実質最上位認定、
俺たちはオッツカのギルドマスターの部屋に来ていた。
ギルドで緊急クエストを出して、受注した冒険者達が現場に行けば既に巨大邪神蛇は倒されていた、その当事者の俺とアテナに事情を聴かせてくれとの事だった。
ギルマスのエレバノフが厳つい顔を更に厳つくして、訝しんだ様子で問うて来る。
「何をどうしたらあのクソデカ蛇の頭が飛ばされるんだ?」
「剣で斬り飛ばしたんです!」
アテナはなんだか楽しそうにしている。
「出来るわけないでしょう!」
「でも…… 本当の事なんですけど……」
エレバノフは少し敬語が残ってるが、アテナを王女としてではなく一応冒険者として接している。先程のリーダー冒険者もこの部屋に居るので気を遣ってくれているのかも知れない。
しかしこんな感じのやり取りがずっと続いているから話しが進まない。
「これ以上の問答は控えて貰っていいか? 冒険者ってのは相手の事は深く探らないものなんだろ?」
「そ、そうだな…… だがな……」
俺はキリがないと思い話しの方向性を変えた。
エレバノフは消化し切れんといった様子で頭を抱えている。
「……リシュテームが侵攻して来るかも知れないって時に巨大邪神蛇が現れたと聞いて、この街は正直終わったと思ったよ。 憂いを一つ取っ払ってくれてありがとう…… とでも言っておけばいいか?」
「ああ」
「……納得は出来んな」
「しなくてもいい」
「……はぁ。 分かったよ、この事はもう聞かないでおく」
食い下がってくれたか。
俺たちの事は話せる事がほとんど無いから"斬り飛ばした"と言うのが精一杯だったのだ。
俺とアテナそれぞれが約一万人の魂を使ってステータス爆上げしましたとか、言われて信じる人なんてまず居ないだろう。言う気も起きないし。
「本当にお前達が二人でアレをやったなら冒険者ランクを上げなければならない…… あの蛇は勇者ですらパーティーを組んで相手する様な化け物だぞ……」
「俺は冒険者じゃないからその必要はない」
「私は一応冒険者なのでそこら辺はお任せします……」
俺は冒険者じゃないがアテナはそういうのはやらなければいけないのだろう。
「……わかった。 アテ……ゴホン! アルはランクアップさせるぞ。 明日、プラチナの認識票を作って渡す。 リダリックもそれで良いな?」
「はい、妥当だと思います」
厳ついエレバノフに、これまた厳ついリダリックというリーダー格の冒険者が敬語で答えた。
同じ厳つさに見えてもやはりギルマスの方が格上と言う事なのだろう。
因みにリダリックはランクAらしい。山から一緒に帰って来るときに言っていた。
「プラチナ…… ってランクSですか!?」
アテナはいきなり冒険者の実質最上位ランク認定されて驚いている。
「そうで……ゴホッゴホッ! そうだ。 それだけの相手だったって事だ。 今だに信じられん話だが……。 これからはランクSという自覚を持って行動して欲しい」
「わ、わかりました……」
エレバノフはさっきから無意識に敬語が出そうになっているらしいな、毎回下手な咳で誤魔化している。
「じゃあこの話はここまでだ。 緊急クエストを受けてくれたリダリック達にはクソデカ蛇の死体を運ぶクエストに変更して依頼する。 頼めるか?」
「わかりました。 運搬だけで高額報酬が期待出来ますから断る奴は居ないでしょう。 ギルマス、頼みますよ?」
「あぁ、期待しておけ」
そうしてリダリックは部屋を出て行った。
「高額報酬? なら俺たちもそのクエスト受けたいんだが?」
運ぶだけで高額報酬なんて願ったり叶ったりだ。
俺の中の高額報酬運搬任務といえばあまり人には言えない様な物を扱うから何かしらのリスクがあるが、そういう訳ありの運び屋と違ってリスクがゼロってとこがまた良い。
俺も是非やりたいんだが。
「お前達は駄目だ。 蛇の解体が終わり次第討伐報酬をやるからそれで我慢してくれ」
「だが、きのこ採取の報酬だけでは心許ない。 飯代と宿代払ってくれるのか?」
きのこ採取の報酬はまだ受け取ってないが、所持金ほぼゼロの俺たちは、解体が終わるまでには無一文になるだろう。
他のクエストを受けてもいいんだが、もっと気持ちにゆとりを持っておきたかったのだ。
「はぁ…… 前金で100万ゴルド出す。 討伐報酬から引かせてもらうからな」
この世界では1ゴルド約1円に相当する。つまり100万円だ。
100万ゴルドは金貨で言うと10枚分と言う事だった。金貨一枚10万だ。
「まぁ悪くないか。 それで頼む」
「あぁ、了解した。 少し待っててくれ。 」
エレバノフは俺たちにここで待つように言うと席を立った。
少しするとエレバノフが直接今回の報酬を持ってきた。
「下の受付で待たせると他の奴らが煩そうだからな、ここで支払わせてもらうが、いいだろ?」
「大丈夫です!」
「俺も構わない」
「よし、じゃあ前金の100万ゴルドときのこ採取の2万ゴルドで102万ゴルドだ。 受け取れ」
「ありがとうございます!」
きのこ採取では中々の量が採れたから2万ゴルドと言う事だった。
日本での力仕事のアルバイトの日給より少し高いぐらいか?
