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五話 街道で


 めっちゃ走った、アテナを背におぶって。

 流石に走り難いからもうお姫様抱っこはやめている。

 それにしても、人を背負いながらこんなに走れるとは思ってなかった。

 召還されて、可能になった事なのだろう。



「これからどうすんだ?」

「…………」



 俺たちはアルカナ王国から南へ逃げてきた。

 あれからアテナがだいぶ塞ぎ込んで、話し掛けてもしばらく口を聞いてくれなかったから取り敢えず南下していたのだ。

 山を越え、谷を越え、森を抜け……。 三日程経った今、街道へ出ていた。

 明朝で薄暗いが、左右に長く続いている街道なのだとわかる。

 とても長い道が横一線に伸びている。



「おい、俺はこの世界の事は何も知らないんだぞ? そろそろまともな飯が食いたいんだよ。 近くに街とか村とかないのか? それくらい分からんのか王女様? 黙ってたって腹は満たされないんだぞおい。」



 俺はこの三日間、食べれそうな木の実だけで凌いでいた。

 動物なんて狩った事がないし狩れたとしても解体の仕方なんか知らん。 俺は殺し屋だが猟師ではない。

 とにかく王国から離れて、落ち着ける安全な街まで早く行きたかったのだ。

 その間、アテナは一切何も口にしなかった。

 あれだけの事があったんだ、精神的にかなり疲弊してるだろう。満身創痍って感じだ。

 しかし今はそんなの気にしてる余裕はないのだが……。



「なぁ……お前もなんか食った方がいいぞ? 死んじまうぞ? 強く生きろって言われただろ? あの時は、"はいっ! 父上!" って返事してたよなぁ?」


「っ……」


「こんな所でのたれ死んだらあの国の人達はガッカリするだろうな〜。 命懸けて逃した姫様が絶望感に負けてあっさりと……なんてなぁ? お話にもならん」


「……あっち、です……」



 やっと口を開いたか、煽った甲斐もあったってか。



 アテナは左右に延びる街道の右側を指差した。



「あっちに街があるのか?」

「……港街があります、船で、海を渡ります」

「……? マジで?」



 海を渡ると言い出すとは思わなかった。なにこの子? 実は結構色々考えてたの? 行動力ありますねぇ!



「了解した。 ひとまず行動の指針がとれて良かったよ。 さっきは煽るような真似して悪かったな」

「いえ、こちらこそすみません。 あの……」

「ん? どうした?」

「私と、一緒に来てくれますか……?」



 ん? あぁ、国から逃すとは言ったけどその後どうするかとかは話してなかったもんな。



「あぁ、そのつもりだ。 頼まれたしな」

「え?」


 今あの時の事を話してもいいか。



 港街がある方へ歩きながら、王城から脱出した時の事を話し始めた。



「頼まれたんだよ」

「誰かに何か頼まれたのですか?」

「あぁ、お前の父上とかセルジオ達にな。お前の事頼むって」

「っ?? どういう……」



 まぁ、戸惑うよな。



「儀式の間から出る時、セルジオの声がしたんだよ。 俺も死んだはずだと思ってたんだが、その魂が浮いててな、俺に話し掛けてきたんだよ。 右の男……クレーベルだっけ? そいつもな。」


「……ほんとう、なのですか?」


「あぁ。 そんで謁見の間でお前の父上と、あの国の兵士達の魂にもな。 謁見の間を出た後も、王都の戦死者の魂達はみんな言ってきたぞ? "姫様を頼む"ってな。 みんなに愛されているんだな」


「……うっ……ぐすっ……ひっく…………。 うわぁぁん! びんなぁぁ! ごべんなざぃぃ!」



 泣き出してしまった。

 今まで我慢してたのが決壊してしまったんだろう。

 ここは、いい感じの言葉で慰めておこう。



「ごめんなさいじゃないだろ? ありがとうだ。 みんなお前を想ってくれてる、あいつらの気持ちを無駄にするなよ?」

「ぐすっ……ばいっ! わ゛たしっ、づよぐいきまふっ!」

「ブフッ! あぁ、頑張れよ」



 よし、決まった。



「……グスっ……なんで笑うんですか?」

「笑ってないよ?」

「笑ったじゃないですかぁ!」

「ハハハ! 笑ってないって」

「すごい笑ってますよぉ!」



 笑ってないけど?

 まぁ少しは元気になったみたいで良かった。 あのしんみりした空気は耐え難いからな。



「あ、因みにその魂達は敵兵含め全部俺の下にある。 後で姫さまとも話せるか試してみようと思うんだが」

「ほんとうですか!? ……みんなと、話してみたいです……」

「あぁ」

「……じゃあ早く街に着かないとですね! お腹も凄い減っちゃいました!」



 食欲も戻ったみたいだな、なによりだ。

 それより気になることが一つある。



「なぁ」

「なんですか?」

「金はあるのか?」

「!? ……私が持ってると思いますか?」

「……思わない」

「……残念っ! 持ってるんです! 念の為に金貨一枚は常に持っておくようにと父上に言われていたのでっ!」



 ………は? 元気になった途端急にウザくなったな。 元々こうゆうキャラなのか?



「……そうか、ならいい。 ちょっと話し掛けないでくれ……」

「なんでですかぁ! 死神様のお話し聞かせてくださいよぉ!」

「……死神様はやめろ」

「そうですか? じゃあ……えっと……」



 俺の名前覚えてないな?



「阿佐ヶ谷 真ノ佑だ」

「っ!! アサガヤが性でシンノスケが名前のアサガヤ・シンノスケ様でしたね!」



 イラっ。 こいつ……。



「馬鹿にしてんのか?」

「ちっ! 違いますよっ! 珍しい名前なので……。 じゃあシン様とお呼びしますね!」

「……様もやめろ」

「じゃあシンさんで! 私の事はアテナって呼んでください! あ、女神様でもいいですよ!」



  くそっ。そこは覚えてんのかよ。



「はぁ…… アテナで……」

「なんでため息つくんですかぁ!」



 そんなやり取りをしながら俺たちは港街を目指した。

 空腹が割と限界に近いが、後少しの辛抱だ。



 朝日が昇り始めていた。



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