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梁の燕〈後編〉

 シーサを愛おしく腕の中に抱くロウス。誰もがその微笑ましい光景に、見とれていた。

 そんな最中、勇気を決するかのようにアルマが口を開く。

「念の為に訊く。シーサとどの様な関係だ?」

 いまだに泣き止まないシーサの背中を擦るロウスはこう、返答した。

「お気付きのように、私の娘です」


 ちっ、先を越されていた。


「バースさん、今何て仰ったのですか?」

「独り言だ。文句あるか? タクト」

 舌打ちして呟くバースに、タクトは怪訝となる。その様子をロウスは微笑すると、深呼吸をしながら《娘》との経緯を明らかにしていく。


 その事実は、余りにも衝撃的だった。ロウスが語る途中でシーサはアルマに抱っこをせがむ。

「何だ、俺は用済みか?」

 嫌み混じりのロウスの言葉にバースが「コラッ! ロウス」と険相しながら叱り飛ばす。

「《娘を持つ父親》を業としただけだ」


 ロウスが語る全貌の幕が上がる……。



 ======



 娘が《育成プロジェクト》のメンバーに選ばれていた。その事実を知ったのは、護衛任務開始直前に目を通した乗車名簿だった。直ぐに妻に通信をする。しかし、その返答はあやふやにされてしまう。


 ーー貴方が知る必要はない。


 納得する訳にはいかず、列車が走り出す寸前まで答えを求める。そして、通信を拒否されると、車内にいる娘とこんな約束事を交わすのだった。


 ーーお父さんというのは内緒にしよう。


 その言い付けの通り、どんなに近くに居ようとも《親子》であると悟られないようにする。陽光隊だけでなく、乗車する子供達にもだった。


「奥さんはシーサを《育成プロジェクト》のメンバーに最初から撰んでいた?」

 タクトはそんな臆測を、ロウスに問い詰める。

「妻は【マグネット天地団】の職員。例の企画の為、家にいる事は殆どなかった。久しぶりに帰宅したと思ったら、娘の手を引いて……。其れから一ヶ月後にとんぼ返りだった」

「嫁さんは何の目的で、娘を結果的には振り回す事をやらかしたのか?」

 バースは感情的になり、ロウスにそう訊く。

「最初は妻も娘と過ごしたいと想いから、その様な行動を取ったと解釈した。しかし、其れは完全に間違いだったと気付いたのは、あの時、臨時停車したその最中で発生したアクシデントだった」

「ザンルの“地形の力”をシーサが習得した騒動だろう? 私も診たが、意図的に“力”を植え付けられていた。その目的は何か? とタクトと抗論した」

「アルマさん、僕の事を『子供』といい放ちましたっけ?」

「……。続けろ、ロウス」

 アルマは咄嗟にタクトの頬を指先で抓み引っ張りあげる。


「娘は元々“力”は無かった《育成プロジェクト》のメンバーに何故選ばれたのかが解らなかった。そして、アルマさんが仰った通り移植された“力”によって備えられてしまったのです」

「“習得の力”だったばいた。目でそっば直接見るとが特長ばいた。おどん達ごたん《大人》の“力”は尚更習得しやすかった」

「ハケンラット。すると何だ? シーサの“力”は最初から俺達からの“力”を掻っ払う目的だったと言うのか」

「だんな、これ以上この件をほじくりかえすのは止すばいた。一番むごか思いばしたとは、ロウスと娘っ子だったとよ!」

「いや、何れこうなる事は覚悟していた。結果的には迷惑を掛けたのだ。バース、直ちに俺をーー」


 バカちんっ! ロウス以外に誰が美味い飯を拵えるのだ?


 バースの罵声に誰もが沈黙する。ロウスも呆然とした形相を剥き出していった。


「バースさん、本当にご飯を中心にされているのですね?」

「黙れ、タクトッ! それでもって、今から指示を下す」


 此処で語られた事は、如何なる事情があっても内密にせよっ! 其れにロウス、おまえは一度秩序を乱している。その理由を今開示するのだ。


「バース、俺は……」

「命令だっ!」

 鼻息を荒くしながらバースはそう言うと、アルマがその姿を肘で押し退ける。


「私が代わりに訊く。あれは、バンドに指示したのにおまえが名乗った。其れも子供達ばかりの車輌の警護にだった。先程の説明と関係するのだろう?」

「……。少しでも、娘の傍に居たかった。ただ、其れだけです」

 ロウスはその言葉と共に目から涙を溢れさせる。掛ける眼鏡のレンズに雫が滴り、更に曇る。掌で目頭を擦るものの止める事が出来ず、ついに嗚咽を交えてしまうのであった。


「ロウス、シーサを今一度強く抱き締めなさい。そして、私達も誓う。お前達親子が二度と離れる事がないように、断固として護るとな……」

「ありがとうございます。アルマさん……」


 シーサ、父君が招いている。さあ、お行きなさい……。


 アルマの促しにシーサは躊躇う仕草をするが、その微笑みに安堵すると、ロウスに向けて両手を差し伸べる。


「おとうさん、泣いてるの? シーサがだいじょうぶしてあげる」

「……。ああ、大丈夫だよ。お父さん、シーサとずっと一緒だよ」


 娘に宥められる父の姿に、誰もが胸を熱くする……。

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