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SOLITUDE WAR  作者: トロワ
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FILE2 監禁されし者

ここはどこ?‥

あれ?私は何してたんだっけ?‥


確か、大学終わって帰ろうとしたんだよね。

そこまでは記憶あるんだけどそれからどうしたんだろ?‥


迎えの車はどうしたのかしら‥

いつもならでっかい車で待ってるのに。


暁鈴音はぼんやりした頭で記憶がなくなる以前の出来事を反芻していた。

周りを見渡しても見えるのは狭い部屋で木の床と、入り口だろう場所には鉄格子がついてるだけ‥


「って、えぇぇ!?鉄格子!?」


一人驚きを惜し気もなく声に出してぶちまけた。


そう、鈴音がいる場所は簡単に言うなれば座敷牢。

堅牢な鉄格子に守られ、中にいる者を決して逃がさない檻だった。


「私なんでこんな所で閉じ込められてるの?」


首を傾いでうーんと唸りながら考える鈴音。


「まーったく分かりません。」


そのまま鈴音はポケットから携帯を出そうとまさぐる。しかし、ポケットには何もない。


「ありゃ?携帯なくしちゃったよ。」


困った表情をしていると、鉄格子の向こうの扉が開いた。

そこには大柄な白人が無表情で立っていた。


「オ前、俺タチガ誘拐シタ。オ前ノ父親ガ金ヲ寄越サナイトオ前死ヌ。」


片言の日本語で白人男性は言う。

死ぬという言葉を言う時に、腰のホルスターにつけた拳銃をちらつかせた。


「誘拐?私誘拐されたの?死ぬってなんで?訳わかんないよぉ!死にたくないよ!ここから出して!」


鈴音は死ぬという言葉と拳銃で、これが冗談なんかではない事を悟った。


「俺タチハ金ガイル。ダカラオ前ヲ誘拐シテ要求シタ。モシ払ワナカッタラ代償トシテオ前ヲ殺ス。」


白人の男が無表情でそう言った。

人を、しかも女子供を殺すのを全く厭わない目だった。

彼は殺すとなれば容赦なく誰でも殺すだろう。

そんな雰囲気を漂わせていた。


それを察知したのか、鈴音は目に見える程萎縮していた。

鈴音の顔に浮かぶのは恐怖。ただそれだけだった。


「お願い!殺さないで!私死にたくない!」


必死の懇願も虚しく、白人は無表情に部屋の外からパンと水が入ったコップを鈴音の前に置く。


これが鈴音に与えられた食事なのだろう。

いつもの食事とは比べものにならない。


「飯ダ、食エ。」


そのまま白人は部屋を出て鍵をかけてどこかへ行ってしまった。

誘拐されてから何も口にしてない鈴音は腹の虫が鳴り、前にあるパンを手に取り食べた。


いつもならこんなパン食べもしなかっただろうが、空腹の鈴音にはおいしく感じられた。

一気にパンを胃の中に収めると、水を流し込んだ。

こんな物でも生き返るようだ、と鈴音は一人ぼんやりと考える。



「私これからどうなるんだろ?死んじゃうのかな‥いきなりこんな事になっても実感ないし、訳わかんないよ‥お父さんがお金払ってくれればいいけど。」


ここで暁鈴音の紹介、生い立ちを話そう。

鈴音の家庭は世界屈指の大企業だ。

暁グループという名を知らない者はなく、機械関係や電化製品に始まり、他にも日本では珍しい銃器関連の製造、開発にも着手し、幅広く展開している。



一代で企業を立ち上げここまで大きくしたのは鈴音の父親でもある暁源一の努力と人望だ。

もともとは中部地方の工場で働いていた源一は、人柄もよく純朴な男だった。


ある日、

休日には伯父と山に猟に行き、そこで銃を学んだらしい。

そして、源一がふとした思い付きで会社を立ち上げる。

それが想像以上に発展したのは製品等はもちろん、源一の人懐こい性格と優しさ、器量だった。

もともと源一には経営の天性があったらしいが、それに人の良さが拍車をかけていた。


成功し、金持ちになった源一は、富豪によくある人を見下した態度や、人を外見や着ている服の値段で判断するような事はなかった。

それ故どんな人からも好かれ、頼りにされてきた。


結婚したのも暁グループをを設立する前に、大学で知り合った涼子と結ばれた。

涼子も良妻賢母であり、少々天然でドジなのを笑われるが、夫を影で支えてきた。

源一も今まで妻一筋で、浮ついた話など微塵もなかった。


その間にできたのが鈴音である。

鈴音も同様、両親の性格の良さと、母に似た可愛らしい整った童顔の顔立ちに、天然でドジな所を引き継いでいた。

よく親子揃ってドジをやって笑われている。


源一はそんな所まで似なくてよかったのにとよく苦笑するが、二人のそんな掛け合いを見て和むので本当は微笑ましく思っている。


鈴音は幼少からピアノやバイオリンを学び、料理好きな涼子からも料理も学ぶ。

家にはメイドがいるから実質家事はやらなくていいのだが、涼子の指導方法として家事全般はやれるようにしていた。


学校も名門である所へ行き、現在まで上位の学力を保っていたが、体育は生来のドジを遺憾なく発揮し、からっきしの成績だった。


こんな鈴音にも悩みがあった。

年頃の女の子にある恋愛事情には全くついていけなかった。


今もなのだが、中学時代から鈴音がフッてきた男は数知れず。

街を歩けば高確率でナンパをされ、ほとほと困っているのである。

一度しつこくナンパされた事があり、それから少し男性恐怖症になっていた。

たまたまその時は無理やりどかへ連れてかれそうになった所をどこからか男が現れ助けてくれたのだが、その光景が忘れられなかった。


数人で取り囲まれているのに、一度も攻撃を食らう事なくチンピラどもを鬼神の如き強さで完膚なきまで叩き潰した。

その後、固まっている鈴音に困ったような表情をして笑っている男が、

「野蛮な所を見せてすまない。とにかく君は安全な場所まで行くんだ。これからは気をつけるんだよ。」

と言って、そのままタバコをくゆらしながら背を向けて行ってしまった。


鈴音は今まで男は嫌いだったが、少しだけ考えを改めたのだった。


鈴音の世話がかりにその話をしたら、まず危険にさらされた事を驚き、その後にまだまだいい人がいるもんですね、と微笑んだ。


しかし、いまだに男と接するのは苦手で誰とも付き合った事はなかった。

周りが恋愛の話をしても、鈴音には話せなかったし、周りの女は彼氏が医者だとか、どこそこの企業の御曹司だとか、なにかと金や権威を引き出す。

そんな相手の肩書きだけを見る恋愛はしたくないと鈴音は思っていたのもあり、周りからそんなに可愛いのに何故?とか、鈴音は理想が高いんだねと冷やかされても気にしなかった。




鈴音は特に彼氏が欲しいとも思わなかったし、そのうち運命の人と出会えればいいやとしか考えていないようだった。


そんな単調な毎日が続くと思っていたが、それは脆くも打ち砕かれた。

現に今はこうやって監禁されてるし、もしかしたら命がなくなるかもしれない。


鈴音は今までの事を思い出し少しでも気を紛らわせようとしていた。

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