ハニートラップ説1
前半アテナ視点です。
「俺、もう要らねんじゃね?」
「……え?」
私は最初、シンさんが何を言ったのか分からなかった。
要らない? え? 私とはもう居られないと言う事ですか……?
いいえ、そんな理由ではない事ぐらい分かってます。 分かってる、つもりです。
正直シンさんが何を考えてるのか分からない事が多いです。
自分は死神だと言われた時は驚きました。
軍隊なんて相手に出来ないと言いながら30人の敵の小隊を一瞬で倒して……いえ、殺してしまったのですから。
シンさんは私の事を命の恩人だからと言っていましたが、私にだってシンさんは命の恩人です。
あの一件で恩は返し合ったと言ってもいい筈なのにその後も何かと助けてくれました。
国から逃げる時はずっと背負ってくれました。
落ち込んでる時には元気付けてくれました。言い方はちょっと酷かったですけど。
宿でも怖がっていた私と一緒に寝てくれました。 しょ、正直……何かあってもシンさんとなら、なんて……いっ!いえいえ!何を考えているんですか私は!もうっ!
シンさんのおかげでアルカナの皆んなとお話しも出来ました。
大きな蛇と戦う事だって、シンさんが怒ってくれなかったら何も出来ませんでした。
私はシンさんに助けて貰ってばっかりです。
本当に優しい人です。
でも、私がこんなだから、一緒に居る事に疲れてしまったのでしょうか……
そんな理由では無いとは分かっているつもりなのですが、もやもやが頭から離れません……。
もし今シンさんと別れたら、一生、一人?
死ぬまで?
いっ、嫌です!無理です!
それに、私はまだシンさんに何もお返しが出来て無いんですよ?
シンさんと一緒に居たいですっ!
離ればなれなんてダメですっ!
「私はシンさんと死ぬまで一生一緒に居ないとダメですっ!!!」
「……え?なんて?」
だから!
「私はシンさんと死ぬまで一生一緒に居ないとダメなんですっ!!!」
「え?」
「えっ?」
……え? なんですか? あれ? 私今なんて言ったんで……
……あっ
なななな、なんて事を言ってしまったんですか!?
ああああつっ! 顔が熱いです! うわあぁぁどどどどうしようっ!
「こっ、これは違くて! いやっ!違うって言うか違くなくってっ あのあのええっと!」
あ……あぁ、もう頭が真っ白で何も分からないです……。
………
……
…
「なっなにごと!?」
___
俺がアテナに、今後俺は必要なのかと言う意図で聞くと、アテナは表情をコロコロ変えながら何事か考えている様だった。
始めは難しい顔、次は不敵な笑いをし、顔を真っ赤にさせたと思ったら急にハッとして首をブンブンさせた挙句……。
なんと逆プロポーズされてしまった!
……いや、そうじゃ無い事ぐらいわかるけど?
ちょっと胸が熱くなってしまったのは秘密だ。
なんかパニックになってたみたいだし色々間違ったんだろう。
そんでアテナは顔を爆発させて気絶してしまった。
急に倒れたので、なにごと!? なんて叫んでしまったが、地面に頭をぶつける前に身体を支えた。
今はアテナを背負ってオッツカまで帰って来たところだ。
街には蛇頭が運び込まれてお祭り騒ぎになっている。 っていうかもうお祭りだ。
街の中央広場のど真ん中に蛇頭が置かれて、街灯にはフラッグガーランドが張り巡らされている。
屋台の準備をしてる人も沢山居た。
これから胴体の方も運ばれて来るだろうからもっと凄い事になりそうだな。
本格的なお祭りが始まるのだろう。
俺はその街の様子を横目に見ながらアテナを背負って宿まで戻った。
自分たちの部屋に入り、二人用のベッドにアテナを寝かせた。
俺はベッドの側面に背をもたれ掛ける様にして床に座った。
アテナの横で寝る様な気分にはなれなかったからな。
なんだか少し、センチメンタルだ…… こんな時は……
「あぁ、タバコすいてぇ……」
もやもやしてる時は一服して落ち着くのがベストなんだがな。
この世界にはタバコはあるのだろうか?
