夜明けの英雄
目指すは【ヒノサククニ】と、ルーク=バースを筆頭にした11名編制の〈陽光隊〉が護るのは、16名の《宝》という子供たちだった。
だが、目的をはたす為には難題を突破しなければならなかった。
紅い車体の列車は《宝》の護送を【サンレッド】までとなっていた。言うまでもなく〈陽光隊〉の任務は其処で終了するはずだった。
到着した【現地】で待ち構えていたのは、ハーゲ=ヤビンという〈陽光隊〉を含めての最高司令官。バースにとっては、かつての《戦》の英雄と称えるとともに〈師匠〉と仰ぐ人物だった。
バースはハーゲ=ヤビンと対峙する。最中で隊員のタッカがハーゲ=ヤビンが放った《闇》で倒れ、タッカを残して決着がつかないままで撤退を余儀なくした。
そして、今。タッカはタクト=ハインとバンドを連れてのバースによって紅い列車に戻り、アルマとロウスの妻であるエターナの連携によって《闇》から解放された。
物語は、急行。
バースはロウスが淹れた珈琲を啜りながら、今度は逃げることが出来ないハーゲ=ヤビンとの決着を待ち構えるーー。
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「アラ、いやだぁああ。タクトくん、何てモノを持ち歩いているのヨ」
顔だけ女装、筋肉質のザンルが列車の5両目から6両目へと移動するタクトを呼び止める。
「ああ、これですか? タッカさんを助ける時にくっついていたのです。バースさんは『燃えるゴミの日に出せ』なんて、おっしゃってましたっけ」
タクトは黒い塊をゴムのように両手で引き伸ばし、ザンルに見せて言う。
「きゃあっ! それ以上いじくったらダメダメッ!! タクトくん、早く『それ』を燃やしましょう。もちろん、列車の外でヨッ!!」
「ゴミを燃やす日は護衛任務期間中、一日おきのしかも日中が決りでしたよ」
タクトの鋭い目つきと棘のある言い方にザンルはいぶかしいことと感じる。かといって、タクトに刺激をあたえるような行動と発言は出来ないと、ザンルは思うのであった。
「タクトくん、ワタシたちの『護衛任務』は【サンレッド】に到着した時点で終わってルの。つまり、今は任務中でもなんでもないから、ゴミを燃やすのはいつでもイイのヨ」
「【国】を……目指してたどり着く。そう、みんなと誓ったのは、ザンルさんは嫌だったのかな」
タクトは声色を野太く低くして、口を細めていた。
「……。ワタシの知っているタクトくんは、素直でいい子なの。もちろん、大将とアルマちゃんだって『そっち』のタクトくんを信頼しているワ」
ザンルは、顔を汗まみれにしてタクトを凝視しながら身を構える。
「ふう」と、タクトは口から息を吐く。
「タクトくん、子どもたちはぐっすりと寝ているの。お願いだから大騒ぎをしないでネ」
ザンルはうでまくりの仕草で一歩ずつタクトへと近づく。
「ザンルさん、ごめんなさい。バースさんに、アルマさんにやっぱり内緒にしといてくれますか」
「何をいっているのかさっぱりヨ。タクトくん、困ったことがあるならば大将とアルマちゃんはちゃんと助けてくれるのは、アナタがいちばん知っているでしょうっ!」
「だから、なおさらなのです。僕は、おふたりに幸せになってほしい。バースさんが今度本当にいなくなったら、アルマさんが……アルマさんはずっと泣いてしまう」
タクトは手に持つ黒い塊を固く握りしめ、そしてーー。
ーータクトくん、だからダメだってばぁああっ!!
ザンルが呼び止めるのもむなしく、タクトは全身を蒼く輝かせるとあらわれた黒い粒子の渦のなかに吸い込まれるように消えていくーー。
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「そうか……。わかった、ザンルは他の隊員とともに列車内で警護をするのだ。特に子どもたちがいる車両は厳重に行え」
バースは小型通信機でザンルからの報告をうけた。
右手を強く拳にして歯をくいしばり、肩を震わせた。
「バース……。何があったのだ」
バースの傍にアルマがいた。
バースの顔つきが変わるのは、決まって非常事態が起きる。それだけではないのだが、これまでの『事態』から思い起こせば特に強く、険しいとアルマは感じていた。
「あのバカちんめ。自分は格好つけてるつもりだろうが、結局世話をやかれるなんて考えなしのところがまだ『子供』だよ」
バースは左耳から外した小型通信機を、破損させるほど左の掌で強く握り締めた。
「バース。壊した通信機をニケメズロに修理させるから、こっちによこすのだ」
「そんな時間はないっ! 今すぐタクトを追いかけるぞ」
バースは床に壊れた小型通信機を叩き落として右足の踵で踏み潰すと、アルマの右手を握りしめて左の手で目の前に見える列車の乗降口を手動で開ける。
「私がついていって良いのか?」
「今度ばかりは、アルマ……おまえの手助けが必要だ。おまえなら『あいつ』に理由はないと、俺は思う!」
「御意っ!」
アルマはバースの手に引かれて、扉が開かれる列車から軽やかに飛び降りるーー。