表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOLITUDE WAR  作者: トロワ
3/4

FILE3 スニーキングミッション

「こちら山蛇、配置に着いた。」


まだ薄暗い中、林に身を潜める影があった。

影は田中、高西の二つ。

各員にはコードネームが与えられた。

田中は山蛇、高西は山鷹というコードネームを授かり、二人一組のバディ行動となっていた。


第2中隊だけでは人数的に難がある。

通信系を確保するために半数以上裂かれ、残りが実質の救出部隊となった。

ほとんどが陸曹だが、少数で陸士も混じっていた。

その中の一人が田中士長だった。


0500時、部隊は配置に着き通信の確保も完了した。

救出部隊は89式小銃を保持し、顔にはドーランで迷彩柄にフェイスペイントをしている。

背中や鉄帽には草を携え擬装をし、森林の中で隠れていれば容易には見つけられないだろう。


「田中、まさか俺達が選ばれるとはな。遺書は書いたか?」


高西が田中の横で伏せながら聞く。


「まぁ一応な。って言ってもいきなり書かされても何書けばいいのかわからんかったがな。」


双眼鏡で山を監視しながら田中は高西にそう伝えた。


「そうだな。とにかく俺達はこれから集落に向かうんだが、何か変わった所はあるか?」


田中は高西に双眼鏡を渡した。


「まぁ実際に自分で見てみろ。敵さんがいるぜ。」


双眼鏡の先には、集落で監視しながらうろうろしてるテロリストが何人もいた。


皆、手にはAK47やMP5等の銃器を持ち、迷彩服を着ている。


「本部こちら山蛇。敵の武装はAK47、MP5、Vz61、ドラグノフスナイパーライフル、果てはG36Cだ。」


田中が無線機を使って本部に連絡する。


「了解。山蛇、集落には何人いる?」


本部から通信が入った。


「集落内にはちらほらと敵が散見されるが、今見えるのは8人だ。」


田中が伝えると本部から新たな指示が下った。


「山蛇、山鷹と共に集落へ近付き偵察を実施しろ。」


「こちら山蛇、了解した。」


田中は無線を終えると高西に話し掛けた。


「今から俺とお前で偵察に向かう。とりあえずあの吊り橋を渡って、森林地帯を抜けよう。」


集落に入るには吊り橋を渡るか、裏の大通りからの二つしかない。


大通りは敵の大軍がバリケードを作り、警備をしているので大々的な戦闘で敵を殲滅しなければ入れそうにない。

しかし、少数の部隊ではリスクが高過ぎる。

だからね敢えて吊り橋から偵察をし、異常がなければそこから進む予定だった。


田中と高西は89式小銃を構えながら慎重に吊橋へと進む。

朝露に濡れた草木や路面が湿った朝独特の気候を醸し出している。



89式小銃に付けられたダットサイト越しに吊橋を見る。特に異常はない。


「よし、クリアだ。吊橋を渡るぞ。」


田中が先を行き、高西を先導する。


「ちょっと待ってくれ、しょんべんがしたい!」


「しゃあねぇな、どこか物陰でしてこい。先に行ってるからな。」


高西は申し訳なさそうに草むらへ行き、用を済まし始めた。

田中は警戒しながら吊橋を渡り、半分近くまで来ていた。

その時、背後でブチッ!という音が聞こえた。


「ん?音?‥」


背後を振り替えると、吊橋を支えている紐が一本、また一本とちぎれている。


「まずい!このままじゃ落ちるじゃねぇか!チクショウ!!」


田中は脱兎の如く、吊橋の終わりに向かって走りだした。

背後で高西の声がする。


「田中ぁ!走れ!とにかく走るんだ!逃げろぉ!」

高西が絶叫してる。

田中は、んな事言われなくても分かってるっつーの。

と余裕がないのに一人思っていた。


背後にはブチブチと紐が切れ、崩れ落ちていく吊橋が田中を飲み込もうと迫っていた。

吊橋の終わりまで後少し、田中は全力疾走していた。


「クソがあぁあぁ!」


吊橋に飲み込まれると思った瞬間、ヘッドスライディングよろしく田中は飛び込み、なんとか陸地にたどり着いた。

肩で息をしながら田中は後ろを振り返った。

吊橋はものの見事に崩れ落ち、谷底にその残骸を確認できた。

残っているのは吊るためにのばされていたロープのみだ。


「間一髪だったな‥」


ほっと胸を撫で下ろすと分断された向こうの陸地で高西の声が聞こえた。


「田中!大丈夫か!?」


心配そうに高西が向こう側から叫ぶ。


「あぁ、なんとかな!ったくとんでもねぇ目にあったぜ!もう少しで殉職だった!」


田中も高西が無事だったようで軽口をたたく。


「それなら安心したわ!これからどうする?」


言われて気付いたが、今使える唯一の道を潰したことになる。

もう一方はテロリストの厳重なバリケードが張り巡らされた一種の要塞化された道だけだが、そこはまず使えない。


「道がこれ以上ねぇって事はまさか俺だけしか行けねぇのか?‥」


田中は愕然とし、落ちた吊橋を眺めた。


「くそっ!この吊橋さえ落ちなければ‥ん?‥」


何気なく見た吊橋にふと違和感を感じた。

田中は慎重に近付切れたロープを見る。


「これは自然に切れた訳じゃねぇな‥鋭利な刃物で半分ほど切ってあったのか。」


ロープは不自然なくらい断面がきれいに切られている。意図的に誰かがロープに切れ込みを入れ、誰かが通ると自動的に吊橋が落ちるようトラップにしてあったのだ。


田中はそれを高西に伝えると高西もそれを確認した。


田中はおもむろに無線機を取出し通信を開始した。


「HQ、こちら山蛇。偵察中に吊橋を渡ったのだが吊橋が落ちて分断された。山鷹は吊橋を渡っていなかったため、白鳥村側には渡っていない。ちなみに、吊橋のロープには意図的に刃物で切れ込みが入れてあった模様。以上。」


今あった事を端的にHQ(本部)に報告すると、すぐに返答が返ってきた。


「こちらHQ、事態は了解した。山鷹には一度こちらに戻るよう通達する。山蛇は引き続き偵察を行いながら白鳥村へ向かってくれ。以上。」


田中は俺一人でやるのかと思い返答をする。


「こちら山蛇、了解した。ヘリ等での増員または航空支援は受けれないか?以上。」


すぐさまHQから返事がくる。


「こちらHQ、航空支援と増員は受けれない。敵勢力はRPGを保有しているとの情報がある。それと、ヘリではすぐに敵に存在が露見されてしまう。厳しいだろうが一人で全ての任務遂行をしてもらいたい。以上。」


一人で全ての任務遂行だぁ!?

無茶にも程がある!

映画じゃねぇんだからヒーローのようにはいかない。


だがやるしかない。

今動けるのは俺しかいない。

俺はただやれる事をするのみだ。

命令されたらそれを遂行する。途中で投げ出したりなんかできない。

それが自衛官だ。


とにかく俺の行動によって暁鈴音の命運が決まる。


「こちら山蛇。了解した。ただいまから状況を開始する。」


たった一人だけで救出任務か‥

無謀にも程がある‥

やらなきゃ暁鈴音が死ぬだろう。

潜入任務スニーキングミッションだな。


田中は決意を固め、89式小銃を握りしめ険しい林道を進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