暁の勇
ルーク=バースは【センダ坑遺跡】の横穴にタッカがいると確信した。
タクト=ハインはバンドの“灰色の光”を“蒼の光”に交ぜて、真っ直ぐと翔ぶように駆けていった。
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「タッカさん、僕達はあなたにたっぷり恩着せがましくすると、決めていますからね」
タクトは〈人の象〉に触ると手の痺れに耐えながら呟く。
ーー待て、こんな“なり”ではみっともない。
「身なりを気にしている余裕があるならば、大丈夫ですよ」
ーータクト……。
「バースさんとバンドさんを待たせています。つべこべ言わずに帰りますよ」
ーー俺は《闇》になりかけている。
「関係ありません」
タクトは、口を突く〈人の象〉の“影”を両手で捻りちぎる。
ーーぐぅわああっ!!
鼓膜を破るような叫びにタクトは耳を塞ぐをすることなく、右腕でタッカの身体を抱えながら左手に一枚の反物になった“影”を握りしめて“加速の力”を発動させるーー。
「バンドッ! 転送装置の作動を準備しろ」
バースは近付く“蒼い光”に目を凝らしながら合図をする。
「アニキ、装置のエネルギー残量がーー」
「かまわんっ!」
バースがタクトの腕を掴むと同時にバンドは転送装置を作動させる。
「バースさん、タッカさんにくっついていた《影》はどうしますか?」
「燃えるごみの日に出せっ!」
「アニキ、転送装置のーー」
「バンド、もたもたするなっ! タッカがどんな状態かは見てわかるだろうっ!!」
バースはバンドから装置を奪うと、転送装置を作動させたーー。
ーーふぁははは……。
ーーけっ! あんたが何を考えているのかさっぱりだ。
ーールーク、タッカに突き刺している〈闇の矢〉を抜くことは出来ない。それでもタッカを連れていくのか?
ーー仲間だからだ。
ーー今度はどちらも身を引くわけにはいかない。良いな?
ーーそれまでにはタッカから《闇》を引っこ抜いてやるっ!
ーーおまえたちが、仲間の元に帰れたらだかな……。
「《闇》に染まったあんたに指図される覚えはねぇよっ!」
バースは転送移動の最中に呟く。
「アニキは誰と喋っているのだ?」
「バンドさん、それより装置のエネルギーを気にしましょう」
「タクト。おまえの“力”をーー」
「バカ野郎っ! タクトの“力”をあてにするな」
バースはバンドの腕を掴みながら叫ぶ。
「バースさん、止してくださいっ! バンドさんが落っこちてしまいますよ」
「こいつがひとりで翔んでくればよかっただろうっ!」
「無茶苦茶だ。俺の“力”は底なしではない」
「鍛え方が足りなかっただけだろうっ!」
「お二人とも僕の耳元で騒がないでくださいっ!」
タクトは抱え直しては落ちそうになるタッカの顔色を見る。
「タクト。こうして騙し誤魔化してはいるものの、どうしようかなぁ」
「バースさん。僕、タッカさんの為に“力”を結構使ったから、無理ですよ」
「反動病になっても良いぞ」
「良いのですか? 僕、アルマさんにまた治療してもらいますよ」
「……。嫌だ」
転送移動の速度が徐々に緩かになると、バースは自覚をしていた。
「『タクトの“力”をあてにするな』と、俺に喧しく言ったのは誰だった?」
「はい、ボクです。バンドさん」
「僕の真似をしないでください」
タクトはバースを睨む。
ーー路を……。
「バースさん、エターナさんがされようとしていたことを覚えていますか?」
タクトは『あの時』のエターナの言葉を思い出して、バースを促した。
「『引く』とか言ってた。それが何だ?」
「【遺跡】にはエターナさんが知っている何かがあった。知っていたから、そういうことが言えたのです」
失速をする最中だった。
バースは転送装置の画面の表示を見据える。
「エネルギー残量の警告が出てる。タクト、おまえが『あいつ』に“光”を示してくれ」
「アニキ、あんたはどうするのだよ」
「心配するな。バンドは、万が一に備えとけ。俺はタクトの補助をする」
「僕が示して良いのですか?」
タクトは抱えるタッカをバンドに預けながら言う。
「『威力がない』とがっかりはしていたが、おまえの“光”を感知することは、余裕で出来る」
バースはタクトの背中に右手を押し当てると転送装置をズボンのポケットに入れて言う。
「みんなで帰る……。約束を守ってくださいよ」
「おっかない声でいうな。どれ、ちゃんと前を見て意識を集中しろ」
「了解」
タクトはバースの“光”の温もりを背中で受け止める。
ーーアルマさんっ!!
転送移動が止み、暁に輝く光の路が真っ直ぐと何処かを目指すかのようにのびていったーー。