「……タバコ?ってなんですか?」
お?アテナが目を覚ました様だ。 寝ぼけた様子でタバコの事を聞いて来た。
「タバコってのは、大人の嗜みみたいなもんだ。 子供は吸ったら死ぬぞ?」
「しっ!? 毒じゃ無いですか!」
「ハハッ! まぁ、似た様なもんだな」
「ダメですっ! シンさんは死んだらダメです……」
アテナはそう言うと、ベッドの側面に寄りかかってる俺にベッドの上から抱きついて来た。
こ、後頭部に胸が当たっておられます。
「い、いや、死なんて。 俺は子供じゃないです」
「でもっ! あ、あの……。 さっき言ったこと、なんですけど……」
「ん? あぁ、逆プロポーズな」
「っ!? まままぁそれです……」
アテナの身体から急に熱が伝わって来た。熱い。
俺に触れている胸から速い鼓動が伝わる。
おそらく、顔が真っ赤だろう。
一応覚えてはいたんだな。
「あ、あれは変な感じに言っちゃいましたけど! 私はまだシンさんと一緒に居たいです……。 一人でなんて、私には無理です……。 私はシンさんに助けて貰ってばっかりですけど、これからは私もシンさんを助けられる様に頑張ります。 だから、どうか私を、一人にはしないで下さい……」
そういう事ね、少し俺の配慮が足りなかったみたいだな。
国を無くしてどうしようもない状態で一人ぼっちは辛いよな。
なのに俺がアテナから離れる様な事を言ったから不安になったんだろう。
ここは謝っておかないとな。
「すまなかったな。 じゃあお前も、俺が死ぬまで一生一緒に居てくれよ?」
「っ!!? はいっ!!」
アテナは更に思いっきり抱き着いて来た。
あれ? アテナが言った事をそのまま返してからかったつもりなのにこの反応はおかしいぞ?
そこは、『もうっ! あれは忘れて下さい!』とかだろ?
はいっ!ってお前…… 肯定しちゃあかんでしょ?
あれ? 俺言い方間違った?
いやいや! それにしても…… え?
「あ、アテナさん……?」
「なんですか?」
俺は抱き着かれている腕を外し、アテナと向かい合った。
「いや、なんていうか……その……今のやり取りの意味分かってます?」
「はい! 私とシンさんがカップルなりました! 末永く、よろしくお願いしますね!」
そしてアテナが俺の頬にキスをした。
い、いやいや! アテナさん!? 君チョロインなの!?
てか、俺でいいんか!? 君王女でしょ!? 国取り戻したいとか言ってませんでしたっけ!?
「ち、父上に自由に生きてみろと言われたので……。 やっぱり私じゃダメですか……?」
あれ? 心の声が少し漏れてしまっていたようだ……。
「いやダメって言うか……」
「……向こうの世界に恋人とか居たんですか?」
「いや恋人は居ませんでしたけど……」
「……私じゃダメですか?」
いやグイグイ来るなぁ!
「ダメじゃないけど……むぅっ!?」
アテナの唇と俺の唇が触れ合った。急にキスされたのだ。
「私と……カップルになって下さい……」
「は、はい……」
アテナはベッド上で四つん這いになり、潤んだ瞳で顔を赤くさせながら告白して来た。
正直、魅力的過ぎる……。
そんなん断れる訳ないやないかい!
そしてアテナは再び唇を重ねて来た。
俺もそれに応える。
俺たちは暫くそうしていた。
頭も身体も熱くなる。
もう限界に近い……。
しかし俺は、これ以上進むのを躊躇った。
重なり合っていた唇を離す。
「……んっ、シンさん?」
「き、今日はもうやめておこう。 付き合って直ぐってのも不粋だからな……。 お前は俺の相手にするには可愛すぎるから…… た、大切にしたい……」
「シンさん……! 好きですっ!」
くそっ! どうしてこうなった!? 俺も人の事言え無いぐらいにはチョロいのか!
そしてその日はアテナに抱き着かれながら、眠れぬ夜を過ごした。
アテナはぐっすり眠っていたが……。




