冒険者アル、誕生
「モムモム!んまい!」
「モグモグ、美味しいですね!」
俺たちは港街オッツカに着いていた。街に入り一番近くにあった食堂でこの街の名物だと言う海鮮丼を頼んで食べていた。太陽は真上を過ぎているぐらいなので、時間的に昼食だ。
「この世界でも魚介の生食はあるんだな!醤油みたいなタレもあるし、以外と食文化は発展してるのか?」
「私は初めて食べました!お魚って生で食べれるのですね!」
「なるほど、内地では食べる事はないのか。港街特有って感じか、馬で輸送するとすぐ腐っちまうもんな」
異世界の魚介を堪能して腹も満たされた。これからの話をするか。
「ふぅ、食った……。で、これからどうする?すぐ海を渡るのか?」
「いえ、今日は宿を取ってもう休みましょう。明日港に行って大陸を渡れる船を探します」
今までまともに休めなかったもんな、賛成だ。
「よし、じゃあ宿を探すか」
「あ、その前に冒険者ギルドに行っていいですか?」
「ん?」
冒険者ギルド?
「冒険者ギルドで冒険者認識票を作りたいんです。今後の身分証みたいなものです、私が王女だとバレないように。いえ……元……王女ですか……」
確かに、偽装しないと色々めんどくさいだろうな。
急にしんみりしたのはスルーで。
「って事は、冒険者登録するのか?」
「はい、冒険者なら偽名でも登録できるので」
「ふーん、まぁいいんじゃないか? 今はそれが最善な気はするが、顔でバレるだろう? 一国の王女なんだからアテナの顔を知ってる人も居るんじゃないか?」
「え? でもシンさんが何とかしてくれてますよね?」
「あぁ、今はな。でも常に誤魔化すことが出来るかは分からん」
俺が気配操作を駆使してアテナの気配を誤魔化しているのだ。今のように人に紛れてる時は何とか出来ると思うが面と向かって人と話したりする時はどうだかな。自分の気配ならどうとでも出来る自身はあるが、他人を誤魔化すのはどこまで出来るか分からないのだ。なんせ使い慣れないスキルとやらを使っているのだから。
「俺も自分の能力を把握できてない。あんまり宛にするなよ?」
「そうですか……。 じゃあ認識阻害の仮面でも被った方がいいですね」
「そんな物があるのか」
さすが、魔法の世界。
「売っていればいいですけど…… まぁ、認識阻害の効果が付いてるものがなければ普通の仮面を被るだけでも違うと思いますが」
「じゃあまずは仮面探しだな」
そうして俺たちは食堂を出た。
それから小一時間ほど歩いて商店街に到着。防具や服飾を扱ってる店が並んでいる通りを歩いている。歩いているんだが……。
「これなんかいいんじゃないか?」
「ちょっと派手過ぎじゃないですか?」
「じゃあこれとか?」
「可愛くないです」
「はぁ………。」
……全然決めてくれない……。
認識阻害のマスクもあったのだ。でもデザインが気に入らなかったらしく買わなかった。なんやかんやでもう二時間は経っている気がする……。
「う〜ん、これも……微妙ですね……」
「もうなんでもいいんじゃないかー?」
「よくないですよぉ……」
なかなか決まらないまま歩いていると、一軒の防具屋が目に付いた。
この世界はどんな防具があるんだ?気になる。
「ちょっとあの店入っていいか?」
「え?はい、いいですよ」
俺たちは二人でその店に入った。中は色々な防具で溢れている。男性用の甲冑の様な物から女性用のローブまで様々だ。
「おぉ〜すげ〜! ……ん?」
地球ではまず見ない様な防具の数々に興奮してはしゃいでいると、一つの防具が目に留まった。
マントに深めのフードが付いた、防具だ。これを防具と呼んでいいのかはわからないが。
フードマントとでも呼ぶのだろうか? 純白で、アテナに合うんじゃないか?
「アテナ、これなんかいいんじゃないか?」
「あっ!可愛いですね! ……でも、フードで隠せるでしょうか? ……でも……う〜ん……」
アテナも気に入った様だ。でもフードだけで顔バレしないか気にしている。
すると、店の店員が話しかけて来た。
「そのフードマントには認識阻害の効果が付いていますよ!生地も丈夫で、防御力も高いです!お値段は、銀貨80枚です!」
「っ!! これ買いますっ!!」
あ〜!やっと終わった!決まって良かった!
