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波瀾転送

 紅い列車の9両目。其処は学童期と幼児期、計16名の子供の座席兼、寝台である。入浴、食事は隊員達と共にする一方、勉学、或いは遊戯などの時間を提供する為に、娯楽、学習室という名の車両も備えられていた。

 因みに、子供達は三班編成で組まれ、その最年長がリーダーシップを発揮する役目を担わされていた。

 基本は子供達を主体にする。但し、緊急事態が発生した場合は、危機より回避する行動を迅速に行うこと。其れが、護衛任務開始前の上官からの指示であった。


 ルーク=バースは通信室にロウスを残し、隊員達に向けて緊急配備の指示を申し送る。そして、ある思考を膨らませていた。


 蜂の巣トラップ、軍の資料室への転送、列車の減速。

 《団体》が子供達の護衛依頼した。その妨害を実行、または主犯は果たして誰なのか。

 ロウスもまた、ある意味で被害者。憶測とはいえ《軍》と《団体》に対して繋がりを持たせつつ、自身の“力”をたったひとつだけ残した意図は何か。


『バースさん。9両目だけ、乗降口が開きっぱなしです。扉の開閉システムの確認をお願いします』

 バースは腕を組んだまま、左耳に装着する小型通信機を通しての、タクトの報告に我に返る。

「了解。ロウス、乗降口の開閉システムにエラーがないか?」

「全くもって正常だ!」

 ロウスは瞬時にシステムのデータをアップさせ、バースにそう、告げる。


「タクトとアルマはそのまま子供達を警護。他の隊員は、車内に侵入者が要ることを想定して、警戒体制を怠るな!」

『バースッ! 扉はどうやって閉めるのだ!!』

「慌てるな! アルマ、手動で駄目ならニケメズロを向かわせる」

『呼んで下さいっ! あっ』


 タクトとの通信の最中、車内が激しく揺れると同時にキンキンと耳が裂く程の雑音が入り、バースは咄嗟に小型通信機を外すと激痛に堪えるような形相を剥けていった。


「畜生っ!」

「バース、何が起きたのだ?」

「ロウスッ! おまえは、絶対に此処から離れるなっ!!」

 バースはそう、言い残し、通信室から駿足で9両目に向かって行く。


「アルマッ! 何をするつもりだっ!!」

「馬鹿野郎っ! タクトを見捨てるつもりなのか」

 加速が増す列車の風圧を開く乗降口より受けて、尚且つ今にも飛び出す仕草のアルマを、駆け付けたバースが掴み、更に通路の床へと押し込む。

「教えろ。タクトはどうした?」

「私は……タクトをーー」

「言い掛けるな!」

 バースの罵声とともに、アルマは全身を震わせ嗚咽する。

「……落ち着け、アルマ。おまえを責めたつもりはなかった」

「どうすれば良いのだ?このまま、タクトが……タクトがーー」

 アルマはバースの腕の中に抱かれながらか細い声で報告し、頬を濡らしながら脱力していった。


「冗談じゃねぇよ……。ん? どうした、コータ」

 バースがアルマを抱えて茫然としていると、一人の少年が目頭を赤くしながら側に歩み寄って来て、告げられる言葉に衝撃を覚える。

「判った……。後は俺達に任せて、おまえはメイとベクトルと共に子供達から目を離すな」

 バースはアルマを抱き上げると隊員の個室車両へと靴を鳴らしていった。



 ========


 一方、タクトは列車の振動の衝撃で通過中の鉄橋の下で流れる河に投げ出されて濁流に呑まれていた。


女児を硬く腕の中に抱きながら、思考を掻き回すーー。


 ーーああ、僕、こんなところで終わってしまうのかぁ……。アルマさん、バースさん、陽光隊の皆さん、コータ達、ごめんなさい。でも、シーサだけは……。


 ぶくぶく、がほがほ。

 

口より気泡を吐き出し、その流れにひたすら身を任せていく。

 程好い眠気が襲い、朦朧となっていると、きらり、と、目蓋に眩しさを覚え、更に囁く声に耳を澄ませる。


 ーータクト“力”を発動させなさい……。


 かぷり、と、無数の泡の隙間より声の主の顔に虚ろな眼差しを向けると、唇を硬く閉じて目蓋を大きく開いていく。


 タクトは全身を蒼く輝かせ、水面へと視線を反らすと水飛沫をあげて一度空中に飛翔し、背中を向けて川岸の草むらに堕ちていった。


「はぁっ!! シーサ?」

ぽたぽたと、前髪より滴る水が目の中に入り視野がぼやける。手の甲で水滴を払いのけて、抱くシーサの名を呼び続ける。


微かに身体が動くと、掌が感触を覚えるタクトは腰に装着するポシェットから筒型の容器を取り出すと、シーサの額に赤い突起物を押し当てる。


シーサのの身体を薄紅の光が包み込む。瞬きは綿菓子が溶けるように消えていき、目蓋がゆっくりと開いていく。


タクトは、呼吸をするのを忘れてシーサを硬く、強く抱き締めていく。


「お兄ちゃん、ほっぺがごつごつして嫌だよ」

「あは。シーサのこと、むぎゅって強くし過ぎちゃったね?」


「ちがーう」

 軍服の左胸のポケットにシーサが指を差すと、タクトは其処に右手で感触を確かめて更に取り出した固体に愕然とした形相を滲ませていく。


「転送装置。シーサ、これで直ぐに皆の処に戻れるよ」

「チョコレートみたいっ!」

「もうすぐおやつの時間だからかな? ちょっと待っててね!」

 

 タクトは装置の端末を操作して画面に表示される〔実行〕に指先を触れさせる。

 タクトとシーサの身体が地面から離れ無数の光の粒が張り付くと、灰色の雲へ目指すように弾け飛んでいった。


 ぱっ、と閃光が目に眩む。背中に硬い衝撃が襲い、激痛に暫く耐えて漸く転送された場所の確認をする。


「おかしいな。特定の人物の場所に行けるて表示があったから……あれ?」


 焦りを含ませて転送装置の画面を覗くと、ぱかぱかと、文字を点滅させていた。


 〔転送先→アルト〕*完了しました*


「ははは。綴り、確認してなかった」


 石畳の道、木造の家屋を囲む煉瓦の塀。その角にうっすらと朱色の炎を焚きあげる街灯に照らされ、影を落としていた。


 茫然としていると、背後から「キミと一緒にいるお兄さん、軍人さん?」と、幼い子供の声に我に返り、更に追い討ちを掛けるように、愕然となる。


「えーと、ねぇ。れっしゃからどぼーん、て、かわーー」

「駄目、ダメーッ! それ以上は、シーッしてぇえ!!」

 もがもがと、シーサはタクトの掌で口を塞がれ、ぷしゅぷしゅと、その息を指の隙間から吐き出していく。


 ーー其処の兄ちゃん、顔を見せるのだ。


 タクトは身体を硬直させて恐る恐る、声の方向に振り向いていく。


「お、お久しぶりです……。ダビットさん」

タクトはシーサの背の高さで腰を下ろして苦笑いを湛え、くしゃみを連発させていった。

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