彩、虹色の灯
“光”は【遺跡】を抜けて夜空を翔ていく。目指す先はただひとつーー。
ーーアルマさんっ!
タクト=ハインの声が、紅い列車で帰りを待つアルマの眠気を覚ます。
アルマは椅子から腰をあげると窓際へと靴を鳴らしていく。
窓のむこうの夜の帳を見据えるが、顔色を曇らせる。
「アルマ、何かを感じたのですね」
傍に声をかけるエターナが歩み寄り、アルマは我に返る。
「確かにタクトの声だったが、私は寝ぼけていたのだろう」
「いいえ、間違いなくタクトさんの“光”でした。私にもはっきりと感じとれるほどの勇ましい“力”をです」
「私はどうすれば良いのか」
アルマはエターナに振り向いてか細い声で言う。
「私もお手伝い致します。だから、あなたの“紅の光”で彼らを迎えてあげなさい」
エターナは優しく微笑み、アルマの右手を両手で包み込む。
「お気持ちに感謝をする。しかし、タクトは私に呼び掛けた」
「ふふふ、わかったわ。さあ、急いで準備をなさい」
アルマは顔を赤らめる。そして、頷いて瞳を澄みきらせるとエターナの両手が解れていく。
ーー今ここに、虹色の灯を……。
アルマは、凛として澄みきる鈴の音を響かせるように、唇を震わせて詠い始めるーー。
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「ありがとう、アルマさん」
タクトはアルマの詠いと自身の“光”を繋げる。
ーータクト、待ってるから……。
温かく、穏やかな“紅の光”が包み込む。タクトはアルマの呼び掛けに笑みを湛えていた。
「ええ。でも、バースさんとバンドさん。そして、助けたタッカさんまでいますよ」
ーー“光の路”を繋げているの。今は帰り着くことだけを考えて……。
「タクト、だから言っただろう」
「嫌だな、バースさん。僕とアルマさんが“同調”した声を、しっかりと聴いていたのですか」
「バカちんめ。おまえがでかい声で喋っていただけだ」
バースはタクトの頭に軽く拳を落とす。
「たぶん、バースさんは振り落とされますね」
「なんだよ、どさくさに紛れてアルマに抱きつくつもりなのか」
「アルマさんだけでみんなを受けとめられないと、思ったからです」
「おいおい、お二人さん。今の状況を考えくれ」
タクトとバースの小競り合いに、バンドは業を煮やして堪らず口を突く。
「だとよ、タクト」
「はい、バースさん。では、気を取り直してーー」
アルマが示す“光の路”にタクトとバース。そして、タッカを抱えるバンドは靴底を押し当てる。
風圧のような衝撃と眩い虹色の光。受けて、浴びての中で誰もが辿り着く場所を思い描く。
「タクト、先に行け」
バースはタクトから離れると、背中を右手で押して言う。
「バースさん、あの……」
タクトは振り返りながら喉を詰まらせる。
「ここまで来れば、俺たちだけでも列車まで辿り着ける。だろう? バンド」
「ああ“路”を目印にすれば良いだけだからな、アニキ」
バンドが顎を突き出すと、タクトは目の前の光景を見つめる。
「そうでした。この“路”は、アルマさんが示してくれたのですからね」
ーー皆さん、紅い列車でお会いしましょう。
タクトは手を振ると“光の路”に一度踵を落とし、宙に舞う。
身体を風まかせにさせて、ひたすら目を凝らす。
ーーおかえりなさい……。
柔らかく、穏やかな声にタクトは導かれる。
虹色の光は反物のように帯となり、タクトは帯の先端に右腕を伸ばすと手で掴む。
ーーアルマさん、ただいま。僕、僕たちはタッカさんを連れて帰ってきたよ。
帯を手繰り寄せると、アルマが両手を差し出していた。
タクトは手を離す。そして、アルマはーー。
タクトを両手で優しく包み込んでいった。
ーータクト、タクト……。
耳元で繰り返すアルマの囁き声。タクトは眠いと目蓋を綴じると、柔らかい感触の心地好さとともに、寝息を吹くーー。