………
……
…
「ありがとうございました〜!」
店員に見送られ、アテナと一緒に店を出た。
アテナは先程買ったフードマントを早速着ている。
「似合ってるぞ」
「えへへ、ありがとうございます」
「あ、あぁ……」
照れ笑いとかすんのは可愛いな。元が良いから仕方ない……。俺は照れてないぞ?
「よし、次はギルドだな」
「シンさんは防具買わなくていいのですか?」
俺は今スーツを着ている。地球では民衆に紛れるのに適した服装だがこの世界では目立ち過ぎると思ってはいた。気配操作があるとしても周囲より目立つ格好は落ち着かないのだ、職業柄かな。
だからその内買おうとは思っていたのだ。でもな……
「俺の防具を買う金はもう無いだろ?」
「あっ……。すみません……」
「気にするな、最初からアテナの買い物をしに来たんだぞ?俺のはいいからギルドに行くぞ」
「…………。はいっ!」
アテナは何か考え込んでいた様だが、とりあえず早く用事は済ませておこう。もうすぐ日が暮れるからな。
程なくして、冒険者ギルドと見られる建物が見えてきた。商店街からは割と近くにあった。
「あそこが冒険者ギルドの様ですね!」
「みたいだな」
その建物では冒険者らしい格好の人達がたくさん出入りしてる。港街だからなのか、建物全体が船の形を模していて、扉には船の舵の形の取っ手が付いていた。
扉を開けると、中は冒険者達でごった返していた。
よくある話ならここで、見慣れないスーツ服の男と認識阻害純白フードを被った少女が入って来た事に色々な感情が込もった視線が集まって、自意識だけは高い厳つい冒険者に絡まれるのだろう。
だが、ここでも気配操作を使い、なるべく目立たない様にする。まぁ、順番待ちの間だけだが。
「次の方どうぞ〜」
俺たちの順番が回って来た。アテナが前に出て、俺はその後ろに付いていく。
「あの、冒険者登録がしたいのですが」
「きゃっ!? あっ、はい!冒険者登録ですね?」
受付のお姉さんはアテナが急に現れたと思っただろう。びっくりしてる。
「では、冒険者登録名を教えて下さい」
「アル」
「はい、アルさんですね。少々お待ち下さいね、今認識票をお作りしますので」
「シンさんは冒険者登録しないのですか?」
「シンさん? きゃっ!?」
俺が気配操作を解いたら受付のお姉さんはまたびっくりした。こんな近くにいても気付かないもんか。気配操作凄いな。
「俺は、いいかな。お前の保護者みたいなものだし」
「保護者って…… まぁ、わかりました……」
俺が冒険者登録しない理由は、単に目立ちたくないからだ。もし冒険者として名を上げてしまったら悪目立ちして足跡を辿られたりしかねない。そうゆうのはなるべく避けたいのだ、殺し屋としては。
アテナと一緒に行動する時点であまり意味は無い気はするがやはりそういうのは躊躇ってしまう。
「では、冒険者登録はアルさんだけですね。お待ち下さい」
程なくして認識票が発行された。受付のお姉さんがそれを手渡しながら冒険者の説明をする。
「こちらがGランク冒険者認識票になります。ランクはGからF、E、D、C、B、A、Sとあります。G、Fがグリーン、E、Dがブルー、Cがブロンズ、Bがシルバー、Aがゴールド、Sがプラチナです。それから……」
ランクは依頼をこなしたりなんらかの実績を残すと上がっていく、冒険者としてはSが最上位だが、その上にSII、SIIIがあると言う。
それらは特例が重なってなれる、因みに勇者はSIIIと言う事だった。
勇者とかいるのか。
その他にも色々注意事項を伝えられた。
「わかりました。ありがとうございました」
説明を聞き終わりその場を離れようとした時だった。
「ちょっと待てや!順番抜かすとはいい度胸だなぁ!おい!」
絡まれた。だが俺は一々相手にしない。気配操作を全開にした。
「あ!? どこ行った!?」
絡んで来た男は俺たちを見失った様だ。
「アテナ、行くぞー」
「え? あっ、はい」
そうして俺たちは冒険者ギルドを出た。
あっさり登録が済んでよかったよかった。
「じゃあ宿を取って晩飯食って今日は休もう。その金は残ってるよな?」
「はい!」
ずっと移動し続けてアテナも疲れただろうしさっさと休みたいんだよね。
明日は船探しだ。




