現世にて① 後輩たち
「しんちゃんが消えた?何言ってんの?」
真乃佑たちのアジトの机で爪の手入れをしている17歳ほどの女の子、星野瀬奈が怪訝な顔をしながら訳の分からない事を言ってくる兄に対してキレている。
「お前シン兄の発信機の会話聞いてなかったの?シン兄が潰した組織の残党に何故か捕まって拷問受けてたんだよ!で、なんかやばそうと思って場所向かったら銃口向けられててさ、あ、これシン兄死んだわと思ったら急に消えたんだよ!」
瀬奈の兄、20歳ほどの青年、星野洸が瀬奈の態度にイラつきながら捲し立てる。
「しんちゃんが捕まる訳ないし言ってる事がマジで意味わかんない。」
瀬奈はその仕込みマイク、スピーカーなど色々な機能が搭載された、この兄自家製の発信機を海に落として無くしてしまっていたため、真乃佑の失態の場面の会話を聴いていなかった。しかし兄に発信機を無くしたと言えば怒られるので一旦発信機についてはスルーした。
ともかく兄の言ってる事が理解できないので呆れている。
「マジで消えたんだよ!一瞬で!とりあえず現場来てくれよ!」
「はぁ…めんどくさ。…よっこらせ」
何を言っても妹は信じてくれないので洸は妹と事件現場に行く事を提案する。瀬奈も面倒くさがりつつも、おじさんみたいな口調で重い腰を上げて現場に向かう事にした。
………
……
…
「なにこれ?」
到着した現場には200人程の人がいた。ただ、全員床で眠りこけていて、手足が縛られて転がされている。
「お兄がやったの?」
「あぁ。シン兄が急に消えたからさ、どうすればいいか分かんなくてとりあえずこいつら眠らせて縛っといた」
「…ふーん」
200人を同時に眠らせて手足も縛ってから妹に報告に行ったのならなかなかの手腕だが、なんとも頼もしく無い兄の返事に若干顔が引き攣る。
「で、しんちゃんは?」
とりあえず件の人物について軽く聞いてみる。急に消えたのなんだの言われても冗談にしか聞こえないので、そもそも真剣に聞く気もなかった。
「ここで椅子に座らされて手足縛られて目隠しされてた」
兄が真乃佑のいたという場所に移動して、目撃した事を簡潔に説明してきた。それにしても簡潔すぎるが。
「うん、それで?」
「こいつが発砲した瞬間シン兄が消えた」
兄は一番近くで転がされていた人物を足蹴にしながらまた訳の分からない事を言う。
「うん、全然わかんない。消えたって何?逃げたって事?」
「一瞬で消えたんだって!」
同じ事ばかり繰り返す兄に対してのイライラが募り、口調に棘が出る。
「お兄、遂に幻覚見えるようになったんだね!働きすぎじゃない?」
「違うって!マジで消えたの!」
「そもそもお兄は!…………!」
「お前だって!…………!」
兄妹の口論はヒートアップする。今回の件と全然関係ない罵声も飛ばし合いながら2人はこの廃倉庫を後にした。そこには寝転がされている200人の残党たちだけが取り残されていた。
………
……
…
「とりあえずしんちゃんが音信不通で消息不明なのは理解した」
あれからアジトに戻った俺達はシン兄に連絡がつくかを確認した。結果は予想はしてたがやはり連絡が付かなかった。
それからシン兄が消えるまでの行動を整理した。瀬奈は街中の防犯カメラの映像を抜き取る事が出来るので、シン兄が映ってる映像を割り出す。
ごく普通のサラリーマン風のシン兄がターゲットを尾行してキャバクラに入っていくのが確認できた。
この時点でまず瀬奈の機嫌が悪くなる。
3時間が経過した頃、事件現場にいた男5人がキャバクラに入っていくのを確認できた。
それから20分程経った頃、男たちがシン兄に肩を貸し、まるで介抱しているかのような形で店から出てきた。
それにしても3時間は居過ぎじゃないだろうか?瀬奈は鬼の形相である。
それからバンに乗せられ、30分程移動したところでシン兄失踪事件の現場の倉庫に到着した。
倉庫内の映像はなかったが、その後のことは大体想像がつく。眠らされたまま手足を縛られ、拷問され、俺が駆け付けた時には引き金を引かれた。
そして消えた。
一連の流れを瀬奈と共有して、最初に出た瀬奈の言葉があれである。
妹的には失踪した事よりキャバクラの中から3時経っても出てこない事で怒りを露わにし、般若の形相である。消えた事自体はそんなに心配してないようだった。
「しんちゃんがガチで消えたならさ、ぶっちゃけ私たちじゃ見つけられなくない?」
「そうなんだよな」
俺たちはシン兄以外なら誰でも見つけられる自信がある。自ら姿をくらました者や犯罪者、誘拐された者、行方不明者なども生死問わずに世界中のどこにいてもだ。
だがシン兄が本気で隠れようとしてるなら俺たちじゃ見つけるのはかなり困難だ。あの人はこの監視社会の現代においても本当に見つけられないのだ。
この前もシン兄が「かくれんぼしようぜ〜」とか言って、この街に隠れたシン兄をあらゆる手段を使って
探すという訓練をした。
結果は言わずもがな。他の者なら世界中どこにいても見つけ出せるのに、この街に隠れたシン兄は見つけられなかった。あの人はこうゆう事に関しては次元が違うのだ。
「でもこれに関しては逃げたり隠れたって感じじゃないって」
俺はシン兄が消える瞬間をはっきりみていた。いくらシン兄でも手足を椅子に縛られた状態であんな瞬間移動みたいな事出来るはずがない。あの光景は、異常だった。
「はぁ…。じゃあ異世界召喚でもされたんじゃない?」
瀬奈が呆れて、冗談混じりにそんな事を言ってくる。
「いやマジでそれだわ」
冗談だとは分かっているがあの状況的にそれが一番あり得ると思う。俺にはそれほどの異常事態に見えたが、俺の返答に瀬奈は余計に苛ついてる様子だ。
「とりあえずしんちゃんの捜索は続ける。これも何かの訓練かも知れないしね。お兄も変な事ばっかり言ってないで手伝ってよね」
「……あぁ」
ともかく瀬奈の言う通りだ。異世界召喚なんて現実的じゃないし何処かに隠れたというていで捜索を続けるしかない。
それにしても、ほんとどこに行ったんだよシン兄……。




