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何かに答えて、何かに悩んで

 死んだものを甦らせる装置の部品と、死んだものを構成していた肉体的要素をかき集め始めてから──そして、ドクターが死んだその時から──きっと数十年は経った。もしかすると数百年かもしれない。年月はただ長いことしかわからない。この暗い排水溝では年月なんて役に立たない。

 ドクターが死んでからずっとずっと、思い悩んでいたことがあった。どうして彼は自分のことを甦らせてくれと言わなかったのだろう。レバースイッチを下げることができたのはドクターだけで、飢えるまでには時間があった。つまり、ボクもあとで生き返らせてほしいと言うには充分な余裕があったはずだった。けれど、ドクターは仲間のことだけ言及して自分のことには触れなかった。そのまま彼はなにも言わず、出てきた頃にはもの言わぬ遺体になってしまっていた。

 ドクターは生き返りたくなかったんだろうか。部品集めのときも肉体的要素集めのときも、そればかりが気になって、なにもかも億劫になって、すべてを投げ出したくなってしまったことがある。ドクターは本当はボクのことが大嫌いだったんじゃないかとか、ボクのせいであんなことになってしまったのを内心深いところで怨んでいたんじゃないかとか、ボクに限って不遜な妄想を繰り返す日々だった。

 億劫だった日々に転機が訪れるのはたいていドクターとの思い出に浸って、その中で気づかされることがあったからだった。冬の寒いときなんかは排水溝の迷路をなにかに例えてみたりした。暗くて狭いとこよりも、暗くて広いところの方が、まだわくわくするもんだって。そうして嫌々ながら体を動かして、普段行かないような排水溝の奥まで部品探しに出かけてみると、ちょうど探していた試験管がゴムの蓋付きで転がっているのを発見したり、意外な発見に出くわすことが多かった。喜ぶボクに対してドクターは、つまりそういうことさ、と言いたげなしたり顔をしてふんぞり返っていた。

 山あり谷ありを経て、装置作りは最終段階に入ろうとしていた。死んだものを甦らせるなんて、やつらだって成し遂げたことないだろう。これはきっとどこにも記録されない初めての偉業に違いない。まずはドクターの仲間を生き返らせて、それからドクターを甦らせる、それが段取りだ。必要な材料と仲間を知っている仲間たちに聞き回って手に入れた思い出の品を装置に入れて、レバースイッチを下げる。ごうごうと音を立てて装置が動き出し、あとは小一時間待てばいい。

 ごうごう、がくがく、ぐるんぐるん、かんかん、ぴーぴー、しゅうーしゅうー、いろんな音を立ててようやく、やがて装置がぴたりと止まった。

 蓋を開けて中を見てみると、そこにはドクターの狙い通りのかつての仲間らしきものがいた。ゆっくりまぶたを開けてきょろきょろあたりを見渡して、ボクの姿を見るなり驚き、勢いつけて外へ出た。そっか、ここから生まれてくるのはボクのこと知らないんだ。

 何十回、何百回とその作業を繰り返して、次第に肉体的要素が足りなくなってきた。充分な量を集めてきたはずなのに、ドクターの仲間っていうのはとってもとっても多くて、どうやらボクの目算が外れたらしい。そうして残りがドクターだけになったときには、もうほとんど肉体的要素が残っていなかった。それに、ドクターの思い出の品だってボクは持っていなかった。思い出の品はこの装置そのものか、ボクの中にしかなかったからだ。

 この箱の中にボクが入って、ボク自身がドクターのための肉体的要素になってしまえばいいんではないだろうか。元はと言えば、あの時Dr.ワイズマンに捕まって実験台にされてしまうのはボクのはずだったのだ。それが、ほんの少し運命がいたずらをして、ボクとドクターの立場がひっくり返っただけ。本当ならドクターが生きてボクが死ぬべきだったんだ。そうすれば、仲間を生き返らせるのだってこんなに遅くなることなかった。ドクターが箱の中で、途方も無いほど恐ろしい経験をすることもなかった。

 ドクターがそうしたように、ボクは箱の中に入った。ドクターと同じ時間だけの長さでタイマーを設定して、自動運転ですべてが終わるように仕向けた。そのあいだ、ボクはただ、ドクターとの思い出を目いっぱい頭に思い浮かべた。

 そして、決して短くはない時間そうして、ボクはついに──。

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