雨降り関所
親と子。子を思う愛情をロウスは溢れさせる。その一方、刻一刻と目的地に列車は走る。
『まもなく【サンレッド】に到着します。隊長、指示をお願いします』
ルーク=バースは運転技士のマシュより通信を受ける。そして、各隊員に向けて小型通信機でこう指示をするのであった。
「戦闘準備を整えて到着しだい、二手に別れて俺が合図するまで待機っ!」
そして、列車は徐行を始めてその時を待ち構える……。
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紅い列車、雨に打たれながら【サンレッド】に到着する。駅舎の壁一面に蔦葛が埋め尽くされている隙間から覗く雨樋の口から雨水が激しく噴き出していた。
ルーク=バースは息を潜めて車窓越しに閑散としてるプラットホームを凝視すると小型通信機を通して「マシュ、乗降口を開けろ」と指示をして、ただ一人列車から降りていく。
「傘ないんだ。屋根無しの所に降ろすと《宝》が風邪ひいてしまうぞ」
――任務終了時刻。予定通りに到着するとはな……。
威圧的な声の軍服姿の中年男がこつり、こつりと改札口より靴が鳴る音を響かせながらコンクリートの通路を踏みしめて近付いてくる。
「ルーク《宝》をこちらに引き渡せ!」
バースは降り注ぐ雨水を軍服に含ませて
「アンタが《宝》の引率者か?」
そう言うと口を閉ざして、男に視線を向けたままでこんな思考を膨らませていた。
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目の前にいるおっさん。俺にとって最悪な奴だ。
〈軍〉には幾つか部隊がある。5部隊に一人、まとめ役の指揮官がいる。その更に上がこいつだ。何でこんなところに居るんだよ? なんてツッコミを掛けたいがそんな余裕はない。
蛇に睨まれた蛙状態。油断したらあっという間に呑まれてしまう。
師匠、あんたは変わっちまった。かつての英雄の面影が見当たらない。一体何をどうしたらそんな風になれるのか? その理由を教えてくれよ――。
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「重ねて言う《宝》を引き渡すのだ!」と男は声を轟かせ、バースに剥ける。
「やなこった!」
「――。相変わらず、ふざけた態度を示しやがる! 幾度、その事でワシを手こずらしたのだ」
「けっ! 逆恨みだろ? 俺は上層部に上がりたくない。何べんも言ってるだろ!」
「その歳で階級が上がらないのは、おまえにとっては《恥》をさらしてるようなものだぞ!」
「あんたがだろ?」
「やかましいっ!」
男は激昂しながら薄い頭髪に手櫛をする。
「ぶふっ。セットするぼとのボリュームなんてないだろう?」
「いい加減にするのだ!」
男はゆっくりと右手の指先を伸ばして空に向けて腕を振り上げると駅舎からぞろりと軍服姿の集団が現れる。
「マシュ〔紅い風〕を移動させろ」
バースが通信を終えると同時に武装する隊員が6人の姿がプラットホームに現れる。すると列車は“光”に包まれ“粒”を解き放しながら雨の水滴を掻き分け消えていった。
「〈対峙〉をえらんだか?」
「あんたは見抜いていた筈だ。俺達が抵抗すると、こいつを通してな!」
バースはそう言ってズボンのポケットに右手を挿し込んで握りこぶしを男に差し出してその掌を開いていくと押し潰されている黒色の固体が現れる。
「ほう?《虫》が、よく見えたな」
男は不気味な笑みを湛えながら言う。
「《宝》が虫取網で捕まえた。ご丁寧に籠にいれて飼っていた」
バースは腕を振り上げると固体を足元に叩きつける。そして空かさず踵で踏みつけて粉になるほどに擂り潰し捲った。
「行くぞ! おまえたち」
バースは掌から“橙の光”を輝かせ剣の象を表していく。
ーー了解!
6人の隊員も其々の“光”で雨雲を貫かせ吹き飛ばすと雨は止み陽の光が眩く空を朱色に染め上げていった。