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四話 スピリットエスケープ



「助かったのですね……また、私だけ……」



 アテナは倒れ伏したセルジオの死体の側に寄って手を握った。



「私のせいで、ごめんなさい……」



 王族である自分だけが助かって自分を守る兵が沢山死んで行く、上の立場の人間はそういうもんだ。 今は嘆いてる暇はない。



「おい、早く行かないと脱出出来なくなるぞ」

「はい、今行きます」



 アテナは立ち上がってこちらに向かってきた。



『シンノスケ殿。 姫様を、頼みます。』

『どうか無事に……』

「!?」



 聞き覚えのある声が頭の中に響いた。

 これは、セルジオと右の男の声? あいつら死んだはずじゃ……。

 あ? なんだあれ?



 セルジオと右の男の死体がある方へ向くと、青い火の玉のようなものが浮かんでいた。

 これは……魂だ。 今は直感でそう感じる事が出来る。

 セルジオと右の男の魂が話しかけてきたのだ。

 きっと俺の魂スキルのせいで、これが魂だと理解させられているんだろう。


 待てよ? そういえば魂収集ってスキルがあったな。

 こいつらの魂を持って行く事が出来るのか?



 魂を集めるようなイメージをしてみると、セルジオ達と敵兵の魂が全て集まって来た。

 そして俺の中に入って来る。

 吸収した訳ではない。

 何というか、身体の中に四次元のポケットみたいなのがあって、そこに収納されている様な感覚だ。

 いつでも取出せるという事も理解できる。



 とにかく今は時間がない、この事をアテナに話すのは無事に脱出出来てからにしよう。


 俺はアテナの手を取って走り出した。


 そして儀式の間を後にした。






 儀式の間を出ると長い階段が上に続いていた。

 それを駆け上がると、こちら側に開きっぱなしにされたドアが見えた。 おそらくさっきの兵士達が外側から蹴破って入って来たからだろう。


 そのドアを抜けると広い広間に出た。

 太い柱が二列並んでおり、中央には赤い絨毯が敷き詰められている。

 俺の目の前には玉座の様なものがある。

 俺たちは玉座の後ろ側から出て来たという形だ。

 この広間は、おそらく王の謁見の間なのだろう。



 玉座のある場所は数段高くなっており、段を下りた所には倒れている王と見られる男がいた。

 そしてこの広間全体に渡って、沢山の敵味方の兵士達の死体が広がっていた。



「父上!」

「おぉ……アテナ……無事であったか……。 儀式の間へ向かう兵士たちを止める事が出来なかったから、もう、ダメかと思っておった……。 成功……したのだな……」

「はいっ! ……ぐすっ……セルジオと、クレーベルは、殺されてしまいましたが……私は、生きておりますっ……」



 アテナは必死に涙を堪えている。

 この王ももうすぐ死んでしまうと分かっているのだろう。

 最後に泣き顔など見せられないと言わんばかりに必死で堪えている。



「そうか……お前が生きてて……よかった…… これを……持っていけ。 アルカナ……王家に伝わる……宝剣だ……。 きっと……お前を……助けてくれる……。 すまないな……。 強く……生きろ……」

「ぐすっ……はい……父上っ!」



 間も無く王は息を引き取った。

 そして浮かび上がったその魂が語りかけてきた。 

 この国の兵達と思われる魂も。



『娘を、頼む……』


『姫様を……』

『どうか……』

『申し訳ない……』

『お願いします……』


「……あぁ」



 そしてアルカナ王の魂含め、他の兵士達の魂も全部収集した。

 もちろん敵兵の魂もだ。


 王が死んだという事は、この国は終わりなのだろう。

 今はこの広間に生きている敵兵はいないが、時期にに援軍が来て占拠されるはずだ。

 グズグズしてる暇は無い。 早くここを脱出しなければ俺たちも危ない。



「行くぞ」

「ぐすっ…… はいっ」



 アテナは自分の父親や国の兵士達が死んでだいぶ辛いだろう。

 今すぐ泣き崩れてしまいそうな様子だが、今自分がするべき事は分かっているいるんだろう。

 脚は震えているが、きちんと立って、ここを脱出しなければならないという意志は持っている様だ。



「よし、じゃあいくぞ」

「きゃっ!」



 俺はアテナをお姫様抱っこをする様に持ち上げた。

 意志はあってもその震える脚じゃあまともに走れないだろう。

 アテナもその事を理解しているようで、急にお姫様抱っこされた時は驚いていたが、直ぐに俺の首に腕を回した。



「ごめんなさい…… ありがとうございます……」

「気にするな」



 王城から出れば、この王都が既に敵兵によって蹂躙し尽くされていた。


 敵兵が民家に火を付けたり好き放題してる様子を横目に走る。


 アテナはその様子を見て、俺の胸に顔を埋めて泣いている。

 自分の国が好き放題されてるのに何も出来ないで自分は逃げるだけっていうのはかなり辛いだろう。


 俺は戦死者の魂を集めながら、気配操作を使い、一切バレる事なく、この王都の外へ。


 街道とは外れた平原を走り、王都を見下ろせるような丘の上まで来た。


 そこから振り返って見た王都からは、凄まじい火の手が上がり、空までも真っ赤に染まっていた。


 アテナはその光景を涙ながらに目に焼き付けていた……。


………


……





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