き込まれて死んだ国民の魂もある。
「うぐっ……ひっく……みんな……」
アテナは自分の国の者の魂と会えた嬉しさ、これだけの数の命を散らしてしまったという悲しみ、色々感情が混ざり合って泣いている。
すると、一番前にいる魂が話しかけて来た。
『アテナよ……』
「! ちち、うえ?」
アルカナ王がアテナに声を掛けたのだ。
『本当にすまなかったな。 私は、あの国を守る事が出来なかった……。 多くの民や兵士達を死なせてしまった……』
「いえ……そんな……」
『しかし、アテナ。お前が無事で本当によかった。これからは、自由に生きてみろ。復讐など、考えなくていい』
「父上……ぐすっ……」
『先程シンノスケ殿の中から見ておったぞ。きのこを採取してる時のお前の顔……。 お前の笑顔を久々に見た。私はあれが見れただけで満足だ』
「父上……ひっく……見ておられたのですか……」
『あぁ。だからまた、最後に、皆にお前の笑顔を見せてやってはくれぬか?』
「……最後……? 行ってしまわれるのですか?」
『こうしてここに居られる時間も少ないようだからな……』
「それについてなんだが」
俺は親子の会話に横から失礼した。
「お前達の魂の中の力を、アテナに与える事も出来るようだが、どうする? それをするとお前達魂の意識は本当に最後になるかもしれない。でもどうせ最後ならアテナの力になってやってくれないか?」
そう、俺はスピリットオペレーションのスキルで、それぞれの魂に刻まれているステータスやスキルを自ら吸収したり分け与える事が出来るようだった。段々と、感覚で出来る事が分かるようになって来ていたのだ。体がこの世界に馴染んできたのだろう。
アルカナ国の人達はアテナを相当慕っている様だから、力になりたいと思う奴も居ると思ったのだ。
『なんと……そんな事が……』
「あぁ、出来るみたいだ」
『ならば、頼む。皆はどうだ?』
アルカナ王の魂がそう言うと、約一万の魂が全て集まり、アルカナ王の魂の後ろで一つの大きな青の火柱になった。
『皆、お前と共に行きたいらしいな』
「みんな……」
『では、私もあの中へ混ざるとしよう。死して尚、お前と、アルカナの民達と共にあれるとは……これ程嬉しい事はない! アテナ!強く!自由に生きてみろ!アルカナはお前の中にある!悲しむ事など何も無い!これは別れなどでは無いのだ!』
「父上っ!」
アルカナ王の魂が青の火柱の中に飛び込んでいった。
『シンノスケ殿、よろしく頼む!』
「あぁ」
俺はスキルを使い、火柱の魂をアテナに入れる。
アテナが青い炎に押し潰されるような光景が目に入る。凄まじい光景だ。
そして一気にアテナに吸収された。
そして今まで辺りを眩く照らしていた光が無くなり、焚き火の淡い明かりだけが取り残された。
「……あ……」
アテナは暫く呆然としていた。
「あ、あー……悪かったな……お前に確認してなかった」
本人に確認もせず勢いでやってしまった事に気付いた。これは、マズかったかも……
「……いえ、大丈夫です。ちょっと呆気に取られちゃって……。 でも、みんな、私の中に居るんですね……でも、もう少し、お話したかったです……」
「ほんとごめん……」
「いえ」
アテナは確実に怒ってはいるが、嬉しそうでもあった。
「ただ、最後に笑顔を見せられなかったかなって……」
「……それは最後にテンション上がって飛び込んでいった君のお父さんが悪い……」
俺も悪いけど、俺だけのせいじゃ無いと思うんだ……。
……ついでに俺も、こちらも一万程あるリシュテーム兵の魂を全部吸収してしまおう。
アテナはデラックス級のマッツコタケが好すき。