まぁ、きのこ採取だけで2万はかなり優良だが、あの山には元々野生の熊やモンスターなんかも出るらしいから危険手当も少しは入っているんだろう。
……そう考えると2万はどうなんだろうな……。
「よし、じゃあ宿を探しに行くか」
「はい!」
「今回は助かった、ありがとう。 アテナ王女が強くなったのはお前のせいなのか?」
エレバノフが礼を言いつつもさり気なく聞いてきた。リダリックが退席したからアテナの事をアルではなくアテナ王女と呼んだ。
「せいじゃないです! おかげです!」
あ。ダウト。
「アテナさん……?」
「? ……あっ!」
アテナは焦った様子で口を手で塞いだ。
エレバノフの質問に対して俺を庇いたかったようだが、思いっきりボロを零してしまった。
これは質問責めされるか?
「そうか……。 まぁ深い事情があるんだろうなって事にしておくよ。 本当に助かりました、ありがとうございます」
エレバノフがアテナに向かって再びお礼をした。
特につっ込んだりして来なくて良かった。
「いえ、シンさんに言われなかったら私も逃げてしまったでしょう。 私、生まれてから一度も戦った事なんてなかったんです。 あの大きな蛇が目の前に現れた時は、もう終わったなぁなんて考えていたんですから。 ですが、シンさんとみんなのおかげで戦う事が出来ました」
ふふっとアテナが微笑んだ。
最早隠す気があるのかないのか分からないな。 またボロを零してる。
まぁアテナが話したいなら別に構わないからもう何も言わないでおこう。
「みんな?」
「あっ! いや、ええと……」
案の定アテナは狼狽した。
「いや、言わなくていいさ」
「……すまないな」
エレバノフが気を使ってくれているので俺は頭を下げた。
「なに、助けられたのはこっちだ。 これ以上無粋な事は聞くまい」
そして漸く俺たちはギルドを後にした。
「まだ昼過ぎだが、宿を取った後はどうする?」
「そうですね、まずはお昼を食べて…… 蛇を運ぶところが見たいです!」
「いいなそれ、俺も見てみたい」
「はい!」
この後の予定は蛇を運ぶ様子を見る事に決まった。
「楽しみです!」
___
俺たちは蛇の頭がある所まで来た。
20人程の男たちがクレーターの下で作業をしている。
クレーターの上ではこちらも20人程の男たちが蛇の頭を乗せる台車を作っていた。
近くには大きな魔獣が数匹いた。モンスターテイマーという冒険者が連れている様だった。この魔獣に台車を引かせるらしい。
クレーターの下の蛇頭をなんとか上まで運び、出来た台車に乗せ、漸く運び出した。
俺たちはそんな様子をただひたすら観ていた。
今はもう夕方で、オレンジが空を染めている。
蛇頭を乗せた台車の後方を付いて歩きながらオッツカへと帰っていた。
「なんだかデート見たいでしたねっ」
さながら動物園といった感覚なのだろうか。
俺にはデートとは思えなかったがアテナが楽しかったと言うならなんでも良いと思った。
「……そうだな」
しかし俺は一つある懸念を抱いていた。
「なぁアテナ」
「なんですか?」
それは……
「俺、もう要らねんじゃね?」
アテナが強くなり過ぎたので俺が守る必要があるのかという懸念だった。




