空の始まり
未だに消息が掴めないタッカ。
経緯は【サンレッド】にて、ハーゲ=ヤビンとの対峙。苦戦の末にルーク=バースは、ハーゲ=ヤビンが解き放った“闇の矢”を左足首に刺したままのタッカを残して撤退を選ぶ。
向かった先は、対峙となる前に紅い列車を転送させた場所。
ルーク=バースが今居る場所が何処かと漸く気付いたのは、脇に抱えるアルマと西の地平線に沈む陽を見つめる最中だったーー。
「マシュめ」
バースは歯を見せながら呟く。
「あの日が、もう何年も前の出来事のように感じる」
「ははは。すっかり忘れちまっていた」
アルマが言う『あの日』の場所が偶然に同じであることを、バースは笑い飛ばす。
「呆れた奴だ」
アルマの鼻息がバースの頬を掠め、バースもお返しにと口より息を吹き込んでいく。
「まだ、じっとしていろ」と、バースは退くアルマを腕の中に手繰り寄せる。
「バース、私はおまえにーー」
「ああ。だから、もうひとりで抱え込むな」
「時が来たら、打ち明かすつもりだった。私とロウスの嫁の関係も含めてだ」
「そんなもん、やるべき事をやった後で訊く。アルマ、おまえならどんな事かはわかるだろう?」
ーータッカと『あの方』を救う……。
アルマが思いを馳せると、バースはある方向を見つめるーー。
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「タッカさんは、其処に居る?」
紅い列車で、ルーク=バースとアルマの帰りを待つタクト=ハインは、エターナが言う『場所』に半信半疑と云わんばかりの口調となる。
「【国】で罪を犯した者の流刑所。太古の〈国の民〉にとっては、資源の採掘所だった。彼等は其処で罪の根底である《闇》を廃棄して更正を図った」
エターナは、身に纏う衣の袖を靡かせて言う。
「大昔、僕達が住む大地でそんなことが繰り広げられていた。罪を償うのと《闇》の処分場代りにしていた」
「【国】の過ちを他の大地に棄てる。今では、とんでもない行為ですよね? タクトさん」
エターナは、数珠繋ぎの玉石と金色の鉱石が施されている首飾りを外すと、左手首に巻き付ける。
「《センダ坑遺跡》までの路を引きます。おふたりが戻られたら向かわれてください」
「エターナさん、貴女は一体何者ですか?」
タクトは怪訝な面持ちでエターナに訊く。
「先ずはタッカさんを助ける事を考えなさいっ!」
エターナの剣幕とタクトの脳裏に浮かぶ姿が被る。
「強い意思を持つ女の人には敵いません。見れば見るほどよく似ています」」
「……。タクトさん、私は空の始まりを忘れていた。受け継ぐ“力”を幾度捨てようかと迷いもした。あの娘もそうだった」
ーー『迷いをして“力”を捨てる』が正しいかと思います。
「姉上」
救護室に入るアルマが、エターナを見つめながら言うーー。